雪山に捨てられたオメガ薬師、瀕死の白獣を助けたら国の英雄に求婚されました。もふもふ公爵様の執着愛が止まりません!

水凪しおん

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第8話「華やかな夜会、毒を秘めた花々」

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 王宮の大広間は、数えきれないほどのシャンデリアの光で満たされていた。
 煌びやかなドレスや礼服に身を包んだ貴族たちが談笑し、グラスを傾けている。
 その中心に、ザイラスとリヴィが現れた瞬間、会場の空気が止まった。
 漆黒の礼服を着こなすザイラスの圧倒的な美貌と、その隣に寄り添うリヴィの清楚で儚げな魅力。
「あれが噂の……?」
「辺境で拾ってきたオメガだとか」
「まあ、なんて地味なのかしら。公爵様には釣り合わないわ」
 扇子の裏から聞こえてくる、あからさまな嘲笑と嫉妬の声。
 リヴィは緊張で指先が冷たくなるのを感じたが、ザイラスが繋いだ手に力を込めてくれた。
「堂々としていろ。お前は誰よりも美しい」
 その言葉を支えに、リヴィは顔を上げた。
 挨拶回りが始まると、多くの貴族がザイラスに群がってきた。
 その中から、一人の派手な衣装をまとった青年が進み出てきた。
 甘ったるい香水の匂いが、鼻をつく。
「お久しぶりですわ、ザイラス様。無事のご帰還、心よりお喜び申し上げます」
 流し目でザイラスを見上げるその青年は、あからさまに体を擦り寄せてくる。
「……バロン家の令息か」
 ザイラスは冷淡に応対するが、青年は構わずリヴィの方を向いた。
「あら、こちらが新しい……愛玩動物(ペット)ですか? 可愛らしいですけれど、随分と安っぽい匂いがしますわね」
 周囲の貴族たちがクスクスと笑う。
 リヴィのフェロモンが薄いことを当てこすった言葉だ。
 ザイラスの瞳に怒りの炎が灯る。だが、リヴィは一歩前に出た。
「はじめまして。リヴィと申します。……ところで、あなたからは『トリカブト』によく似た香りがしますね」
「はあ? 何を言っていますの? これは最高級のムスクですわよ」
「いいえ。ムスクの下に隠しているその香り、神経毒を含む『青紫の月草』の成分ですよ。美容に良いとされていますが、使いすぎると肌が炎症を起こし、最悪の場合は壊死する副作用があります。……もう首元に、黒い斑点が出始めていませんか?」
 青年の顔色が変わり、慌てて首元を押さえる。
「そ、そんな……嘘よ!」
「嘘ではありません。僕は薬師ですから。すぐに使用をやめて、解毒効果のあるアロエ水を塗ることをお勧めします」
 リヴィの的確かつ冷静な指摘に、周囲の空気が変わった。
 ただの田舎者だと思っていたオメガが、王都の貴族さえ知らない高度な知識を持っている。
「ふん……覚えてらっしゃい!」
 青年は顔を真っ赤にして逃げ去った。
「やるな、リヴィ」
 ザイラスが愉快そうに口角を上げる。
「彼のためを思って言っただけだよ」
 リヴィはあくまで純粋に答えたが、その天然ぶりが逆に周囲の貴族たちを戦慄させた。
「あのオメガ……侮れないぞ」
 そんな囁きが広がる中、リヴィたちを見つめる、昏い視線がひとつあった。
 それは、会場の影に潜む、公爵家の失脚を狙う真の敵だった。
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