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第12話:皇帝の過去
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夜会での一件以来、カイロスはますますリエルを自分の側から離さなくなった。彼の剥き出しの独占欲は、宮廷の誰もが知るところとなり、リエルに軽々しく近づく者はいなくなった。
リエルは、カイロスの執着に戸惑いながらも、その奥にある不器用な愛情を感じ、少しずつ心を開いていった。
そして、思うようになった。
なぜ、カイロス様はこれほどまでに人を信じないのだろう。なぜ、いつも孤独な影を背負っているのだろう。彼の冷徹さは、一体どこから来るのだろう、と。
その答えを、リエルはカイロスの側近である騎士団長、アレクシスから聞くことになった。
アレクシスは、カイロスがまだ皇太子になる前から彼に仕えている、数少ない腹心の一人だ。ごつい体躯に似合わず、思慮深い人物で、リエルにも敬意を払って接してくれていた。
ある日、カイロスが緊急の会議で席を外した時、執務室に残されたリエルに、アレクシスが静かに話しかけてきた。
「リエル様は、陛下のことを知りたいと思われますか」
リエルがこくりと頷くと、アレクシスは少し躊躇った後、重い口を開いた。
「陛下が今のようになられたのは……先帝陛下の崩御後、王位継承争いが起きた時のことです」
カイロスには、腹違いの兄が二人いた。彼らはそれぞれ有力な貴族を後ろ盾にし、次期皇帝の座を巡って熾烈な争いを繰り広げた。当時、まだ若かったカイロスは、実の母親である皇太后と共に、中立の立場を取っていた。
「陛下は、母親を深く信頼しておられました。どんな時も自分の味方でいてくれる、たった一人の家族だと」
しかし、その信頼は、最も残酷な形で裏切られた。
皇太后は、カイロスの兄の一人と密かに手を組み、カイロスを毒殺しようと企んだのだ。自分の息子を犠牲にしてでも、権力に近い側につこうとした。
「幸い、陛下は毒殺を寸前で免れました。しかし……母親に裏切られた衝撃は、計り知れないものだったでしょう」
カイロスは、生き残るために戦うしかなかった。彼は、それまで隠していた類まれな才覚とカリスマを発揮し、自分を支持する勢力を瞬く間にまとめ上げた。そして、二人の兄を打ち破り、反逆者たちを次々と粛清していった。
最後に残ったのは、母親である皇太后だった。
「陛下は、自らの手で、母親に断罪を言い渡されました」
アレクシスの声が、痛ましげに震える。
「法廷で、皇太后は命乞いをしました。泣きながら、息子への愛を語りました。しかし、陛下の金色の瞳は、最後まで氷のように冷たいままでした」
実の母親に裏切られ、その母親を自らの手で処刑する。
そんな地獄を経験した少年が、どうして他人を信じられるだろうか。どうして、愛などという不確かなものを求められるだろうか。
カイロスの冷徹さは、自分を守るために纏った、分厚い氷の鎧だったのだ。彼は二度と傷つくまいと、二度と誰にも心を許すまいと、固く誓ったに違いない。
話を聞き終えたリエルは、言葉もなかった。ただ、胸が張り裂けそうに痛かった。
孤独な皇帝。いつも一人で戦ってきた人。
彼が自分に見せる独占欲や庇護欲は、彼が心の奥底でずっと求めていた、信じられる誰かへの渇望の現れなのかもしれない。
リエルは、静かに決意した。
この人の鎧を、自分が脱がせてあげたい。氷を溶かし、温かい光を届けたい。
運命の番だから、というだけではない。カイロスという一人の人間を、自分が支えたい。
リエルの心に芽生えたのは、同情ではない。それは、紛れもない「愛」の始まりだった。
そして、その愛が試される時が、すぐそこまで迫っていることを、リエルはまだ知らなかった。
リエルは、カイロスの執着に戸惑いながらも、その奥にある不器用な愛情を感じ、少しずつ心を開いていった。
そして、思うようになった。
なぜ、カイロス様はこれほどまでに人を信じないのだろう。なぜ、いつも孤独な影を背負っているのだろう。彼の冷徹さは、一体どこから来るのだろう、と。
その答えを、リエルはカイロスの側近である騎士団長、アレクシスから聞くことになった。
アレクシスは、カイロスがまだ皇太子になる前から彼に仕えている、数少ない腹心の一人だ。ごつい体躯に似合わず、思慮深い人物で、リエルにも敬意を払って接してくれていた。
ある日、カイロスが緊急の会議で席を外した時、執務室に残されたリエルに、アレクシスが静かに話しかけてきた。
「リエル様は、陛下のことを知りたいと思われますか」
リエルがこくりと頷くと、アレクシスは少し躊躇った後、重い口を開いた。
「陛下が今のようになられたのは……先帝陛下の崩御後、王位継承争いが起きた時のことです」
カイロスには、腹違いの兄が二人いた。彼らはそれぞれ有力な貴族を後ろ盾にし、次期皇帝の座を巡って熾烈な争いを繰り広げた。当時、まだ若かったカイロスは、実の母親である皇太后と共に、中立の立場を取っていた。
「陛下は、母親を深く信頼しておられました。どんな時も自分の味方でいてくれる、たった一人の家族だと」
しかし、その信頼は、最も残酷な形で裏切られた。
皇太后は、カイロスの兄の一人と密かに手を組み、カイロスを毒殺しようと企んだのだ。自分の息子を犠牲にしてでも、権力に近い側につこうとした。
「幸い、陛下は毒殺を寸前で免れました。しかし……母親に裏切られた衝撃は、計り知れないものだったでしょう」
カイロスは、生き残るために戦うしかなかった。彼は、それまで隠していた類まれな才覚とカリスマを発揮し、自分を支持する勢力を瞬く間にまとめ上げた。そして、二人の兄を打ち破り、反逆者たちを次々と粛清していった。
最後に残ったのは、母親である皇太后だった。
「陛下は、自らの手で、母親に断罪を言い渡されました」
アレクシスの声が、痛ましげに震える。
「法廷で、皇太后は命乞いをしました。泣きながら、息子への愛を語りました。しかし、陛下の金色の瞳は、最後まで氷のように冷たいままでした」
実の母親に裏切られ、その母親を自らの手で処刑する。
そんな地獄を経験した少年が、どうして他人を信じられるだろうか。どうして、愛などという不確かなものを求められるだろうか。
カイロスの冷徹さは、自分を守るために纏った、分厚い氷の鎧だったのだ。彼は二度と傷つくまいと、二度と誰にも心を許すまいと、固く誓ったに違いない。
話を聞き終えたリエルは、言葉もなかった。ただ、胸が張り裂けそうに痛かった。
孤独な皇帝。いつも一人で戦ってきた人。
彼が自分に見せる独占欲や庇護欲は、彼が心の奥底でずっと求めていた、信じられる誰かへの渇望の現れなのかもしれない。
リエルは、静かに決意した。
この人の鎧を、自分が脱がせてあげたい。氷を溶かし、温かい光を届けたい。
運命の番だから、というだけではない。カイロスという一人の人間を、自分が支えたい。
リエルの心に芽生えたのは、同情ではない。それは、紛れもない「愛」の始まりだった。
そして、その愛が試される時が、すぐそこまで迫っていることを、リエルはまだ知らなかった。
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