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第11話「嵐の夜の誓い」
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リアムが離宮にたどり着いた時、外はまるで世界の終わりを告げるかのように、激しい嵐に見舞われていた。風が唸りを上げ、雷鳴が空を引き裂き、大粒の雨が窓ガラスを叩きつけている。
離宮の中は、不気味なほど静まり返っていた。侍女たちの姿はなく、ただ薄暗い廊下に、リアムの荒い息遣いだけが響く。
彼は、エールの寝室の扉を乱暴に開けた。
部屋の中は、真っ暗だった。カーテンが閉め切られ、明かりも灯されていない。リアムは、壁を手探りで伝い、ランプに火を灯した。
ぼうっと浮かび上がった光の中に、エールの姿があった。
彼は、ベッドの隅で、膝を抱えてうずくまっていた。その銀色の髪は乱れ、顔は膝の間に埋められていて、表情はうかがえない。ただ、その小さな身体が、絶望のオーラを纏って、か細く震えているのがわかった。
「エール…」
リアムが、かすれた声で呼びかける。
エールの肩が、びくりと大きく跳ねた。彼は、ゆっくりと顔を上げた。その瑠璃色の瞳は、光を失い、深い闇のように淀んでいた。頬は、涙の跡で濡れている。
「…来ないでください」
絞り出すような、か細い声。それは、明確な拒絶の言葉だった。
リアムの胸が、ナイフでえぐられたように痛んだ。
「俺は…汚れています。あなたのような、尊い方のそばにいてはいけない存在なんです」
エールは、自分を蔑むように、力なく笑った。
「俺は、人間じゃない。たくさんの犠牲の上で生み出された、化け物です。あなたを…あなたの弟を、慰みものにしてしまった、罪人です…」
「違う!」
リアムは、思わず叫んでいた。彼は、エールに駆け寄り、その冷え切った身体を、無理やり抱きしめた。エールは、リアムの腕の中で、必死に抵抗した。
「離してください! 触らないで…!」
「嫌だ! 離さない! 絶対に!」
リアムは、エールの抵抗を力で封じ込め、その耳元で叫んだ。
「お前が何者かなんて、どうでもいい! 人工的に作られようが、俺の弟であろうが、そんなことは関係ない! 俺がお前を愛している。そのことに変わりはないんだ!」
「嘘だ…」
「嘘じゃない!」
リアムは、エールの顎を掴み、無理やり顔を上向かせた。涙で濡れた瑠璃色の瞳を、真っ直ぐに見つめる。
「いいか、よく聞け、エール。俺は、お前に出会うまで、ずっと独りだった。皇帝という仮面を被り、心を殺して生きてきた。だが、お前が俺の世界に現れた。感情のない人形だったお前が、俺の前で笑い、泣き、怒るようになった。その一つ一つが、俺の凍てついた心を溶かしてくれたんだ。お前は、俺の光なんだよ」
リアムの言葉は、彼の魂からの叫びだった。飾り気のない、剥き出しの想い。
エールは、リアムの瞳に映る、真摯な光に、抵抗する力を失っていった。彼の腕の中で、嗚咽を漏らし始める。
「でも…俺は、あなたを騙していた…」
「お前は何も騙していない。何も知らなかっただけだ。悪いのは、お前をそんな風に生み出し、利用しようとした、愚かな人間たちだ。お前には、何の罪もない」
リアムは、エールの涙を、優しく指で拭った。
「俺は、お前の過去も、その出自も、全てを受け入れる。お前が背負う痛みも、苦しみも、全て俺が半分背負ってやる。だから…俺のそばにいてくれ。もう二度と、独りにしないでくれ」
それは、皇帝の命令ではなかった。一人の男の、愛する者への、必死の懇願だった。
エールは、リアムの胸に顔を埋め、子どものように声を上げて泣いた。今まで心の中に溜め込んできた、悲しみ、苦しみ、絶望、その全てを吐き出すかのように。
リアムは、そんなエールを、ただ黙って、力強く抱きしめ続けた。
外の嵐が、まるで二人の心の叫びに呼応するかのように、ますます激しくなっていく。
どれくらいの時間が経っただろうか。エールの嗚咽が、次第に穏やかな寝息に変わった頃、嵐もまた、嘘のように静まっていた。
リアムは、涙で疲れて眠ってしまったエールを、そっとベッドに横たえた。そして、その寝顔を見つめながら、固く心に誓った。
もう二度と、この宝物を傷つけさせはしない。
この世界にある全ての悪意から、俺が必ずお前を守り抜いてみせる。
嵐の夜の誓い。
それは、二人の絆が、あらゆる障害を乗り越え、より強く、より深く結ばれた瞬間だった。
夜空には、雲の切れ間から、洗い清められたような美しい月が、静かに二人を見守っていた。
離宮の中は、不気味なほど静まり返っていた。侍女たちの姿はなく、ただ薄暗い廊下に、リアムの荒い息遣いだけが響く。
彼は、エールの寝室の扉を乱暴に開けた。
部屋の中は、真っ暗だった。カーテンが閉め切られ、明かりも灯されていない。リアムは、壁を手探りで伝い、ランプに火を灯した。
ぼうっと浮かび上がった光の中に、エールの姿があった。
彼は、ベッドの隅で、膝を抱えてうずくまっていた。その銀色の髪は乱れ、顔は膝の間に埋められていて、表情はうかがえない。ただ、その小さな身体が、絶望のオーラを纏って、か細く震えているのがわかった。
「エール…」
リアムが、かすれた声で呼びかける。
エールの肩が、びくりと大きく跳ねた。彼は、ゆっくりと顔を上げた。その瑠璃色の瞳は、光を失い、深い闇のように淀んでいた。頬は、涙の跡で濡れている。
「…来ないでください」
絞り出すような、か細い声。それは、明確な拒絶の言葉だった。
リアムの胸が、ナイフでえぐられたように痛んだ。
「俺は…汚れています。あなたのような、尊い方のそばにいてはいけない存在なんです」
エールは、自分を蔑むように、力なく笑った。
「俺は、人間じゃない。たくさんの犠牲の上で生み出された、化け物です。あなたを…あなたの弟を、慰みものにしてしまった、罪人です…」
「違う!」
リアムは、思わず叫んでいた。彼は、エールに駆け寄り、その冷え切った身体を、無理やり抱きしめた。エールは、リアムの腕の中で、必死に抵抗した。
「離してください! 触らないで…!」
「嫌だ! 離さない! 絶対に!」
リアムは、エールの抵抗を力で封じ込め、その耳元で叫んだ。
「お前が何者かなんて、どうでもいい! 人工的に作られようが、俺の弟であろうが、そんなことは関係ない! 俺がお前を愛している。そのことに変わりはないんだ!」
「嘘だ…」
「嘘じゃない!」
リアムは、エールの顎を掴み、無理やり顔を上向かせた。涙で濡れた瑠璃色の瞳を、真っ直ぐに見つめる。
「いいか、よく聞け、エール。俺は、お前に出会うまで、ずっと独りだった。皇帝という仮面を被り、心を殺して生きてきた。だが、お前が俺の世界に現れた。感情のない人形だったお前が、俺の前で笑い、泣き、怒るようになった。その一つ一つが、俺の凍てついた心を溶かしてくれたんだ。お前は、俺の光なんだよ」
リアムの言葉は、彼の魂からの叫びだった。飾り気のない、剥き出しの想い。
エールは、リアムの瞳に映る、真摯な光に、抵抗する力を失っていった。彼の腕の中で、嗚咽を漏らし始める。
「でも…俺は、あなたを騙していた…」
「お前は何も騙していない。何も知らなかっただけだ。悪いのは、お前をそんな風に生み出し、利用しようとした、愚かな人間たちだ。お前には、何の罪もない」
リアムは、エールの涙を、優しく指で拭った。
「俺は、お前の過去も、その出自も、全てを受け入れる。お前が背負う痛みも、苦しみも、全て俺が半分背負ってやる。だから…俺のそばにいてくれ。もう二度と、独りにしないでくれ」
それは、皇帝の命令ではなかった。一人の男の、愛する者への、必死の懇願だった。
エールは、リアムの胸に顔を埋め、子どものように声を上げて泣いた。今まで心の中に溜め込んできた、悲しみ、苦しみ、絶望、その全てを吐き出すかのように。
リアムは、そんなエールを、ただ黙って、力強く抱きしめ続けた。
外の嵐が、まるで二人の心の叫びに呼応するかのように、ますます激しくなっていく。
どれくらいの時間が経っただろうか。エールの嗚咽が、次第に穏やかな寝息に変わった頃、嵐もまた、嘘のように静まっていた。
リアムは、涙で疲れて眠ってしまったエールを、そっとベッドに横たえた。そして、その寝顔を見つめながら、固く心に誓った。
もう二度と、この宝物を傷つけさせはしない。
この世界にある全ての悪意から、俺が必ずお前を守り抜いてみせる。
嵐の夜の誓い。
それは、二人の絆が、あらゆる障害を乗り越え、より強く、より深く結ばれた瞬間だった。
夜空には、雲の切れ間から、洗い清められたような美しい月が、静かに二人を見守っていた。
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