感情を抑制された人工オメガの俺は、子を産む器として冷酷な氷帝に献上されたはずが、なぜか狂おしいほど執着され溺愛されています

水凪しおん

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第12話「夜明けの戴冠式」

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 嵐の夜が明け、エーデルシュタイン帝国は、新しい朝を迎えた。

 宰相バルドルをはじめとする反乱分子は、一夜にして全て粛清された。リアムの迅速かつ徹底的な処断は、帝国中に彼の揺るぎない権威を改めて知らしめることとなった。

 宮廷内のもめ事が嘘のように静まると、リアムは次なる一手として、帝国全土を揺るがす宣言を発表した。

 それは、エールを、正式な皇妃として迎えるというものだった。

 エールの出自――彼が人工的に生み出されたオメガであり、先帝の血を引く存在であることも、全て公表された。民衆は、その衝撃的な事実に驚愕したが、リアムは演説で力強く語った。

「彼の出自がどうであろうと、彼が私の運命の番であることに変わりはない。我々は、過去の過ちを乗り越え、手を取り合って、新しい帝国の未来を築いていく」

 リアムの堂々とした宣言と、エールへの深い愛情は、次第に民衆の心を掴んでいった。絶望の中から生まれた希望の象徴として、エールを受け入れる声が、日増しに大きくなっていった。

 そして、戴冠式の日。

 帝都の大聖堂は、祝福のために集まった人々で埋め尽くされていた。

 エールは、純白の儀礼服に身を包み、リアムの隣に立っていた。祭壇の前に立つ彼の胸には、不安と、それを上回る大きな幸福感が満ちていた。

 隣に立つリアムは、いつもと変わらない落ち着いた表情だったが、その固く結ばれた手は、エールの不安を和らげるかのように、力強く、そして温かかった。

 司祭による厳かな儀式が進み、いよいよ誓いの時が来た。

 リアムは、エールに向き直り、その両手を取った。紫紺の瞳が、真っ直ぐにエールを射抜く。

「エール。健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しき時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、固く節操を守ることを誓います」

 その声は、大聖堂の隅々にまで響き渡り、彼の揺るぎない決意を示していた。

 次に、エールの番だった。彼は、深呼吸を一つすると、リアムの瞳を見つめ返した。

「リアム。私も、あなたを愛し、敬い、慰め、助け、その命ある限り、あなたと共に生きることを誓います」

 その声は、まだ少し震えていたが、確かな愛情と意志が込められていた。

 誓いの言葉が終わると、リアムはエールの薬指に、皇妃の証である指輪を嵌めた。それは、リアムの瞳と同じ色の、大きな紫紺の石が輝く指輪だった。

 そして、リアムはエールのベールをそっと持ち上げ、その唇に、永遠の愛を誓うキスを落とした。

 その瞬間、大聖堂は、割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。民衆は、新しい皇妃の誕生を、心から祝福していた。

 エールの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。それは、絶望の涙ではなく、温かい、幸せの涙だった。

 リアムは、その涙を優しく拭うと、エールの耳元で囁いた。

「愛している、エール。私の唯一の光よ」

「俺も…俺も、愛しています、リアム」

 戴冠式の後、二人はバルコニーに立ち、広場を埋め尽くした民衆に手を振った。

 陽光が、二人を優しく照らしている。

 エールは、ふと、自分のお腹にそっと手を当てた。そこには、新しい命が宿っていることを、彼は知っていた。リアムとの愛の結晶。この帝国の、そして二人の未来を繋ぐ、希望の光。

 そのことに気づいているのかいないのか、リアムは、ただ愛おしそうにエールを見つめ、その肩を強く抱き寄せた。

 感情を知らなかった硝子仕掛けの鳥は、愛を知り、今、大空へと羽ばたこうとしている。

 孤独だった氷の皇帝は、愛を知り、温かい光を手に入れた。

 二人の物語は、まだ始まったばかりだ。

 幾多の困難を乗り越えた先には、希望に満ちた、輝かしい未来が広がっている。

 夜明けの光の中、二人は手を取り合い、新たな帝国の歴史を、共に歩み始めるのだった。
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