上 下
56 / 76

第56話 ホームレス、攻撃をしのぎきる

しおりを挟む
「ふぅ」
 ほぼ無意識で魔力を発動させていた。時間にしてどれだけ経っただろうか。砲弾はもうやってこない。どうやら、すべてを迎撃できたようだ。

『お疲れ様でした、センパイ!!』

「ありがとう。さすがに疲れたぜ。魔力を使うのってこんなに疲れるんだな」
 俺がそんな弱音を吐くと、ターニャは笑う。

『センパイ、そりゃあ疲れますよ。私の加護があるからと言って、あんなに魔力を連発すれば疲れないわけがないですもん』

「そんなにあの魔力のやり方はすごかったのか?」

『ええ、おそらく一人で数千人分の魔導士の役割をしていましたよ。センパイのスキルとして、無詠唱魔力というのがあるからできるわけで……普通の魔導士ならダンボール片を一つ撃ちこむごとに、詠唱が必要になりますからね。普通は、タイムラグが必要なんですよ。1発に撃つごとに数分は待たないといけないのに……センパイの数秒ごとに撃ちっぱなしにするなんて、魔導士が1個大隊は必要なんじゃないですか?』

「そんなに!?」

『だから、あんなことをして絶対に目をつけられましたよ? もしかしたら、センパイの首に懸賞金がかけられてしまうかも……』

 そんな某海賊マンガじゃないんだから……と思いつつ、意外と現実世界の歴史でもエースパイロットに懸賞金がかけられたりするケースってあったりする。

 有名なところだと「ルーデル閣下」だ。
 第二次世界大戦中の凄腕ドイツ人爆撃機パイロットで、スターリンからは「ソ連人民最大の敵」と呼ばれていた。上司のドイツ軍将軍からは「1人で1個師団の働きをする」とも呼ばれていた。1個師団はだいたい1万人クラスだからやばい。

 実際、彼が操縦する機体で破壊した敵軍の兵器数もすさまじいぜ。
 戦車500両以上。
 装甲車やトラック800両以上。
 戦艦1隻。
 敵の航空機9機。

 戦闘機乗りではないにもかかわらず、敵の戦闘機を落としまくってエースパイロットでもある。
 ちなみにこの数字はあくまで確認ができている公式記録だけだ。

 実際には、飛行機に乗りたいがために無断出撃をしたり、仲間たちの評価を上げてあげるために、自分の撃破スコアを譲っていたそうだから、本当の数字は……

 さらに上らしい。

 彼の首に1億円の懸賞金がかけられたとかなんとか……

 まあ、意外と無双する超人は歴史的にも珍しくないが……

『この世界では、センパイがそういう役割なんです』

 俺はその言葉を聞きながら、疲れて倒れ込んだ。
 敵の攻撃は一度停止したから、少しだけ休む、か。
しおりを挟む

処理中です...