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怪物の動き
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私の地域にクリスティアが到着し、治癒魔法のおかげで負傷した人々は次々に回復していった。
怪物が時折現れるものの、ほとんどがそこまで強くはないものたちばかりなので、私は一人で淡々と片付けていく。
その横で、最初は驚いていた騎士たちも次第に慣れてきたのか、あぁまたか、といった感じで退治した後の処理を黙々としている。
数が多い場合は手分けして他の騎士たちが倒すこともあった。徐々に全員の魔力レベルが上がっているようだ。
「あの令嬢は一体誰なんだ?」
「あれだけの怪物を一人で倒しているぞ」
「何者だ…?」
最初は騎士たちの登場に安堵の表情を浮かべていた地域の人々も、どう見ても貴族の令嬢のオーラを放つ少女が次々に怪物を倒す姿に驚いた様子だった。
聖女でもない、あの子は一体誰なんだ?
「マルスティア様、皆さんの治療はほとんど終わったわ」
「早いわね。助かったわ、ありがとう」
「マルスティア様こそ、さすがです。怪物はとても恐ろしい存在なのに、マルスティア様があまりにも簡単に倒されてしまうから驚いたわ。騎士たちよりも強いなんて」
「他の人より、ほんの少しだけ魔力が強いだけよ。それよりも疲れたでしょう、ゆっくり休んでいて」
「マルスティア様こそ、休んでください。ずっと戦いっぱなしなんてダメですわ」
「ふふっ、ありがとう。それよりも、怪物の数が減っているようだけれど何かあったのかしら?」
到着した時よりも明らかに怪物の数が減っていた。ルカとオレフィスたちが結界を塞いだのだろうか。
「詳しくはわからないけれど、怪物が進路を変えたのでは?」
「進路を変える?」
「ここの地域は既に多くの人々が身に危険を感じて移動しているし、動物たちも怪物に食べ尽くされてしまっているわ。食料がないと判断して別の場所に移動した可能性があるかと…」
そう言うと、クリスティアはハッと何かに気づいたのか突然顔が青ざめ始める。
「何?どうかしたの?」
「いえ…確かではないけれど、そうだとすればルカ皇太子様がいる場所に集中して怪物が向かっているのではないかしら」
そうだとすれば、とんでもない数の怪物がルカとオレフィスがいる地域へと向かっているということだ。いくらルカが強いとしても、大量の怪物相手に戦えるのだろうか。
「マルスティア様…」
しばらく考え込む私に、クリスティアが不安げに声をかける。
「ルカ皇太子様がいる地域って、どこになるの?」
「確かこの場所に向かうとおっしゃっていたはずよ」
その場で地図を広げると、クリスティアが指した地域は、ここから真反対の地域だった。
このくらいの距離なら、瞬間移動で移動ができるかもしれない。騎士たちも戦い慣れてきて、私ほどではないけれど魔力も強くなっている。
怪物もほとんど現れなくなったし、何があってもここは大丈夫だ。それよりも何よりも、ルカがいる場所が一番危険。
…私は一体、何をしているんだろう。
この世界に転生してきて、ここで生きていこうと思っているわけでもないのに。できたら元の世界に戻りたいと思っているのに。
なのに、どうしてこんなにもこの国を、ルカを救いたいと思ってしまうんだろう。
物語が終盤に近づけば元の世界に帰れるのだろうか。それとも、ずっとこのままなのだろうか。
もしそうだとしたら、私はどうしたい?
どう生きていきたい?
〝君に怪我をしてほしくないんだ〟
ルカの言葉が脳裏をよぎった。
「そんなの、こっちのセリフよ」
「え?」
「クリスティア様、私少しだけルカ皇太子様の地域の様子を見てきます」
「マルスティア様、待って」
クリスティアは私の腕を引き、近くの民家へと連れて行った。
***
「みんな、申し訳ないけれど少しの間この地域とクリスティア様のこと、お願いね」
「もちろんです。どうかお気をつけて」
「こちらはお任せください」
私は出発の準備を整えると、ルカの元へと瞬時に移動した。騎士たちは分かっていても驚いた様子だった。
クリスティアはその様子を静かに見守っていた。
怪物が時折現れるものの、ほとんどがそこまで強くはないものたちばかりなので、私は一人で淡々と片付けていく。
その横で、最初は驚いていた騎士たちも次第に慣れてきたのか、あぁまたか、といった感じで退治した後の処理を黙々としている。
数が多い場合は手分けして他の騎士たちが倒すこともあった。徐々に全員の魔力レベルが上がっているようだ。
「あの令嬢は一体誰なんだ?」
「あれだけの怪物を一人で倒しているぞ」
「何者だ…?」
最初は騎士たちの登場に安堵の表情を浮かべていた地域の人々も、どう見ても貴族の令嬢のオーラを放つ少女が次々に怪物を倒す姿に驚いた様子だった。
聖女でもない、あの子は一体誰なんだ?
「マルスティア様、皆さんの治療はほとんど終わったわ」
「早いわね。助かったわ、ありがとう」
「マルスティア様こそ、さすがです。怪物はとても恐ろしい存在なのに、マルスティア様があまりにも簡単に倒されてしまうから驚いたわ。騎士たちよりも強いなんて」
「他の人より、ほんの少しだけ魔力が強いだけよ。それよりも疲れたでしょう、ゆっくり休んでいて」
「マルスティア様こそ、休んでください。ずっと戦いっぱなしなんてダメですわ」
「ふふっ、ありがとう。それよりも、怪物の数が減っているようだけれど何かあったのかしら?」
到着した時よりも明らかに怪物の数が減っていた。ルカとオレフィスたちが結界を塞いだのだろうか。
「詳しくはわからないけれど、怪物が進路を変えたのでは?」
「進路を変える?」
「ここの地域は既に多くの人々が身に危険を感じて移動しているし、動物たちも怪物に食べ尽くされてしまっているわ。食料がないと判断して別の場所に移動した可能性があるかと…」
そう言うと、クリスティアはハッと何かに気づいたのか突然顔が青ざめ始める。
「何?どうかしたの?」
「いえ…確かではないけれど、そうだとすればルカ皇太子様がいる場所に集中して怪物が向かっているのではないかしら」
そうだとすれば、とんでもない数の怪物がルカとオレフィスがいる地域へと向かっているということだ。いくらルカが強いとしても、大量の怪物相手に戦えるのだろうか。
「マルスティア様…」
しばらく考え込む私に、クリスティアが不安げに声をかける。
「ルカ皇太子様がいる地域って、どこになるの?」
「確かこの場所に向かうとおっしゃっていたはずよ」
その場で地図を広げると、クリスティアが指した地域は、ここから真反対の地域だった。
このくらいの距離なら、瞬間移動で移動ができるかもしれない。騎士たちも戦い慣れてきて、私ほどではないけれど魔力も強くなっている。
怪物もほとんど現れなくなったし、何があってもここは大丈夫だ。それよりも何よりも、ルカがいる場所が一番危険。
…私は一体、何をしているんだろう。
この世界に転生してきて、ここで生きていこうと思っているわけでもないのに。できたら元の世界に戻りたいと思っているのに。
なのに、どうしてこんなにもこの国を、ルカを救いたいと思ってしまうんだろう。
物語が終盤に近づけば元の世界に帰れるのだろうか。それとも、ずっとこのままなのだろうか。
もしそうだとしたら、私はどうしたい?
どう生きていきたい?
〝君に怪我をしてほしくないんだ〟
ルカの言葉が脳裏をよぎった。
「そんなの、こっちのセリフよ」
「え?」
「クリスティア様、私少しだけルカ皇太子様の地域の様子を見てきます」
「マルスティア様、待って」
クリスティアは私の腕を引き、近くの民家へと連れて行った。
***
「みんな、申し訳ないけれど少しの間この地域とクリスティア様のこと、お願いね」
「もちろんです。どうかお気をつけて」
「こちらはお任せください」
私は出発の準備を整えると、ルカの元へと瞬時に移動した。騎士たちは分かっていても驚いた様子だった。
クリスティアはその様子を静かに見守っていた。
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