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この世界で、あなたと共に
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映画の終盤に差し掛かり、私は物語に引き込まれていた。マルスティアが聖女だと判明し、一人目の聖女であるクリスティアと共に協力し合いながら国の発展に貢献していく。
ルカ皇太子との婚約、結婚。最初は怪物退治のために協力していた二人が、互いになくてはならない存在となり、愛を育みながら支え合い、忙しくも幸せな日々を過ごしていく。
なんて素敵な関係なんだろう。
そう思うと同時に、何故かルカがマルスティアに対して話す言葉や表情一つ一つに泣きたくなるような気持ちが溢れてくる。
『私はどの世界に行っても必ず君を見つけだす。必ずだ。だから君もどうか、私に気づいてほしいんだ』
…どこかで聞いたことのあるセリフだった。思い出せそうなのに、何故か思い出そうとすると引っかかる感覚がして頭が痛くなる。ルカの表情も言葉も、全てがどこか懐かしかった。
***
映画の上映が終わり、会場が明るくなる。私はその場から動けなかった。どうして良いのか分からなかったのだ。
本当に?
本当に…あなたなの?
全てを思い出した。
今までのこと全部。
マルスティアは、私だ。
そして、ルカは…
「行かないのですか?」
隣の席の男性が、意地悪そうな笑みを浮かべて私を見て言った。もう、全部お見通しだとでもいうように。
「ルカ…」
「思い出してくれて良かった」
ルカは優しい笑顔を私に向ける。
長年側で寄り添ってきた、見慣れた温かい表情に涙が出そうになる。
「どうして…」
「言っただろう、私は必ず君を見つけると」
ルカは私の手をそっと握り、泣きそうな顔で私をじっくりと見つめた。
「どれだけこの時を待ったか…」
ルカは、私がこの世界からルカの世界へと迷い込んだ存在だということを知っていた。私がいつ元の世界へと帰ってしまうのだろうかと、いつも不安だったそうだ。
まさか自分のいる世界が漫画の中の世界だなんて知らなかった。転生魔法を習得したルカは、私を探しにきたそうだ。この世界にきて、この漫画の内容を見て驚いた。
まさにルカの世界のことが書かれていたから。
「あの晩のこと、覚えているか?」
「もちろんです」
その後の記憶が私にはない。
「翌日、隣に君の姿はなかった。誰もが君の存在すら覚えておらず、まるで全てのことが無かったことになっていた。そうなるだろうと分かっていても、怖かったよ」
「いつから…」
「私には実は予知能力もある。だから君がいなくなることも初めから分かっていたんだ。君を好きになることも、君と共に生きていくには怪物と共に戦う必要があることも、全てわかっていた。興味本位だったんだ。いつも罪悪感が襲ってきたよ。予知できても、感情まではコントロールできなかった。何故かは分からなかったけれど、この世界に来て分かった。漫画のストーリーだったんだ」
ルカの世界に転生してから、私はずっと物語が終わった後の世界はどうなるのか気になっていた。
私の存在やルカの存在、この世界がどうなっていくのか不安だったのだ。けれどルカと過ごす時間があまりにも幸せで、そんなこともすっかり忘れてしまっていた。
物語が終わった後も、ルカの世界は続いていたんだ。
…私の存在が無かったことになることで、存続していた。
ルカは全てを理解していたから、あの晩あの言葉を私に残した。私がルカをすぐに見つけられるように。
「マルスティア…どうか共に私の世界に戻ってきてくれないか?」
「…それも予知できるんですか?」
「残念ながら、この世界ではその能力は使えないようだ」
私を見つめる瞳が不安げに揺れている。
もう、答えは決まっていた。
ルカと会って、元いた世界で過ごしてきた以上の時間を彼と共に過ごしてきた。仲間として、婚約者として、夫婦として。
「私が断るとお思いですか?」
私はルカの手をそっと握り返して微笑んだ。
「私はずっと貴方のお側にいます」
「ありがとう」
ルカは嬉しそうに微笑むと、私をギュッと抱き寄せた。
そのまま、私とルカはこの世界から姿を消した。
***
もし、転生して別の世界に行くことになったとしたら。そんなことを考えたことがある。
けれどそれはあくまでも想像するだけ。まさか自分の身に起こるなんて、誰が思うだろう。
「マルスティア様、騎士たちの訓練についてのご相談がありまして……っ、申し訳ございません!!」
ルカが私に口付けをする姿を見たのか、勢いよく扉が閉まる。
「…いつもタイミングが悪いな、オレフィスは」
「タイミングを見計らっていちゃつこうとするのは一体誰なのでしょうね」
「君は私の妻だ。夫の私が妻を可愛がって何が悪い?」
全くもう…
映画館でオレフィスに見惚れていたことを未だに根に持っているようだ。
「ルカ」
「ん?」
チュッ
私はルカの頬にキスをして、ニコッと微笑んでいった。
「この続きはまた後で」
ルカが嬉しそうに微笑んでいるのを見ると、おそらく今夜はルカの思うがままにされるのだろう。
ルカにだけ見えているであろう未来に私は少し覚悟しつつも、任された業務を今日も遂行していく。
この世界で、ルカと共に生きていくために。
【完】
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。本編は完結とさせていただきます。
今後は番外編を更新予定です。
ルカ皇太子との婚約、結婚。最初は怪物退治のために協力していた二人が、互いになくてはならない存在となり、愛を育みながら支え合い、忙しくも幸せな日々を過ごしていく。
なんて素敵な関係なんだろう。
そう思うと同時に、何故かルカがマルスティアに対して話す言葉や表情一つ一つに泣きたくなるような気持ちが溢れてくる。
『私はどの世界に行っても必ず君を見つけだす。必ずだ。だから君もどうか、私に気づいてほしいんだ』
…どこかで聞いたことのあるセリフだった。思い出せそうなのに、何故か思い出そうとすると引っかかる感覚がして頭が痛くなる。ルカの表情も言葉も、全てがどこか懐かしかった。
***
映画の上映が終わり、会場が明るくなる。私はその場から動けなかった。どうして良いのか分からなかったのだ。
本当に?
本当に…あなたなの?
全てを思い出した。
今までのこと全部。
マルスティアは、私だ。
そして、ルカは…
「行かないのですか?」
隣の席の男性が、意地悪そうな笑みを浮かべて私を見て言った。もう、全部お見通しだとでもいうように。
「ルカ…」
「思い出してくれて良かった」
ルカは優しい笑顔を私に向ける。
長年側で寄り添ってきた、見慣れた温かい表情に涙が出そうになる。
「どうして…」
「言っただろう、私は必ず君を見つけると」
ルカは私の手をそっと握り、泣きそうな顔で私をじっくりと見つめた。
「どれだけこの時を待ったか…」
ルカは、私がこの世界からルカの世界へと迷い込んだ存在だということを知っていた。私がいつ元の世界へと帰ってしまうのだろうかと、いつも不安だったそうだ。
まさか自分のいる世界が漫画の中の世界だなんて知らなかった。転生魔法を習得したルカは、私を探しにきたそうだ。この世界にきて、この漫画の内容を見て驚いた。
まさにルカの世界のことが書かれていたから。
「あの晩のこと、覚えているか?」
「もちろんです」
その後の記憶が私にはない。
「翌日、隣に君の姿はなかった。誰もが君の存在すら覚えておらず、まるで全てのことが無かったことになっていた。そうなるだろうと分かっていても、怖かったよ」
「いつから…」
「私には実は予知能力もある。だから君がいなくなることも初めから分かっていたんだ。君を好きになることも、君と共に生きていくには怪物と共に戦う必要があることも、全てわかっていた。興味本位だったんだ。いつも罪悪感が襲ってきたよ。予知できても、感情まではコントロールできなかった。何故かは分からなかったけれど、この世界に来て分かった。漫画のストーリーだったんだ」
ルカの世界に転生してから、私はずっと物語が終わった後の世界はどうなるのか気になっていた。
私の存在やルカの存在、この世界がどうなっていくのか不安だったのだ。けれどルカと過ごす時間があまりにも幸せで、そんなこともすっかり忘れてしまっていた。
物語が終わった後も、ルカの世界は続いていたんだ。
…私の存在が無かったことになることで、存続していた。
ルカは全てを理解していたから、あの晩あの言葉を私に残した。私がルカをすぐに見つけられるように。
「マルスティア…どうか共に私の世界に戻ってきてくれないか?」
「…それも予知できるんですか?」
「残念ながら、この世界ではその能力は使えないようだ」
私を見つめる瞳が不安げに揺れている。
もう、答えは決まっていた。
ルカと会って、元いた世界で過ごしてきた以上の時間を彼と共に過ごしてきた。仲間として、婚約者として、夫婦として。
「私が断るとお思いですか?」
私はルカの手をそっと握り返して微笑んだ。
「私はずっと貴方のお側にいます」
「ありがとう」
ルカは嬉しそうに微笑むと、私をギュッと抱き寄せた。
そのまま、私とルカはこの世界から姿を消した。
***
もし、転生して別の世界に行くことになったとしたら。そんなことを考えたことがある。
けれどそれはあくまでも想像するだけ。まさか自分の身に起こるなんて、誰が思うだろう。
「マルスティア様、騎士たちの訓練についてのご相談がありまして……っ、申し訳ございません!!」
ルカが私に口付けをする姿を見たのか、勢いよく扉が閉まる。
「…いつもタイミングが悪いな、オレフィスは」
「タイミングを見計らっていちゃつこうとするのは一体誰なのでしょうね」
「君は私の妻だ。夫の私が妻を可愛がって何が悪い?」
全くもう…
映画館でオレフィスに見惚れていたことを未だに根に持っているようだ。
「ルカ」
「ん?」
チュッ
私はルカの頬にキスをして、ニコッと微笑んでいった。
「この続きはまた後で」
ルカが嬉しそうに微笑んでいるのを見ると、おそらく今夜はルカの思うがままにされるのだろう。
ルカにだけ見えているであろう未来に私は少し覚悟しつつも、任された業務を今日も遂行していく。
この世界で、ルカと共に生きていくために。
【完】
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。本編は完結とさせていただきます。
今後は番外編を更新予定です。
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