リプレイスメント〜目覚めたら他国の侯爵令嬢になってました〜

ことりちゃん

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2.目覚めたら別人でした

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 シャッーー

 カーテンの開く音で目が覚めた。
 直後、朝陽がさし込んで思わずぎゅっと目を瞑る。

「まぶし、い」

 びっくりするほど掠れた声が出た。

「お嬢様!? お目覚めですか??」

 真横から知らない女性の声が聞こえたので、目を開けてまじまじと彼女の顔を見る。

(王宮のメイドかしら? でも今、お嬢様って呼んだわよね?)

 また夢かしら、と首を傾げていると。

「すぐにお医者様を呼んでまいります!」

 そう言って、メイドは部屋から飛び出して行った。

「……ふぅ」

 幸いと言うべきか、今度はなんとか身体も動く。
 節々に違和感はあるけれど、ひとまず身体を起こすことができた。

(とにかく、ミハイル殿下にお会いしなくちゃ……)

 改めて部屋の中を見回してみる、が、やっぱり知らない場所だった。

 窓から見える景色も、薄紅色をベースにしたこの部屋の装飾も、何一つ見覚えがない。 

 立ち上がろうとゆっくり身体を前に倒したところで、肩から金色の髪がひと房滑り落ちてきた。


(ーーん????)

 私の髪色は白金プラチナだ。それなのに、なぜこんなに鮮やかな金髪がーー。
 
(鏡は?!)

 室内を見渡すと、寝室の隣にバスルームがあったので慌てて飛び込んだ、けれどーー。

「誰?!」

 鏡に映るのは、私、アイスンではなく、眩い金髪に薄紫色の瞳をした見知らぬ令嬢だった。



 ◾︎



「お名前はわかりますか?」

 老齢の医者が、穏やかな口調で私に尋ねる。

 先程部屋から飛び出して行ったメイドはこの医者を連れて部屋に戻ってきた。
 そして二人は、バスルームの鏡の前でへたり込む私を抱き起こし、支えながらここまで連れてきてくれた。

 今、私はベットに腰かけて医者と向き合っている。

「私は、ア……」

 名乗りかけて止める。
 ここでアイスン・セダ・スミュルナだと名乗ったところでこの容姿だ、確実に頭がおかしくなったと思われるだろう。

(どうしてこんなことに……)

 もしかしたらこの身体の持ち主と私とが、なんらかの事情で入れ替わってしまったのではないか……そんな馬鹿げた考えが頭をよぎった。


「お嬢様のお名前は、フェリハ様とおっしゃいます。お嬢様はここ、エファンディ侯爵家のご息女なのですよ」

 俯き考え込んでいる私を見かねてか、医者が優しく説明してくれた。


「フェリハ・エファンディ?」
「左様でございます」

(エファンディ?!)


「あの……トラレス王国の宰相エファンディ?」
「さっ、左様でございます!  思い出しましたか?」


 医者が期待に満ちた目で私を見てくるが、私は知っていることを言っただけで、思い出したわけではない。


「あっ、焦りすぎましたね。失礼致しました」


 私が無言でいたため、医者は申し訳無さそうに頭を下げた。


 そこに、ぐぐぅ、とお腹のなる音が響く。

 思わず顔を伏せると、医者が横に立つメイドに食事の用意を命じた。

「お嬢様は三日も意識が戻らなかったのだ。まずは消化しやすいスープなど用意して来なさい」

 一通り医者の言葉を聞き流した後、私はと気づく。


「えっ、三日ですって!?」
「左様でございます。お嬢様は学園で階段から転げ落ち、一時は呼吸が止まるほど危険な状態だったそうです。保健医が治癒魔法を施した後に一度目を覚まされたようですが、すぐにまた意識を失われ、そのまま御屋敷に運ばれました。そして今の今まで、ずっと眠っておられました」


 お目覚めになられて本当に良うございました、と医者が笑うがちっとも良くなんかない。


(ジェム皇太子と口うるさい少年の出てきた夢は夢じゃなかった……ってこと?)


「今日は何日?」
「本日ですか? 本日は雨月の五日でございますよ」


(結婚式から四日経ってる……)


「お嬢様、焦らなくても大丈夫でございます。お身体の診察はさせて頂きましたが、他に異常はございません。ですから、ゆっくり参りましょう」


 医者は放心状態の私を気遣って声を掛けてくれたがーー。

(あれ? あの夜、私、ミハイル殿下とご一緒できたっけ……?)

 急に、耳の奥に『義姉上』と私を呼ぶエレン王子の声が響いてーー。

「痛っっ!!」
「おっ、お嬢様!?」

 ひどい頭痛に襲われて、私はまた意識を失ってしまった。
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