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3. 専属メイド
しおりを挟む再び目を覚ますと夕方になっていた。
「お嬢様、こちらもどうぞ」
「もういいわ。さすがにお腹いっぱいよ」
ずっと傍についていたというメイドが、私が起きるなりあれやこれやと世話をしてくれている。
喉の乾きもお腹も満たした私は、ここへ来てようやく人心地が付いた気がした。
「そういえばあなた、お名前は?」
私が尋ねると、メイドは驚いて目を見開いた。
貴族の令嬢には、使用人を空気のように扱う者もいる。
もしかしてこのフェリハという令嬢もそうだったのかしら、と考えていると。
「もう、お嬢様ったら! 私にまでそのような演技は必要ございません。三日も寝たふりをされるなんて、今回は気合いが入っておられますね! 危うく私も騙されるところでしたよー」
なんて、笑顔いっぱいで言われてしまった。
「…………え?」
「えっ?!」
思わず漏れた驚きの声に、メイドも同じように返してくる。
(えーっと、一体この娘はこれまでどんな生活を送ってきたのかしら……)
私が何も言わずに固まっていると、えっ、まさか、などと言いながらメイドは急に慌て始めた。
「あのっ、もしかしてお嬢様は本当に私のことが思い出せないのでしょうか?」
思い出せないのではなく、私が別人だからなのだが、私はこくんと頷いた。
「そんな! では、本当にこの三日間ずーっと気を失っていらしたのですか?」
「ええ、まぁ」
「なんということっっ!!」
この娘とかなり親しかったのか、私を見つめるメイドの目には見る見る涙が溢れてきた。
「お、おかしいと思ったのです! お嬢様が、私に何の相談もなく、こんなっ……こんなっ……」
メイドはその場に崩れ落ちた。
「そっ、それでは、本当に階段から落ちてご記憶を……うっ、うう……」
(このメイドは心からフェリハを心配しているのね)
一時は呼吸が止まるほどの大怪我を負ったというのに、実の弟は微塵も心配していなかった。それどころか責め立てるばかりで……。
「こっ、皇太子殿下のことで作戦を立てたり、グスッ、一緒にお買い物をしたり……その、私との、これまでのことを何にも覚えていらっしゃらない……ということでしょうか?」
その質問に、私は申し訳なく思いながらもこくんと頷いた。すると、
「お嬢様っ、ああ、フェリハお嬢様!!」
彼女はとうとう絨毯の上に突っ伏して泣き出してしまった。
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