リプレイスメント〜目覚めたら他国の侯爵令嬢になってました〜

ことりちゃん

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6.サブリエ魔法学園

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「来たわよ、お騒がせ令嬢が」
「まぁ、ずいぶんと地味になられて。今度は一体何を狙っていらっしゃるのかしらね?」

 クスクスと嘲り笑いが聞こえる中、私はただ前だけを見つめていた。

 だって今、周りを気にする余裕などない。
 目の前には、これまで絵でしか見たことのなかった学園が聳え立っているのだから。

(こっ、ここがあの! あの、夢にまで見たサブリエ魔法学園!! ミハイル殿下が四年間お過ごしになったあの学舎まなびや!!)


 停車場で馬車を降りた生徒達は皆、動く歩道に乗り込んでいく。

 心の中の興奮と緊張をおくびにも出さず、何でもない顔をして私も動く歩道に乗った。
 

 約三百年前、大魔法師サブリエが『学びの中にもトキ⭐︎メキを』をモットーに創設したのがこのサブリエ魔法学園だ。
 変わり者だったというサブリエが学舎の色んなところに仕掛けを施し、今もなお学生達に驚きと感動を与え続けている。
 そして時には、少しばかりスパイスの効いたお灸を据えられることもあるという。

 ここトラレスの貴族子女はもちろん、近隣諸国の王侯貴族のうち、特に優れた才能を持つ魔法使いの卵達には学園から入学案内が届くらしい。
 残念ながらアイスンには、届かなかったけれど。

(まさかこんな形で通うことになるなんてね)


 動く歩道を降りると、つる薔薇が見事に咲き誇る鉄門のアーチをくぐり抜けた。

 周りからはずっとクスクス笑いがついてくるが、一々気にしてなどいられない。

(それに、私は本物のフェリハじゃないしね)

 ミハイル殿下の婚約者として、何年も厳しいお妃教育を受けてきた身だ。
 入れ替わっていても、本物の皇太子妃である私の所作がそこら辺の貴族子女に馬鹿にされるほどお粗末なものであろうはずがない。

 けれど反対に、もし私とフェリハが入れ替わっているとしたらーー果たして、皇太子妃としてのアイスンは無事だろうか。

(お騒がせ令嬢……)

 嫌な予感しかしない。
 思わずため息を吐いた時だった。

「まぁご機嫌よう、フェリハ様!」
「……ご機嫌よう?」

 校舎に入るところで、一人の女子生徒が親しげに話しかけてきた。面倒だったが、ひとまず挨拶を返す。

「今日はずいぶん大人しいのですね、その、色々と?」

 上から下まで舐めるように見られて、ちょっと、いやだいぶ感じ悪い。

「それより、もうよろしいのですか? クスッ、頭の方は……」

 もはや嘲りを隠すつもりもないようだ。

「あの、あなたはどなた?」
「ーーまぁ!!」

 彼女は大袈裟に驚いて両手で口元を押さえた。

「もしかして、記憶を!?」

 ただでさえ注目を浴びているというのに、彼女が騒ぐのでますます目立ってしまう。

「ええ。だからお名前を教えて頂けないかしら?」
「ぷっ、そんなっーー」

 目の前でこう何度もあからさまに馬鹿にされると、流石に私も気分が悪い。

「教えて頂けないようなので、私はこれで」
「えっ、ちょっと?!」

 慌てる彼女を置き去りに、私は校舎の中を皆が進むほうへと歩いた。



 フェリハの年齢は、アイスンの一つ下で先月、十七歳になったばかりだそうだ。
 十五歳から通うこの学園で、フェリハは第三学年に在籍している。
 ナズによると、Aから始まる成績順のクラスで、フェリハはずっと最下位のDクラス。おまけにこの頃は学年最下位をキープしているのだとか。

 ちなみに弟のマリクは一つ下なのに、飛び級してフェリハと同学年だそうだ。
 宰相家の嫡男らしく優秀な彼は、もちろんAクラス。フェリハと同い年のジェム皇太子もAクラスで、婚約者候補のディララという伯爵令嬢も一年の頃からAを維持しているとのこと。

(あ、さっきの娘がディララか)

 ナズによると、ジェム皇太子の婚約者はまだ確定しておらず、候補は三人いるそうだ。

 一人目は第四学年に在籍している侯爵令嬢のサネム。薄茶色の髪に緑色(風属性)の瞳を持つ彼女は、見た目は少し地味だが大変優秀で礼儀作法も完璧だとか。

 二人目の候補は私こと、この身体の持ち主フェリハだ。まあ、希望は無さそうだが。

 で、三人目がさっきのディララだ。
 ずっとAクラスを維持できるほど優秀な上、珍しい桃色の髪に水属性を示す青い瞳の彼女は、誰が見ても愛らしい令嬢だった。

(いい性格してるみたいだけど)

 不躾な視線に晒されながら、ようやく廊下の突き当たりにある「3-D」の教室へとたどり着いた。

 中に入ると、騒ついていた教室が一瞬で静まりかえる。

 近くにいた女子生徒に私の席を尋ねると、ビクビクしながらもそっと指差して教えてくれた。

(あらあら……)

 教室の中に横に四列、縦に四列。整然と並ぶ座席の後ろに、ぽつんとはみ出した一席。
 
 そこは文字通りの「特別席』だった。

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