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15.コジマの本領
しおりを挟む「コジマ!!」
床にへたり込んだ私のそばに、クルトが駆け寄ってくる。
「大丈夫か?」
「・・・ねぇ、ヴィルのケガひどいのかな?」
その問いかけに、クルトは困ったように視線を泳がせた。
ウラ婆はポーションを混ぜながら、珍しく心配そうに私を見てる。
私は差し出されたクルトの手に掴まって立ち上がった。
「何か知ってるなら教えて?」
私の言葉に、クルトはかなり躊躇ってる様子だった。
「お願い・・・」
もう一度縋るように頼んだら、クルトは大きなため息をひとつ吐いた。
そして少し間をあけたあと、呟くようにこう言ったんだ。
「再起不能じゃないかって・・・」
「ーーッ」
一瞬、息が詰まる。
再起、不能・・・
それって、どれくらいのケガ?!
話はできるの・・・?
歩ける・・・?
それとも、起き上がれないくらいひどいの?
ああ、そうか。だからここに来れないんだ。
そういうことか・・・
行かなきゃ。
「コジマッ!」
店を飛び出そうとしたところで、クルトに腕を掴まれた。
「離して!行って確認しなきゃ!」
掴まれた手を振りほどこうとブンブン振り回したんだけど、離してくれなくて・・・
「外はもう暗い。女性のひとり歩きは危険だ」
「大丈夫だよ!私にはウラ婆が掛けてくれた魔法があるし、それに誰も私のこと女だと思ってないもん!」
そう言ったら、クルトはなぜか悲しそうに顔を歪めた。
「ついてってやんな」
ウラ婆がポソッと言った。
釜の中のポーションは、今きっと仕上げの段階。クルクル混ぜながら絶えず魔力を注がなきゃいけないって、前に言ってた。
「大丈夫だよ、1人でも」
「いや、一緒に行かせてくれ」
◇
道中、クルトと会話なんてできなかった。
とにかく一刻も早く確認したくて、ヴィルの家までひたすら走った。
まずはヴィルが生きて帰って来てること、それだけで有難いと思った。いや、思うよう自分自身に言い聞かせた。
きっと、会えば「なぁんだ全然元気じゃん」、「心配して損したぁ」って、笑えるに決まってる。
だから・・・
ーードンドン‼︎
「ヴィル!居るんでしょ⁈ ・・・お願い、会いたいの。顔を見せてよ・・・ね?」
ーードンドンドン‼︎
「ヴィル・・・会いたいよ」
・
・
・
ーーカチャ
ドアが開いて、私は目の前のヴィルに飛びついた。
良かった!
ちゃんと立って自分の足でドア開けてくれたんだ!
そう思って彼の両腕を掴み、顔を見上げたら・・・
「コンラート?」
目の前の彼は、ヴィルじゃなくて・・・
そう気づいた瞬間、嫌な予感がした。
ヴィルの部屋はそんなに広くないんだよ。
冒険者だから大抵外に出てるし、独身だし。家には寝に帰るだけって前にヴィル言ってた。
だからね、ドア開けたら1DKっていうのかな、ダイニング的な部屋の続き間に、寝室がそのままあって・・・
「ヴィル・・・」
奥の部屋にはベッドが置いてあった。
そのベッドに腰掛けたヴィルが、たぶんいつもの調子で笑って言ったんだと思う。
「よう、コジマ」
って。
でもね・・・
ねぇ、どうして右目しか開いてないの?
ねぇ、どうして髪が・・・綺麗な、夜の始まりみたいな青紫色した髪の毛が、そんなに短いの?
おそるおそる、寝室へと近づきながら私はひと言も発することが出来なかった。
ヴィルの履いてるズボン・・・
左側の太ももの途中からぺちゃんこになってるの、なんで?
それから左手の肘から先・・・背中の後ろに隠してるんだよね?
私はベッドに腰かけたヴィルの目の前まで来て、正面から少し見下ろすように彼の前に立った。
「ご、ごめんな、コジマ」
ヴィルは申し訳なさそうに顔を歪めて言ったけど、私はヴィルが何に対して謝ってるのかわかんなくて・・・
「酷い火傷・・・」
ヴィルの美しかった顔は、左半分が焼け爛れてる。
だから、左目が開かないんだ・・・
痛々しい火傷の跡が残るヴィルの顔にそっと手を伸ばした。一瞬、ピクリと身体を強ばらせたけど、ヴィルに拒絶されることはなかった。
私、別にお医者さんでも看護師さんでもないんだよ?
平和な日本の、フツーの高校生だったからね。こんな酷いケガ、これまで一度だって見たことないんだよ?
確かに、生々しい傷じゃなくて、きっとそれはウラ婆のポーションとかのおかげなのかもしれない。けどーー
「コジマ?」
ヴィルの、右だけになった鉱石みたいな銀色の瞳が心配そうに私を見てる。
けどね、心配してんのは私のほうなの!
「「コ、コジマ!!?!」」
後ろからも、コンラートとクルトがおんなじように私の名前を呼んでる・・・
ああこの2人、そう言えばこないだもハモってたわ・・・とか、場違いなことを思った。
『絶対治す』
「え?」
私が呟いた言葉に、ヴィルが聞き返した。
『こんなお伽話みたいな世界で、こんな綺麗な顔してるのに、こんな酷いケガとかありえないから!嫌だ、嫌‼︎ 絶対、全部キレイに治すから!!!』
そこで、私はヴィルをギュッと胸に抱きしめた。
「うわっ、コジマ?!」
って、ヴィル驚いてるけどそんなの今は気にしてらんない。
実はさっきから私の身体、ずっと真っ白に光ってるんだよね。白くてポッカポカの光が身体の内側からどんどんどんどん湧き上がってくる。
でも、まだまだ。
もっと、もっと、溜め込んでから・・・
もちろん、これまでこんなふうになったことないよ?
でも、なんか感覚でわかるんだよね。
この魔法に溢れた不思議な世界で、私はきっとなんか特別な力を持ってる。
って、勝手に思ってるから。
大丈夫。
目を閉じて、頭の中でひと月前のケガをする前のヴィルの姿を思い描いた。
イメージは簡単に出来るよ。
だって、ヴィルの身体ならたくさん撫で回してきたもん。
ああ、なんか流石に身体が溶けそうに熱くなってきた。
これくらいでいいかな。
私は自分の内側に抑え込んでたその白い光を一気に外へと解き放った。
ブワッて音がして、白い光は私が抱きしめているヴィルの身体を包み込んでいく。
あ、そうか。
いつもやってるマッサージと同じか・・・
マッサージの手の代わりに、この白い光でヴィルの身体の悪いとこをなぞっていけばいい?
いや、これだけパワーがあるなら、全部まとめてなんとかできそう。
胸元に抱き込んだヴィルが、私と一緒に白い光に包まれて、少し不安そうに見上げてる。
ふふ、なんだか可愛い。
いつもしょうもないことばっか言ってて、でも本当はすっごいキレもので隙のないヴィルがこんな表情してんの珍しい。
「・・・ヴィル」
名前を呼びながら、私はヴィルの焦げて短く焼き切れた髪の毛を何度も柔らかく撫でた。
失くしたとこ、傷跡も、この綺麗な髪も瞳も何もかも全部、元の状態に戻してあげるからね。
だから大丈夫だよ。
そんなふうに、ただ強く思った。
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