アリシアの恋は終わったのです【完結】

ことりちゃん

文字の大きさ
20 / 28
続編 クライドル学院にて

7.人気のティールーム

しおりを挟む
 クライドル高等学院に転入して、初めて迎える週末。

 朝というには少し遅い時間に待ち合わせた四人は今、四人掛け馬車で学院から街の中心部へと移動している。


「あー、うん。ちょっと期待してたのと違うけど。いいね、安定の可愛さだよ♡」

 隣に座ったユリウスがアリシアを見てそんなフォローを入れた。
 アリシアは今日、正直なところ何を着ればいいのかわからなかった。
 出かける直前までは、商会から届いたばかりの新作ワンピースを着ていたのだけれど、ふと我に返ったのだ。

(婚活なのよね……つまり着飾るということは、その気があるということ……)

 そしてアリシアが選んだのは制服だった。

 ちなみに男性陣は三人ともシンプルなシャツにトラウザーズを履いている。


「なんだか、ごめんなさい」
「大丈夫ですよ。いつもどおり……その、素敵ですから」

 右斜め前に座ったヨルンもそんな風にフォローしてくれた。

 ちらりと真正面のギルベルトを窺うと、彼は教室にいる時と同じようにずっと窓の外を眺めていた。

(ギルベルト様も、やっぱりご実家からのプレッシャーがあったりするのかしら。乗り気ではないでしょうに……)
 

 一週間を過ごして、アリシアは彼ら三人のサポートを有難いと感じながら、それ以上に申し訳なさを感じていた。

 この三人は今回たまたまアリシアの席を囲んで座っていただけ。それだけの関係なのに、初日からずいぶん助けられている。

 確かに紳士教育の別の目的を知った時は正直なところかなり戸惑ったりもした。
 けれど同時に思った。過剰に彼らを警戒するのはかえって失礼ではないかと。

(だって、まだ誰にも何にも言われてないもの)

 とりあえず、何か動きがあるまではもう少しこのままでいたいなとアリシアは思っていた。
 そしてできるなら、彼らに何かお返しがしたいな、とも。







「アリシアちゃん、王都は初めてじゃないみたいだね?」

 キョロキョロするわけでもなく、知った様子で歩くアリシアにユリウスがそう声を掛けた。

 実はアリシア、王都の中心部には何度も来ている。なぜなら、実家ブルーベル子爵家の母体であるベル商会がこの国でも事業で成功しているから。
 ちなみにクライドルでの商会の呼び名はクリンゲル商会だ。

 母国ランタナではブルーベル家とベル商会のつながりは貴族間で有名だけれど、ここクライドルではあえてそのつながりを伏せている。

 つまり、クリンゲル商会とカウフマン伯爵家、そしてブルーベル子爵家とのつながりは表立っては見えないように手が打たれている。



「あ、はい。親戚がおりますので」
「へえ、それってやっぱり内緒なの?」

「ユリウス、しつこい男は嫌われますよ」

 ヨルンがすかさず突っ込んだ。

 今、ユリウスはいつも通りアリシアの右隣にいるけれど、ヨルンが前ではなく左隣を歩いている。

 じゃあギルベルトはというと、アリシアの後方を護衛するかのように静かについてきている。
 もともと寡黙な彼だけれど、馬車からずっと一言も喋らないギルベルトに、なんだか申し訳ないような、落ち着かないような。
 アリシアは自分でもよくわからない気持ちでいた。


「ねえ、ランチは僕、行ってみたいところがあるんだけど……いいかな?」


 ひと通り店を周り、そう切り出したユリウスが案内してくれたのは、入り口の外に長い行列ができるほどの人気店だった。


「うわ、多いな……」
「だいぶ待ちそうですね」

(たしかに私も一度訪ねてみたかったけれど……)

 そこは今年、アリシアの兄ノアがクリンゲル商会のバックアップのもと立ち上げたティールームだった。
 もちろん出資者や経営者という情報はカモフラージュされているので、その辺りが表に出ることはないのだけれど。

 


「最近人気のティールームなんだけど……今日は無理かなぁ」
「そうですね。かなり気になりますけど、待っていると昼時間をだいぶ過ぎてしまうでしょうね」

 ユリウスとヨルンはとても残念そうだった。

「ここね、女の子が好きそうなお菓子とか輸入雑貨とか、とにかくオシャレなものがいっぱいあるんだって」
 
(ええ、よく存じ上げておりますとも)

「今後のためにチェックしときたかったんだけどなぁ」

 残念そうに言うユリウスに、アリシアは少し迷っていた。
 
 アリシアが顔を通せばきっとVIPルームに案内してもらえる。そうすればいつものお礼として三人に昼食をご馳走様できる上、次の機会にせずとも今日、店内を見てまわることもできる。

 しかし、だ。
 アリシアがここで出しゃばると、秘されているとは言え、ここの出資者に大いに関係があることを自ら明かすことになる。
 婚活的にはかなりのアピールにもなるわけで……

(今日は諦めたほうがいいわね)

 アリシアがそう決めた時だった。


ーーバシッッ!

 と何か音がして、振り向くとそこに立っていたのは、ヘラヘラと掴みどころのない笑みを浮かべた兄のノアだった。

「ちゃんと騎士ナイトやってんじゃん。ってか、いったいなぁ。僕だって気づいてただろ? 加減しろよな、ギルベルト」

 右手の甲をさすりながら、相変わらず読めない表情のノア。
 どうやら、アリシアの側に護衛のように立っていたギルベルトが、ノアの手をはたき落としたようだった。

「アリシアに触れようとしたから……」
「え、なんて? 聞こえないんだけど?」

 絶対聞こえているくせに、ノアはわざわざ聞き返す。
 
(あー、最悪だわ。腹黒ノアに見つかっちゃった……)
 
 ノアは皆に見えない向きでアリシアに目配せすると、ユリウス達にこう声を掛けた。


「良かったら一緒にどう? 僕、今日ここのVIPルーム借りてるんだよね」




しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

〈完結〉前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。

ごろごろみかん。
ファンタジー
「これは白い結婚だ」 夫となったばかりの彼がそう言った瞬間、私は前世の記憶を取り戻した──。 元華族の令嬢、高階花恋は前世で白い結婚を言い渡され、失意のうちに死んでしまった。それを、思い出したのだ。前世の記憶を持つ今のカレンは、強かだ。 "カーター家の出戻り娘カレンは、貴族でありながら離婚歴がある。よっぽど性格に難がある、厄介な女に違いない" 「……なーんて言われているのは知っているけど、もういいわ!だって、私のこれからの人生には関係ないもの」 白魔術師カレンとして、お仕事頑張って、愛猫とハッピーライフを楽しみます! ☆恋愛→ファンタジーに変更しました

邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです

ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

公爵令嬢ルチアが幸せになる二つの方法

ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢のルチアは、ある日知ってしまう。 婚約者のブライアンには、妻子がいた。彼は、ルチアの侍女に恋をしていたのだ。 ルチアは長年、婚約者に毒を飲ませられていた。近年の魔力低下は、そのせいだったのだ。 (私は、彼の幸せを邪魔する障害物に過ぎなかったのね) 魔力不足に陥った彼女の余命は、あと一年だという。 それを知った彼女は自身の幸せを探すことにした。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

婚約破棄のその後に

ゆーぞー
恋愛
「ライラ、婚約は破棄させてもらおう」 来月結婚するはずだった婚約者のレナード・アイザックス様に王宮の夜会で言われてしまった。しかもレナード様の隣には侯爵家のご令嬢メリア・リオンヌ様。 「あなた程度の人が彼と結婚できると本気で考えていたの?」 一方的に言われ混乱している最中、王妃様が現れて。 見たことも聞いたこともない人と結婚することになってしまった。

処理中です...