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続編 クライドル学院にて
7.人気のティールーム
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クライドル高等学院に転入して、初めて迎える週末。
朝というには少し遅い時間に待ち合わせた四人は今、四人掛け馬車で学院から街の中心部へと移動している。
「あー、うん。ちょっと期待してたのと違うけど。いいね、安定の可愛さだよ♡」
隣に座ったユリウスがアリシアを見てそんなフォローを入れた。
アリシアは今日、正直なところ何を着ればいいのかわからなかった。
出かける直前までは、商会から届いたばかりの新作ワンピースを着ていたのだけれど、ふと我に返ったのだ。
(婚活なのよね……つまり着飾るということは、その気があるということ……)
そしてアリシアが選んだのは制服だった。
ちなみに男性陣は三人ともシンプルなシャツにトラウザーズを履いている。
「なんだか、ごめんなさい」
「大丈夫ですよ。いつもどおり……その、素敵ですから」
右斜め前に座ったヨルンもそんな風にフォローしてくれた。
ちらりと真正面のギルベルトを窺うと、彼は教室にいる時と同じようにずっと窓の外を眺めていた。
(ギルベルト様も、やっぱりご実家からのプレッシャーがあったりするのかしら。乗り気ではないでしょうに……)
一週間を過ごして、アリシアは彼ら三人のサポートを有難いと感じながら、それ以上に申し訳なさを感じていた。
この三人は今回たまたまアリシアの席を囲んで座っていただけ。それだけの関係なのに、初日からずいぶん助けられている。
確かに紳士教育の別の目的を知った時は正直なところかなり戸惑ったりもした。
けれど同時に思った。過剰に彼らを警戒するのはかえって失礼ではないかと。
(だって、まだ誰にも何にも言われてないもの)
とりあえず、何か動きがあるまではもう少しこのままでいたいなとアリシアは思っていた。
そしてできるなら、彼らに何かお返しがしたいな、とも。
◇
「アリシアちゃん、王都は初めてじゃないみたいだね?」
キョロキョロするわけでもなく、知った様子で歩くアリシアにユリウスがそう声を掛けた。
実はアリシア、王都の中心部には何度も来ている。なぜなら、実家ブルーベル子爵家の母体であるベル商会がこの国でも事業で成功しているから。
ちなみにクライドルでの商会の呼び名はクリンゲル商会だ。
母国ランタナではブルーベル家とベル商会のつながりは貴族間で有名だけれど、ここクライドルではあえてそのつながりを伏せている。
つまり、クリンゲル商会とカウフマン伯爵家、そしてブルーベル子爵家とのつながりは表立っては見えないように手が打たれている。
「あ、はい。親戚がおりますので」
「へえ、それってやっぱり内緒なの?」
「ユリウス、しつこい男は嫌われますよ」
ヨルンがすかさず突っ込んだ。
今、ユリウスはいつも通りアリシアの右隣にいるけれど、ヨルンが前ではなく左隣を歩いている。
じゃあギルベルトはというと、アリシアの後方を護衛するかのように静かについてきている。
もともと寡黙な彼だけれど、馬車からずっと一言も喋らないギルベルトに、なんだか申し訳ないような、落ち着かないような。
アリシアは自分でもよくわからない気持ちでいた。
「ねえ、ランチは僕、行ってみたいところがあるんだけど……いいかな?」
ひと通り店を周り、そう切り出したユリウスが案内してくれたのは、入り口の外に長い行列ができるほどの人気店だった。
「うわ、多いな……」
「だいぶ待ちそうですね」
(たしかに私も一度訪ねてみたかったけれど……)
そこは今年、アリシアの兄ノアがクリンゲル商会のバックアップのもと立ち上げたティールームだった。
もちろん出資者や経営者という情報はカモフラージュされているので、その辺りが表に出ることはないのだけれど。
「最近人気のティールームなんだけど……今日は無理かなぁ」
「そうですね。かなり気になりますけど、待っていると昼時間をだいぶ過ぎてしまうでしょうね」
ユリウスとヨルンはとても残念そうだった。
「ここね、女の子が好きそうなお菓子とか輸入雑貨とか、とにかくオシャレなものがいっぱいあるんだって」
(ええ、よく存じ上げておりますとも)
「今後のためにチェックしときたかったんだけどなぁ」
残念そうに言うユリウスに、アリシアは少し迷っていた。
アリシアが顔を通せばきっとVIPルームに案内してもらえる。そうすればいつものお礼として三人に昼食をご馳走様できる上、次の機会にせずとも今日、店内を見てまわることもできる。
しかし、だ。
アリシアがここで出しゃばると、秘されているとは言え、ここの出資者に大いに関係があることを自ら明かすことになる。
婚活的にはかなりのアピールにもなるわけで……
(今日は諦めたほうがいいわね)
アリシアがそう決めた時だった。
ーーバシッッ!
と何か音がして、振り向くとそこに立っていたのは、ヘラヘラと掴みどころのない笑みを浮かべた兄のノアだった。
「ちゃんと騎士やってんじゃん。ってか、痛いなぁ。僕だって気づいてただろ? 加減しろよな、ギルベルト」
右手の甲をさすりながら、相変わらず読めない表情のノア。
どうやら、アリシアの側に護衛のように立っていたギルベルトが、ノアの手をはたき落としたようだった。
「アリシアに触れようとしたから……」
「え、なんて? 聞こえないんだけど?」
絶対聞こえているくせに、ノアはわざわざ聞き返す。
(あー、最悪だわ。腹黒ノアに見つかっちゃった……)
ノアは皆に見えない向きでアリシアに目配せすると、ユリウス達にこう声を掛けた。
「良かったら一緒にどう? 僕、今日ここのVIPルーム借りてるんだよね」
朝というには少し遅い時間に待ち合わせた四人は今、四人掛け馬車で学院から街の中心部へと移動している。
「あー、うん。ちょっと期待してたのと違うけど。いいね、安定の可愛さだよ♡」
隣に座ったユリウスがアリシアを見てそんなフォローを入れた。
アリシアは今日、正直なところ何を着ればいいのかわからなかった。
出かける直前までは、商会から届いたばかりの新作ワンピースを着ていたのだけれど、ふと我に返ったのだ。
(婚活なのよね……つまり着飾るということは、その気があるということ……)
そしてアリシアが選んだのは制服だった。
ちなみに男性陣は三人ともシンプルなシャツにトラウザーズを履いている。
「なんだか、ごめんなさい」
「大丈夫ですよ。いつもどおり……その、素敵ですから」
右斜め前に座ったヨルンもそんな風にフォローしてくれた。
ちらりと真正面のギルベルトを窺うと、彼は教室にいる時と同じようにずっと窓の外を眺めていた。
(ギルベルト様も、やっぱりご実家からのプレッシャーがあったりするのかしら。乗り気ではないでしょうに……)
一週間を過ごして、アリシアは彼ら三人のサポートを有難いと感じながら、それ以上に申し訳なさを感じていた。
この三人は今回たまたまアリシアの席を囲んで座っていただけ。それだけの関係なのに、初日からずいぶん助けられている。
確かに紳士教育の別の目的を知った時は正直なところかなり戸惑ったりもした。
けれど同時に思った。過剰に彼らを警戒するのはかえって失礼ではないかと。
(だって、まだ誰にも何にも言われてないもの)
とりあえず、何か動きがあるまではもう少しこのままでいたいなとアリシアは思っていた。
そしてできるなら、彼らに何かお返しがしたいな、とも。
◇
「アリシアちゃん、王都は初めてじゃないみたいだね?」
キョロキョロするわけでもなく、知った様子で歩くアリシアにユリウスがそう声を掛けた。
実はアリシア、王都の中心部には何度も来ている。なぜなら、実家ブルーベル子爵家の母体であるベル商会がこの国でも事業で成功しているから。
ちなみにクライドルでの商会の呼び名はクリンゲル商会だ。
母国ランタナではブルーベル家とベル商会のつながりは貴族間で有名だけれど、ここクライドルではあえてそのつながりを伏せている。
つまり、クリンゲル商会とカウフマン伯爵家、そしてブルーベル子爵家とのつながりは表立っては見えないように手が打たれている。
「あ、はい。親戚がおりますので」
「へえ、それってやっぱり内緒なの?」
「ユリウス、しつこい男は嫌われますよ」
ヨルンがすかさず突っ込んだ。
今、ユリウスはいつも通りアリシアの右隣にいるけれど、ヨルンが前ではなく左隣を歩いている。
じゃあギルベルトはというと、アリシアの後方を護衛するかのように静かについてきている。
もともと寡黙な彼だけれど、馬車からずっと一言も喋らないギルベルトに、なんだか申し訳ないような、落ち着かないような。
アリシアは自分でもよくわからない気持ちでいた。
「ねえ、ランチは僕、行ってみたいところがあるんだけど……いいかな?」
ひと通り店を周り、そう切り出したユリウスが案内してくれたのは、入り口の外に長い行列ができるほどの人気店だった。
「うわ、多いな……」
「だいぶ待ちそうですね」
(たしかに私も一度訪ねてみたかったけれど……)
そこは今年、アリシアの兄ノアがクリンゲル商会のバックアップのもと立ち上げたティールームだった。
もちろん出資者や経営者という情報はカモフラージュされているので、その辺りが表に出ることはないのだけれど。
「最近人気のティールームなんだけど……今日は無理かなぁ」
「そうですね。かなり気になりますけど、待っていると昼時間をだいぶ過ぎてしまうでしょうね」
ユリウスとヨルンはとても残念そうだった。
「ここね、女の子が好きそうなお菓子とか輸入雑貨とか、とにかくオシャレなものがいっぱいあるんだって」
(ええ、よく存じ上げておりますとも)
「今後のためにチェックしときたかったんだけどなぁ」
残念そうに言うユリウスに、アリシアは少し迷っていた。
アリシアが顔を通せばきっとVIPルームに案内してもらえる。そうすればいつものお礼として三人に昼食をご馳走様できる上、次の機会にせずとも今日、店内を見てまわることもできる。
しかし、だ。
アリシアがここで出しゃばると、秘されているとは言え、ここの出資者に大いに関係があることを自ら明かすことになる。
婚活的にはかなりのアピールにもなるわけで……
(今日は諦めたほうがいいわね)
アリシアがそう決めた時だった。
ーーバシッッ!
と何か音がして、振り向くとそこに立っていたのは、ヘラヘラと掴みどころのない笑みを浮かべた兄のノアだった。
「ちゃんと騎士やってんじゃん。ってか、痛いなぁ。僕だって気づいてただろ? 加減しろよな、ギルベルト」
右手の甲をさすりながら、相変わらず読めない表情のノア。
どうやら、アリシアの側に護衛のように立っていたギルベルトが、ノアの手をはたき落としたようだった。
「アリシアに触れようとしたから……」
「え、なんて? 聞こえないんだけど?」
絶対聞こえているくせに、ノアはわざわざ聞き返す。
(あー、最悪だわ。腹黒ノアに見つかっちゃった……)
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