アリシアの恋は終わったのです【完結】

ことりちゃん

文字の大きさ
21 / 28
続編 クライドル学院にて

SIDEギルベルト

しおりを挟む

 男子寮の三年生専用サロンが何やら騒がしい。
 喉が渇いたギルベルトは、寝る前に何か冷たいものをと思ったのだが、中を覗き見て少し後悔した。
 
「「ウェーイ」」」
 
 あの二人が、炭酸水で何度も乾杯を繰り返している。

「どうしたお前ら,いよいよ沸いたか?」

「おっ、いいとこに来たなにぃちゃん!」
「ほら、こっち来て座んな!」

 酔っているわけでもないのに、テンション高めな彼らは、まあいつもこんな感じではあるが、なんだかとても嬉しそうだ。


(こいつらに相談してみるか?)

「ギルベルト、お前明日彼女と出掛けんだろ?」
「心配すんな、どうしたってユリウスとヨルンには勝てねーから!」

「「ギャハハハハ!!」」


(やっぱりやめとくか)

「おい、待てって! 冗談だって!」
「俺達ほら、こう見えてもう相手いるんだぜ? 相談に乗ってやるから」

(ああ、そうだったな……)

 炭酸水を片手に、ギルベルトは二人の対面に腰掛ける。


「よし、そうこなくちゃ! まずは俺たちにお前の胸の内をさらけ出せ!」
「そうだ、話はそれからだ!」

(部屋で一人、思い悩むよりはいいかもな……)


「まあ、いざとなったら先輩直伝のアレだ!」
「そうだ、ノア・メソッドな! イケメン限定だけどな!」

  
 こうして三人の夜は更けてーーいけば良かったのだが、消灯時間が十分後に迫っていた。



◇◇


(ギルベルト視点でお送りします)


 女のことなんて絶対に好きになれない。なるわけがない。

 ずっとそう思ってきた。
 悪いのはあいつらであって、他の女性は何も悪くない。そう、頭ではわかっていても、身体が拒絶してしまうんだ。

 しかし、リヒター家の跡取りは俺しかいないし、親戚から誰かを養子に据えようにも、近い血筋にはあの強烈な三姉妹しかいない。

 俺が何とかしなくては。そういう思いはずっとあった。

 


 アリシア・ブルーベル

 隣国から転校してきた彼女は、真っ直ぐな黒い髪に深い青の瞳をしていた。
 彼女と目が合うと、俺は息が止まるほどの衝撃に、全身が固まったように動かなくなってしまった。

 こんな時期になってランタナから転校生が来る。
 彼女が来る少し前に知らされたニュースで、実はしばらく騒がしかった。

 緑色のリボンらしい、ということでまだ相手のいない男どもは浮き足立っていたが、正直俺には他人事でしかなかった。
 実際に彼女を見るまでは。


 ユリウスが彼女をランチルームへ案内するため差し出した手をはたき落としたのは、完全に無意識だった。

 だって、彼女に触れて欲しくなかったから。


『あの、あなたのことは何てお呼びすればいいかしら?』

 俺は女子の高い声で名前を呼ばれるのが大嫌いだ。あいつらのせいで、無関係な女子に名を呼ばれても身の毛がよだつ。
 俺は一生、ずっとこのままなのだろうなと思っていた。

 それがあの日、ランチルームで彼女に声を掛けられた時、彼女の美しい声でどうしても自分の名前を、できれば愛称で呼んでほしいと思ってしまった。

 自分は一体どうなってしまったんだ。
 本当に何が起こっているのか未だにわからないんだ。

「アリシア」
「アリシア、アリシア……」

 部屋に一人でいると、何度でも呼んでしまう。

 目を閉じると、彼女の照れたような微笑みが瞼に浮かぶ。

 少し近づくと、フワっと甘い香りがして、どうしようもない気持ちになる。

 早朝の中庭で、偶然彼女に会えたあの日はその幸運を神に感謝した。

 彼女に濡れた髪を拭いてもらった時、俺はしばらく呼吸を忘れるほどだった。
 彼女自身も無意識だったのだろう。ハッと気がついた時の彼女の可愛らしさと言ったら!!

 彼女の走り去る後ろ姿が見えなくなった後、こっそりと彼女の座っていた方へ移動したことは絶対に誰にも言えない秘密だ。

 
 掴んだ手の小ささも、柔らかさも、息を飲むほどに美しい微笑みも、あのサファイアみたいな澄んだ瞳も……

 彼女の全部が俺だけのものになったらいいのにって、最近はそればっかりだ。


 
 ユリウスはいい奴だ。
 言動は軽いが、実際は真面目で信頼もできる。なんでもそつなくこなせる器用なタイプだ。きっとアリシアも彼を好きになる。

 ヨルンもいい奴だ。何より頭がいい。身体つきは俺に言わせるとちょっと細過ぎるが、細身がタイプの女子も多いと聞く。おまけによく気がつくタイプだから、アリシアもきっと彼を好きになる。

 じゃあ、俺は?
 女子には感じ悪いし、無口で無愛想。身体を鍛えるのが好きだが、気の利いたことも言えないし、できない。何をすれば彼女に喜んでもらえるのかさえわからない。


 一体、俺のどこに好きになってもらえる要素があるだろうか?
 


◇◇



 せっかく三人で彼女を誘って街を案内するというのに、なんなんだ、俺は今日一体何をしに来ているんだ。

 馬車に乗っても、正面に座るアリシアが眩し過ぎて直視出来やしない。気の利いた言葉一つ掛けられない。     
 そして結局俺は窓の外を見るしかない。これじゃあ教室にいる時と同じじゃないか。完全に逃げだ、このチキン野郎。

 どの口が『婚活だ』とか抜かしやがったんだ。くそっ、自分自身が情けなくて嫌になる。

 
 ユリウス達は学生がよく行く店をアリシアに案内しているが、俺は楽しそうに歩く三人を後ろで見守ることしかできない。

 昼になっても、気の利いた店のひとつも知らないし、目の前のこのティールームのことだって今初めて知ったところだ。

 長蛇の列を前に、残念そうなユリウスとヨルン。そして、困ったような顔のアリシア。

 俺が気の利く男なら、こんな時もっとスマートに代わりの店を提案したりできるのに……




 そう思った時だった。

ーーバシッッ!!

 アリシアの黒髪に触れようとする不埒な手が伸びてきて、俺は思わずそれをはたき落としていた。

 途中で淡い緑色の髪が視界に入った。
 
 ノアさんか?! 
 と思ったが、なおさら力を加減出来なかった。

 この人はダメだ。
 絶対にダメだ。
 

『良かったら一緒にどう? 僕、今日ここのVIPルーム借りてるんだよね』


 あー、最悪だ。

 よりにもよって、一番会わせたくない男とアリシアが顔を合わせてしまうなんて。

 



ーーーーーーーーーーーー
だんだん一話が長くなりますね。
読みにくかったらすみませぬ。

あと何話かな、まだ書き終わってないですが挿話とこの話含めて12話超えたら本編より長い……

まあ、仕方ないか(^◇^;)
しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】伯爵令嬢の責務

ごろごろみかん。
恋愛
見てしまった。聞いてしまった。 婚約者が、王女に愛を囁くところを。 だけど、彼は私との婚約を解消するつもりは無いみたい。 貴族の責務だから政略結婚に甘んじるのですって。 それなら、私は私で貴族令嬢としての責務を果たすまで。

〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」 その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。 「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

〈完結〉伯爵令嬢リンシアは勝手に幸せになることにした

ごろごろみかん。
恋愛
前世の記憶を取り戻した伯爵令嬢のリンシア。 自分の婚約者は、最近現れた聖女様につききっきりである。 そんなある日、彼女は見てしまう。 婚約者に詰め寄る聖女の姿を。 「いつになったら婚約破棄するの!?」 「もうすぐだよ。リンシアの有責で婚約は破棄される」 なんと、リンシアは聖女への嫌がらせ(やってない)で婚約破棄されるらしい。 それを目撃したリンシアは、決意する。 「婚約破棄される前に、こちらから破棄してしてさしあげるわ」 もう泣いていた過去の自分はいない。 前世の記憶を取り戻したリンシアは強い。吹っ切れた彼女は、魔法道具を作ったり、文官を目指したりと、勝手に幸せになることにした。 ☆ご心配なく、婚約者様。の修正版です。詳しくは近況ボードをご確認くださいm(_ _)m ☆10万文字前後完結予定です

処理中です...