美味しい食卓

マニアックパンダ

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蜜の味②

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歩いて3分のカラオケに入って、酒とつまみを頼んだ。

「で、なんだ?ここまでするってぇ事はよっぽど儲かる話なんだろ?」
「あぁ、きっと信じちゃくれねえだろうが、俺はここ3か月毎日笑いが止まらねぇよ」
「なんだ?信じるから早く言ってくれ」
「まあ俺も最初は信じなかったからしょうがないんだけどな。まあ笑い話だと思えばいいさ」

勿体付けてやればやるほど目が血走っていきやがる。もう目の前の酒もつまみも忘れてるようだ。

「その日俺はオートレースでいつものように負けてたんだよ、でだ、帰り道カップ酒を呷りながら歩いてたらよ、公園に金持ちそうな爺が座ってやがったのよ。でだ、俺はなんかむしゃくしゃしてな、そいつみたいな奴が金を独り占めしてやがるから俺らに金が回って来ないんだって思ってよ、なあわかるだろ?」
「おう、わかる、で?」
「でだ、からかってやろうって思って声を掛けたのよ。そしたらその爺がよ、「信じられない話をしましょう」って勝手に語りだしたのよ。そいつはな、懐から布を出したんだよ、高そうな紫の布に包まれてたのは小汚い石だ、どこにでもあるような、な。で、これのおかげで山ほどの財産を築いたとか言いやがるのよ」

ここで俺は酒をゆっくりと飲みながら男の顔を見る。バカを見るような目をしてやがる・・・・・・まあそりゃそうだろう、俺だってこんな話聞かされたら怒るか、バカにするかどちらかだ。

「ここまででも信じられねぇだろ?どうだ、ここまでにするか」
「ちょ、ちょっと待て、もう少し話を聞こう。ただ本当の話なんだろうな?かつぐ気じゃねぇな?」
「そう思うんだったらそれまでだよ、俺もそう思ったしな」

俺はそう言いながら立ち上がる素振りを見せる。

「待てって、信じてる信じてる、ただ嘘くせい話だろうよ」
「まあな、で?」
「聞かせてくれ」
「おう、そこまで言うならな。でだ、俺は信じるかどうかは別として、その爺の持ってる石を奪って逃げてやろうと思ったのよ。そしたらよ、「これは奪っても盗んでもご利益はありません」とか先に言いやがるのよ、なんでわかるんだよ?って言ったら、その爺も昔同じように考えて盗んだそうなんだよ。「これは持ち主にお金を払わないと効力を発しないんです」なんて言うんだ」

こいつ聞こえないと思ってるかも知れんが、小さく舌打ちしやがった。まぁ考えてる事はお見通しなんだよ。ここからラストスパートだ。俺は腕時計をチラチラ何度も見る。

「で、2つある石を見せてきて「200万」とかバカな事を言い出しやがったんだ。かつぎやがって、バカにしやがってって思ってよ、俺は手に持ってた酒を顔に掛けて帰ったんだよ」
「ん?石が金になるんじゃねぇのか?」
「おう、帰ろうと歩き出したんだが、なぜか妙に気になって仕方なくてよ、もう一回爺のとこに行ったんだよ、で謝り倒してもう一回石を見せて貰ったんだが、気になるのよ。で、2個もいらねぇから1個じゃいかんのか?って聞いたらよ、「いつかお世話になった人間が頭に浮かぶかもしれない、その時1つを譲ればいい」とか言って頑として譲らねぇのよ」
「で、だ。そうは言っても先立つ物はねぇ、そりゃスッったばかりだし、元々200万なんてそんな大金は持ち合わせちゃいねえ。そしたら明日同じ時間にここにいるから、もしどうしても欲しいと思えたら工面してこいとか言われてな~」
「その夜は考えたよ、どう聞いたって眉唾もんだろ?酒飲みながらニュースを見てたらよ、その爺が出てんのよ、世界に名立たる大企業の創設者で会長だってよ。そんな有名人がそんな眉唾な話をマジメな顔で話して、そいつらにしたら掃いて捨てるほどのはした金を欲しがるか?って考えてよ・・・・・・朝から親戚友人顔見知り、ちょっとヤバイ知り合いにまで土下座して頼んで無理矢理200万用意して爺から石を買ったんだよ」
「で、渡される時に念を押されたのはだ、誰かに譲るのは構わないと。だけどだ、必ず1つ100万だと言うんだよ。もう俺が金を払ったんだからどうでもいいだろって思ったんだけどな、あまりにも真剣だから一応聞いたんだ。その理由ってのがな、石に100万なんて大金を出して買う、するとその石は自分なんかに100万もの大金を払ってくれたって感謝して、その恩返しに山ほどの金を寄こしてくれるって言うんだよ」

石の意思ってか?くだらねえダジャレだ、クスリとも笑えないね。

「で、次の日から舟に掛けても大穴がくるし、宝くじ買やあ当たるしだ。で、馴染みの女によ石を持たせて何日か過ごさせたんだが、そいつにゃ何にも起きやしねえ」

「まぁ、こんな話だ、な?嘘くせえだろ?まあ信じなくてもしょうがない、こんな話じゃガキも騙せねえよ」

俺はわざと苦笑しながら、また時計を見る。

「じゃあ、これから俺はモデルやってる女と会うんでな、まあもし石が欲しけりゃまでに連絡をくれ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。100万なんて大金明日までに用意できねえよ」
「いや、待ってやりたいんだが、は「話をした事」と「大金を払われる事」を覚えてられるのがたった一日らしくてよ、仕方ないんだ。まぁ明日連絡なければ、他人に同じ話をするか自分で持ってるかだ。だが、そうだな・・・・・・もし金を払って一週間経っても金を得れない場合は倍の金を返してやるよ」
「じゃあ、時間もないんでな。俺は行くぜ」

そう言って俺は、先日拾った知らない女の携帯番号を教えた。
そう言えばこの携帯電話の持ち主もバカな奴だ。電話なんてさっさと停止させりゃあいいものを、何度も電話してきては「返してください、それまでちゃんと持っててくださいね」なんて意味のわからない事を言ってやがった。

俺はタクシーを拾い、数回乗り継いでから自宅の古アパートへと帰った。




次の日、俺は連絡してきた河合をタクシーで拾ってある豪邸の前まで来た。
そして何度も金の事を口にする奴の目の前で、に正面玄関から、さも主人のような顔をして入る。
おうおう、大事そうにとを握りしめて、家を見てやがる。
この家は10日前から、お前のような奴の為に使用している空き家だよ。せいぜい住所を書留めればいいさ。
俺は裏口からそっと出ると、自宅へと帰る。
これで当分旨い飯が食える。
バカを騙すのは楽しくて仕方がない、しかも10人も引っかかるとは笑いが止まらない。

『他人の不幸は蜜の味ですか?』
「おう、旨い蜜だ」

思わず返事しちまったが誰だ?
振り返ると知らない女が大きな金槌を振りかぶっていた。

ああ、目の前が赤い・・・・・・
なんだ、何かが引っかかっている・・・・・・

そうか、さっきの声は電話してきたバカな女の声だ・・・・・・
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