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動乱
55話
しおりを挟む翌日の蓮花は運搬用の盆の上に出来た物を配膳係の元へと運びに行く担当になっていた。
厨房から配膳係の元へと向かうには少し距離があり、運ぶ数もそれなりには多いので運ぶ時は人手がいる。今日は人数が少なかったので助っ人で何人かが急遽声をかけられていた。
蓮花が人が集まるのを待っている時、昨日挨拶をした宇民がいるのに気付く。
宇民は今日も頭に布巾をつけて柔和な笑みで横にいた人と話していた。宇民の柔らかい雰囲気で同僚のみんなとはすっかり溶け込んでいた。
やっと人が足りたのか上役の指示で運ぶ盆を指定される。
「宇民さんは私の前ですね」
「蓮花さん、よろしくお願いします。こうやって運ぶのは初めてなので、落とさないか緊張します」
「わかります、私もそうでした」
今日は蓮花は先頭から三番目。その前にいる宇民は先頭から二番目だった。
宮廷は様々な通路があり、なかなか道を覚えるのが大変だ。蓮花も間違えて曲がろうとしてしまい、止められたことが数回ある。
今日の先頭の人はあまりこの係をやったことがないようで、右に曲がらなければならないところを左に進み始めてしまった。
蓮花は慌てて止めようと口を開いた。
「ここは右に曲がるのが正解だと思いますよ」
「あ、本当ですね! ありがとうございます」
「いえいえ」
ところが蓮花が訂正するよりも早く宇民が先頭の人を制する。
昨日感じた記憶力の高さがここにも発揮されるとは、と最初は感心した蓮花だったがふと疑問を感じる。
宇民は食事を運ぶのは初めてだと言っていた。なのになぜ道を間違えている事がわかったのだろう。
違う業務で通ったと言われればそれまでだが、運搬に使われる通路は人の行き来で生じる埃などが入らないようにするため運搬のためにしか使われないような道筋だ。
別の業務にしても宇民が知り得ることはあまりないのではないか。
そこまで至った時目的地に到着したようで、待っていた配膳係にお盆を渡していく。役目を終えた厨房の面々は業務の邪魔をしないように元の持ち場に戻ってゆく。
蓮花も後に続いて足を進めていたがふと前を歩く宇民の布巾の結び目が緩んでいることに気づいた。このままでは落ちてしまうと思った蓮花は宇民に伝えようと近付いた。
しかし一歩遅かったようで結び目が解けてしまい布巾が浮き上がる。
「あっ」
落ちると思った蓮花は慌てて宇民の布巾を掴もうとした。
「――ッ!! なんですか?」
蓮花の指が触れた時、宇民は勢いよく振り返り布巾ごと頭を押えた。
蓮花は振り返った瞬間の宇民の目のあまりの鋭さに出していた手を引っ込める。
「す、すいません……。布巾が落ちそうになっていたので落ちてはいけないと思って。余計なお世話でしたね」
「え? あ、ああ、そうだったんですか……。こちらこそすいません。つい驚いてしまって」
そう謝る宇民は蓮花がよく見る笑顔を浮かべていた。蓮花も頬を上げて笑みを作ったが、宇民の微笑みと先程の視線の鋭さの落差になんとも言えない違和感が蓮花の心に強く残っていた――。
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