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動乱
69話
しおりを挟む突如開いた扉の方に目を向けると、そこにはちょうど思考の中心にいた人物、飛龍がたっていた。どこか気まずそうな顔をしているように見えるのは王林の心の現れなのか。
「柳左僕射、急に尋ねて申し訳ない」
「これはこれは――飛龍様。如何されました?」
皇子である飛龍を立たせっぱなしにする訳にはいかないので、執務机とは別の机の元へ座るよう促す。
王琳も先程まで見ていた配置表を横に置き、同じ机の席に着く。
休憩用に置いてあった茶を注ぎ、飛龍と自分の前に用意すると、飛龍は礼を言い口をつける。
「次の宴の配置はもう見たか?」
「数日前に確認したところだったんですが、ちょっと気になることができて再確認していた所です」
「それは……私の給仕の件で?」
恐る恐るといった様子でこちらの様子を伺う飛龍を見て王琳は思わず笑いそうになったが、頑張って抑える。
「ということは飛龍様もご承知のことなんですね? 私は昨日娘から聞きまして」
「蓮花ももう知っているのか?! 参ったな……」
頭を抱える飛龍におや、と王林は心の中で驚く。蓮花の口ぶりから飛龍の正体は知らないだろうと思っていたが、飛龍の指示で給仕係になったのかと考えていたからだ。
しかし飛龍の発言を聞いていてもどうやら飛龍自身が指示したことではないらしい。
「今日は柳左僕射にどうしても聞きたいことがあって来たんだ」
「なんでしょうか?」
先程までとは違い背筋を伸ばし、真っ直ぐ王琳と目を合わせる飛龍。王琳も聞く姿勢を改める。
「私は蓮花が好きだ。できるのであれば妻にしたいと思っている。と言っても私が自分の気持ちに気付いたのもついこの間なんだが……」
あまりに真っ直ぐな告白に思わず目を丸くする王琳。てっきり何かしらの言い訳が飛んでくると思っていたので予想外の言葉に好感を持ってしまう。
「まさか娘とそこまで仲良くしてくださっていたとは知りませんでした。光栄なお話ではありますが、私達のような身分では妃になるには不相応かと思うのですが」
「身分は関係ない。父上も母上もお互い想いあったからこそ結ばれたのだ。むしろ龍人にとってはそれが一番良い伴侶となる」
飛龍は王琳が身分のことを持ち出してくると予想をしていたのかすぐさま反論する。
「蓮花が私のことをどう思っているかは分からないが無理強いは絶対にしないと約束できる。それに……」
「まだ身分を明かしていない、ですか」
「ああ」
飛龍は再び決まりの悪い顔をして茶を飲む。
「私は娘の気持ちが伴っているのであれば好きな人の元へと嫁がせてやりたいと思っています。蓮花が飛龍様のことを好きなのであれば後宮にだって嫁にやります」
「柳左僕射……」
「ですが、それにはまず娘に飛龍様の本当の姿を見せていただけませんと」
にっこりと音がつきそうな程の笑顔でそう言い放つ王琳に飛龍はギクリと固まった。
「どうにか時間を作って蓮花に打ち明けようとは思っている。だからもし蓮花が私の身分を知って、私の想いを受け入れてくれた時は――蓮花に求婚する許しをください」
いつもの皇族と臣下ではなく、一人の男として好きな女人の父に許しを乞い頭を下げる飛龍。王琳もその真摯に頭を下げる姿に心から微笑みが浮かぶ。
「ええ、飛龍様。その時は蓮花に求婚することを許しましょう」
王琳も一人の娘の父として、飛龍にそう告げる。お互いが大事に思う蓮花という存在を介してここに新たな絆が出来た瞬間だった。
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