芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥

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動乱

70話

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 王琳の執務室を後にした飛龍は、とりあえずの難所を超えたことに胸を撫で下ろした。
 王琳に宣言したからには出来れば宴の前に蓮花に会う時間を作らねばと考えながら廊下を歩く。すると向こうの方から駆け足でこちらにくる雲嵐に気づく。

「飛龍様、お耳に入れたい事が」
「どうした」

 雲嵐に問いかけたが場所が悪いのか、飛龍の部屋へと連れられた。
 部屋についた二人は人払いをして鍵を閉める。今の状況では侍女や侍従の中に敵の手の者がいてもおかしくないので用心を重ねている。

「先程、内偵から報告がありました。皇帝陛下の毒見役のことです。二ヶ月ほど前に五年程勤めていた者が急に辞職したいと言い出したらしく、新しい毒見役に変わっていました」
「前の毒見役はなぜ急に辞めると?」
「それが上役が聞いたところ故郷に帰らねばならなくなったとか。少し様子がおかしかったとの事ですが、無理に引き止めることも出来なかったので辞職を認めたと」

 毒見役は滅多に変わることは無い。長年同じ者を使うことで異変が起きた際に、体質のものなのか毒が混入したのか分かるようにするためだ。
 毒見役を頻繁に変えてしまうと、体質や背後関係を洗うのに人的、時間的負担が大きい。もちろん定期的な身辺調査は行うように決められている。
 五年前の交代の際は前任の者が高齢のため前もって後任者を探していた。着任の際にもきちんと身辺が怪しくないか調査は行っている。

 しかし毒見役が変わったという報告はこちらの方にまで回ってきていない。上役は報告は必ずしたと言っているし、代々皇族に仕えている家系なので虚偽ではないだろう。

 
「どこかで情報が消されたか……。新しい毒見役の身辺調査は?」
「はい。緊急で調査しましたが怪しい所は特にありませんでした。むしろ綺麗すぎるくらいです。工部侍郎の弟の家に下宿して、出稼ぎに来ているとの事ですが……」
「なんだ?」
「故郷だと話している村に行きましたが誰もそいつの事を知らなかったそうです。村の住人が年月で入れ変わったのかと思いましたがどうやらそれも違うそうです」

 書類上の記録と実際の情報が合わないなんて時には大概ろくな理由じゃない。飛龍は思わずため息をついた。

「――作られた人物か。何かしらの理由で全く違う人物になりすましているんだろう。脅されているのか、金か、それとも心から反旗を翻したいのか」
「毒見役は、宇民と名乗っており中年の痩せ型の男性で同僚からは穏和で人当たりがいいと評判は高いそうです」

 雲嵐は内偵からの報告書であろう紙を見ながら報告を続ける。
 飛龍は蓮花に会いにいく時間を作りたい反面、この報告を軽んじる訳にも行かずやけくそ気味に口を開いた。

「宇民と話がしたい。出来るだけ早く連れてこい」
「飛龍様が直接お会いになるんですか? それは少し無茶かと」
「無茶でもやらねば仕方が無い。心配するな、自分の身くらい自分で守れるくらいには鍛えている。日にちが決まったら教えてくれ」

 雲嵐はこう言い出した飛龍が聞かないことは過去の体験からわかっているので、やれやれと聞こえそうな顔で頭を下げた。
 
 
 
 
 
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