芙蓉は後宮で花開く

動乱

77話

　なぜ晋奏が罪を犯す事になったのか。その経緯を聞き終えた飛龍、雲嵐、王琳の面持ちはどれも渋いものだった。
　確かに晋奏の境遇には理不尽に辛い内容も含まれていた。しかしだからといって国主である皇帝に毒を盛ってもいいという訳では無い。

　皇帝を殺そうとした晋奏は死罪を免れないだろう。恐らく晋奏を仕向けた黒幕はそうなったとしても、いい口封じになったと諸手を挙げる。

　飛龍は思わずこめかみを揉んで思考する。すると目の端にゆらりと動く影が見えた。それは晋奏に近づく王琳だった。

　王琳は晋奏の胸倉を掴み腕を振りかぶったと思ったら思いっきり殴り飛ばしたのだ。

「柳左僕射！」

　雲嵐が思わず王琳の腕を掴む。

「どうして……どうして相談してくれなかったんだ!!」
「相談もせずに借金を負わせて逃げた俺を恨んでいるだろう……、俺は一言でもお前に謝りたいと――」
「そうじゃない!!　そんなことはどうだっていい！」

　殴られた勢いで地面に倒れた晋奏の元へ膝をつき胸倉を引き寄せる。晋奏の頬に雫が落ちてきた。
　それは王琳の涙だった。王琳は両目から大粒の涙をぼろぼろと零して晋奏を見つめていた。

「お前は私の事を親友と言っておきながら、結局は見限られるのが怖くて逃げたんだ。本当に私の事を分かっていたならそんな事で失望なんてしないと分かっているはずなのに」
「っそれは……」
「私がお前がいなくなった後どんな気持ちになったか分かるか?!」
「だから裏切られたと思ったんだろ！」

　晋奏は胸倉を掴む王琳の腕を振り払う。そして耐えられないと言わんばかりに顔を背ける。
　
「違う！　まるでぽっかり穴が空いたようだったよ。まだ妻と出会ってもいなかったあの時、私の本当の理解者は晋奏、お前しかいなかった……。だからこそなんだって相談できたし、お前もそうだと思っていた」

　王琳の言葉を聞いてハッと目を見開く晋奏。王琳も同じく自分と同じように思ってくれていたのかと思わず視界がぼやける。それを振り切るように目を強くつぶ瞑る。

「だとしても……逃げた事実は変えられない。もうやり直すことは出来ない。この命を持って償うことしか出来ないんだ……」

　飛龍は晋奏のその言葉を聞いてある案を思いつく。

「確かに、皇帝を屠ほふろうとした罪は死罪に値する。お前は罪を償わなければならない。それは重々承知だな？」
「は、はい……」

　晋奏は飛龍の醸し出す雰囲気に気圧され平伏する。飛龍は椅子から立ち上がり晋奏へ近づいていく。

「死罪よりも辛い罰かもしれないが、お前にそれを受ける覚悟はあるのか」
「覚悟ならば既にできております。いかような罰でも従います」

　その言葉を聞いた飛龍は重々しく頷き、自分の考えた案を話し始めた。

　王琳も雲嵐もその提案に賛同し、晋奏の処遇が決定した。