芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥

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93話

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 室内がの雰囲気がだいぶ穏やかになったところで、飛龍が雲嵐に指示を出した。

「これでほぼ計画通りに事が進んだな。むしろさらに追い詰めやすい状況になった」
「自分で自分の首を絞める趣味があるとは思いもよりませんでした」

 柔らかな笑顔を浮かべる。自分の主を殺そうとした怒りは収まっていないのか、言葉の端々からとげとげしい雰囲気を感じる。
 
 これからどうやって犯人を追い詰めるのか。計画とはどんなものなのか全く知らない蓮花がいつまでもここにいていいのか。
 そんな胸に抱えた疑問をぶつけようとして蓮花が口を開く。

「失礼いたします」

 その出鼻を挫くように外から来訪者が声を掛ける。
 王琳はその声を聞き慌てて扉を開き来訪者を招き入れた。
 現れたのは頭まできっちり甲冑をまとった武官だった。王琳は扉をきっちり閉めると、呆れたように武官に話しかける。

「あなたは今、一番出歩いてはまずい人物なのをご理解いただけていると思っておりましたが。――陛下」

 陛下――そう呼ばれるのは今の天聖国ではただ一人。頂点に君臨する皇帝陛下、姜 泰龍ただ一人だ。
 
 武官は王琳にそう咎められると、まるでいたずらが成功した少年のような笑みを浮かべて頭の兜を外す。
 兜の中にまとめていたであろう縹色の髪が零れ落ちてきた。それは飛龍との血のつながりを感じさせる色味で、蓮花は見とれてしまった。
 何故床に伏せっているはずの皇帝がこんなところにいるのか。蓮花は驚きで声も出なかった。

 それも一瞬のうちで、蓮花は慌てて平伏する。皇帝陛下の尊顔をまじまじと見つめる訳にはいかない。

「そんなに固くならず楽にして良い。君は息子の恩人なのだから」
「私は何もしておりません! 私には過ぎたるお言葉でございます」
「座っていては話もしづらいだろう。それに今の私は一武官だ」

 茶目っ気たっぷりに笑う泰龍に蓮花も表情を和らげる。そしてその言葉に甘えて立ち上がる。

 泰龍はさて、と前置きをして言い放った。

「これから姜 泰龍と姜 飛龍は死ぬ」






 宇民が連れ去られたあとの宴は悲惨な様子だった。先程まで第一皇子にうっとりとしていた令嬢達の顔は、青ざめ震えている。

 高官たちの一部は頭を抱えこれからの国の行く末を憂いている。残りの高官はというと、扇の裏に隠した口元は緩んでいた。

 特に梠 渧淳は今にも大きな声で笑いたくなるほどに。
 他に口元が緩んでいるのは渧淳に既に取り込まれた者たちだった。

 渧淳はゆっくりとした足取りで会場を後にする。これで邪魔な第一皇子はもう助からないだろう。宇民の口封じも完璧。あとは皇帝に留めの毒を盛れば全ては上手くゆく。

 この国の頂点に立ち、その横には愛する女性。
 自分とは血の繋がりのない紅龍に皇帝の血が入っていると思うと憎いが、龍人で皇族直系という立場は大きい。利用できる所まで利用してあとは閉じ込めて置けばいいだろう。

 渧淳は恍惚とした表情で自分の明るい未来を想像していた。
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