芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥

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朝議

98話

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 天聖国ではあまり馴染みのない酒器を出した飛龍は渧淳をじっと見つめる。

「この酒器には仕掛けがあってな。一見普通に見えるが、中は仕切られていて二種類の液体を入れることが出来る。試しに同じものを取り寄せた」

 取り寄せたと聞いた時、渧淳は思わず目を閉じた。取り寄せることが出来るということはどこで作られたものかも知っているという事だ。

「割ってみるとこの通り。注ぎ口は上下で分かれて中の仕切りもそのまま上下で分かれている。上と下で別の飲み物を入れることができる。普通の酒と毒入りの酒をな」

 尚書達は酒器を確認しようと身を乗り出した。確かに分かれている酒器を見て周りはざわついた。

「し、しかし飛龍皇子。それだと他のものに注ぐ分まで毒入りのものが入ってしまいませんか?」
「それに関してはここの穴が仕掛けになっている」

 そうやって飛龍が指し示したのは取っ手の上の方と下の方に空いた小さな穴だった。言われなければ気にしないほどの穴になんの仕掛けがあるのかと尚書達は頭をひねる。

「上下の穴はそれぞれの液体の空気の通り道になっている。穴を指で塞ぐことにより、酒器の中の空気圧が動かない。だから注ぎたくない方の穴を塞げば、もう片方の液体だけがでるという仕組みだ」
「な、なるほど……。飛龍皇子が給仕されたのは皆の後でしたから、最後だけ毒入りの方を注げば飛龍皇子だけがお倒れになるということですね」

 問いかけた尚書は納得したというふうに神妙に頷く。

「このような仕様のものは天聖国には出回っていないので知らぬのも仕方がないこと。私がこれを手に入れたのは和桜国経由だからな」
「和桜国ですか!? それは国絡みで暗殺を企んだということでしょうか?」

 隣国の名が出たことで一気に疑惑が膨らんだ尚書達は焦りを見せた。

「落ち着け、これは国同士のいさかいでは無い。これは個人的に輸入したものだろう?渧淳」

 泰龍が顎で示すと、周囲の視線が一気に渧淳へと向いた。
 
「な、なんのことでございましょうか。私がそのようなものを仕入れた記録は残っていないでしょう」
「宴で梠州の令嬢が献上した和桜国の料理は大層美味かった。和桜国から仕入れた食材をふんだんに使っていたと聞いている」
「それがなんだと言うのです!」
「宴に参加した令嬢は梠家の遠縁なのだろう? 少しばかりお願いしたらすぐに教えてくれたぞ。お前の妻が食材と一緒に酒器を仕入れていたとな」
「……っ」

 渧淳は奥歯が軋むほどの怒りが湧き上がった。あれほど金を握らせ、宝石もやったというのにあっさりと裏切る。やはりいくら血縁だからといって欲に目がくらむもの達はろくでもない、と。


 
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