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朝議
99話
しおりを挟む渧淳が何も言えず黙り込むところをみて、内心紫僑は心配になった。
渧淳が心配なのではない。渧淳の口から紫僑がどこまで知っているかを漏らされないかが心配なのだ。
紅龍は成り行きに身を任せれば紫僑の望むことが起きると言っていた。現に泰龍は生きて紫僑の前に現れてくれた。
すぐ傍にいる渧淳には目もくれず泰龍を見つめる紫僑。すると泰龍の切れ長の目が紫僑と合う。
「紫僑、またこの目でお前を見ることができるとは思っていなかった」
「皇帝陛下……私は御身がご無事で震えるほど嬉しゅうございます! 陛下がお倒れになってから解毒薬を国中、いえ国外にも手を広げ探し続けておりました」
紫僑は耐えきれないと言わんばかりに泰龍の元へと走り寄る。泰龍は微笑を浮かべてそれを受ける。紫僑は最近の中で一番泰龍が自分に対して心を向けてくれている、と胸が高鳴った。
もっと褒めてもらいたい、と紫僑は襟元から小瓶を取り出した。
「私がこの解毒薬を見つけたとき、陛下の崩御の知らせが届いたのです。あと一歩早ければとどれだけ後悔したことか……」
目にいっぱいの涙を浮かべ、泰龍の胸元へすがる紫僑。泰龍は先ほどまで浮かべていた微笑を消しその小瓶を手に取る。
「これは興味深い。私はこれと同じ小瓶をつい先日目にしたぞ、なあ飛龍」
「ええ、父上。こちらにあるものと一緒ではございませんか?」
あたかも不思議そうな表情で飛龍が取り出したのは宇民が持っていた解毒薬の小瓶だった。
紫僑は状況がなにやら不穏な雰囲気になってきたのを察し、不安げな様子を見せた。
「これは飛龍に毒を盛ったものが持っていた解毒薬だ。これのおかげで飛龍は命を取り留めた。そしてこれは彼の言う通りであれば渧淳、お前が彼に渡したものだそうだな」
「私ではありません! それで毒が消えるはずがない! そんなこと――」
「それはこれが飛龍に盛った毒の完璧な解毒薬ではないからか?」
そう泰龍が発したことで渧淳は自分が失言したことに気づく。
「彼はこれが完全な解毒薬だと言われ、何かあった時のために貰ったのだと自供している。しかしその解毒薬を使った所、飛龍の毒は完全には消えなかった。それは彼も知らない毒が追加で調合されていたからだった」
泰龍の言葉を聞き、勘のいい尚書達が動揺している。先程の渧淳の言葉と、泰龍の言葉から導かれる結果に気付いたからだ。
「さっきお前はこの解毒薬で毒が消えるはずがない――そう言ったな? なぜ毒を盛った本人でさえ知らなかったその事実を知っている?」
渧淳はぶわり、と全身から汗が吹き出す錯覚に陥った。今まで軽視していた、龍人から出される重圧が全身にのしかかっていた。
これ程までに恐ろしく苦しいものなのか。渧淳は知らぬ間に呼吸が浅くなっていった。
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