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決断
110話
しおりを挟む飛龍に連れられて蓮花がやってきたのは飛龍の暮らす宮だった。
初めて見るその建物の豪華さに、飛龍は本当に第一皇子なのだと改めて認識する。
「蓮花?」
「あ、すいません、ぼーっとしちゃって」
建物を見て動きを止めている蓮花を見て、飛龍は少し眉を下げて声をかける。はっとした蓮花は飛龍が肩書きで見られることを嫌がっていたでは無いかと思い出し足を動かす。
飛龍に蓮花まで肩書きで見る人だと思われるのは嫌だと思い、できるだけ普通の態度を心がけていたのに。蓮花は自分の詰めの甘さを怒りたい気持ちになった。
しかしここで謝るのもおかしいかもしれないと、色々考えてしまって結局何も言えず中に足を踏み入れた。
「料理が出るまではもうしばらく時間があるから、それまで少し話したい」
そう言って蓮花は横長の椅子に座らされる。飛龍も横に座るのかと思っていたが、蓮花の前に立ったまま座ろうとしない。
「まず、謝らせて欲しい。私の身分の事、そして今回の騒動に巻き込んでしまった事。本当に申し訳なかった」
飛龍は頭を深く提げ詫びた。蓮花は慌てて立ち上がり飛龍の肩を触り頭をあげようとする。
「顔を上げてください! 謝られるようなこととは思っていません」
蓮花の言葉に、飛龍はゆっくり頭を上げる。
「飛龍様もお座りになってください。じゃないとゆっくり話せませんから、ね」
飛龍は蓮花の笑顔に少しほっとした様子を見せて蓮花の横に腰掛ける。
「まず、言うのが遅くなってしまったが私の名前は姜 飛龍。天聖国の第一皇子だ。この身分だと何かとしがらみが多くて私用で出歩く時は飛と名乗っている」
「……とても、驚きました。でも一方で飛様が飛龍様だって知って、納得もしました」
「納得?」
飛龍はどういうことか分からず聞き返す。
「飛龍様は時々何かを抱えてらっしゃるような様子でしたから……。本当の名前を明かせないのもきっと大きな事情があると思っていました。まさか第一皇子様だとは思いませんでしたけど」
軽く笑った蓮花。飛龍は話を続ける。
「本当は蓮花には宴の前に打ち明けようと思っていた。でも緊急の仕事が無くならず、結局時間を作ることが出来なかった。だからせめて文だけでもと託したんだ」
「そうだったんですね……。実はあの文をいただく前に一度、飛龍様と雲嵐をお見かけしました。飛龍様はいつもより立派なお召し物で、まだ本当の名前を知らなかった私は飛龍様は一体何者なんだろうって勘ぐってしまって……。反省してます」
「反省……なぜだ? 知り合いが見慣れぬ格好をしていれば気になってしまうのは仕方ないだろう」
蓮花があまりに申し訳なさそうに言うので飛龍は困惑した。正体を隠していたことを怒られこそすれ、謝られることなどない。
「飛龍様は肩書きで見られるのは嫌だと思ってらっしゃるでしょう。それに私にご身分を明かすことも躊躇っておられた。そんな人の秘密をあれこれ探るように考える事が裏切りのように思えてしまって……」
蓮花からそう教えられると、飛龍の心に温かいものが広がる。
そこまで自分の事を考えてくれていたとは。人の気持ちを慮ることの出来る蓮花に更に好感を抱く。
そうして話していると料理の到着が告げられたので、二人は食卓につくことにした。
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