芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥

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決断

111話

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 料理が配膳されて蓮花と飛龍は向かい合って席に着く。
 自分がいつも一端を担っている料理をこうやって食べることは蓮花にとって新鮮なものだった。

 食事は終始、和やかな雰囲気で進んだ。宮廷料理を食べる機械などあまりないので、時折飛龍に教えてもらいながら食べてゆく。
 蓮花は家で起こった弟妹達の微笑ましい話や、深欧や明苑の話など、話題は尽きなかった。飛龍は楽しそうに話す蓮花に口角は緩みっぱなしだった。

 そして最後に食後の甘味が運ばれてくる。蓮花はそれを見て目を輝かせた。

「これ、他国のお菓子ですか? とっても綺麗!」

 そこには薄い生地が重なってできた段の上に白いふわふわの段があり、それが何層か重なっている。一番上には真っ赤な苺が載せられており、見た目からしてとても豪華なもののように見えた。

「これはセラム王国のお菓子で、ミルフィーユというものだ。茶色い部分がパイで白い所が生クリームというらしい。以前のクッキーは急遽手に入ったものだったが、今回は事前に準備をする時間があったから生ものにしてみた」
「みるふぃーゆ、ですか! すごく細いのに、こんなに綺麗に重ねられるなんてすごいです……。それに上にある白い粉が雪みたい」

 目を輝かせて喜ぶ蓮花に飛龍も笑い返す。

「これはどうやっていただくんですか? 上から切ろうにも生クリームが飛び出ちゃいそうです」
「少しもったいないが、横たわらせてから切り分けて食べるそうだ」

 飛龍はそう言いながら自分のミルフィーユを倒した。蓮花もためらったが、せっかくのお菓子なので食べないともったいないと思いなおし見よう見まねで倒す。

 飛龍は自分の手元をちらちら見ながら切り分ける蓮花を見守る。

 久しぶりに対面する蓮花の姿はいくら見ても見飽きなかった。宴の時も対面したが、あの時は渧淳のことなどで気が張っていた。流石の飛龍も時期皇帝として気を緩めてはいけない所は承知していた。

 なんの気兼ねなく穏やかに蓮花と過ごせるこの時間は飛龍にとって久方ぶりのご褒美だった。
 自分の不手際や今までの行いを詫びたとき、蓮花はきちんと受け止めてくれた。それがどんなに嬉しかったか。
 
 王琳には蓮花に知られるより先に、自分の正体を明かせなかったと正直に打ち明けた。王琳も飛龍が試行錯誤していたことは知っていたので仕方ないと笑って言ってくれたが、宣言したことを達成できなかった意趣返しでとんでもない爆弾を落としてくれた。

『そういえば蓮花が告白されていましたよ』

 その言葉を聞いたとき、体中が熱くなった。怒りか、焦りかわからない。ただ蓮花がもしその人物に心揺れているとしたら。
 飛龍はできるだけ冷静を装いどんな人物か、蓮花の様子はどうかと聞いては見たが王琳は笑って躱すばかりだった。
 
『お知りになりたかったらご自分でお聞きしてくださいね』

 人畜無害そうな笑顔でそういわれてしまってはとりつく島もない。流石は泰龍の補佐を長年務めるだけはある。
 
 飛龍は蓮花と話していると、ふとした瞬間にそれを思い出してしまう。飛龍は朗らかに会話をしながら蓮花に根掘り葉掘り聞きたい衝動と戦っていた。


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