帰還勇者の盲愛生活〜異世界で失った仲間たちが現代で蘇り、俺を甘やかしてくる~

キョウキョウ

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仲間たちとの旅行

第42話 異国の地に降り立つ

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「入港します。お気をつけください」

 船内アナウンスが流れる中、ハヤトたちは甲板に出て、次第に近づいてくる港を眺めていた。朝日に照らされた街並みが、徐々にその姿を明らかにしていく。海岸線に沿って立ち並ぶ建物群と、背後に広がる緑豊かな山々が、絵画のような景色を作り出していた。

「ベトナムか。初めて来たよ」

 この前、剛との仕事で海外に行った。とはいえ、それは警備の仕事だった。観光で海外に来るのは実は初めてかもしれない。ハヤトがそんな感想を漏らすと、星華が優しく微笑んだ。

「私はベトナムには一度、医療関係の国際会議で来たことがあるわ。素敵な街よ」
「俺もビジネスで何度か訪れたことがあるな。最近は開発が進んでいるが、歴史的な面影も残っている興味深い場所だよ。現代と伝統が見事に調和している」

 城介がそう説明すると、莉々が目を輝かせた。

「世界遺産のホイアンという都市があるんですよね。 写真で見て、すごく行きたいと思ってたの」

 船が徐々に減速し、大きな埠頭に接岸していく。甲板から見下ろすと、熱帯特有の濃い緑と、赤茶けた建物の屋根が混在する景色が広がっていた。湿度を含んだ空気と、どこか香辛料めいた匂いが微かに漂ってくる。

「日本とは、また違う雰囲気だ」

 ハヤトは異世界で様々な国や地域を旅してきたが、それでも新しい土地に降り立つ高揚感は変わらない。むしろ、平和な世界での旅行という贅沢を、心から噛みしめていた。

「ほんとだ。日本と違うね」

 陸も興味津々で港を見る。葵も母親の手をしっかり握りながら、キラキラした目で周囲を見回していた。

「お魚さん、いるかな?」
「港だから魚はいるだろうけど、今日は別のところに行くんだよ」

 葵の無邪気な問いかけに、剛が優しく微笑んだ。そして娘の頭を優しく撫でながら答えた。

 下船の手続きを済ませて、いよいよ異国の地に足を踏み出す。長い間船に揺られていたせいで、地面の上を歩いているのに、まだ体が揺れている感覚が残っていた。

「へんな感じ! 地面がゆれてるよ」

 陸が言うと、城介が頷いた。

「船旅あるあるだ。しばらくすれば落ち着くよ。心配する必要はない」
「うん」

 港のターミナルには、クルーズ船が用意した観光ツアーの案内が掲示されていた。様々なコースが設定されており、乗客たちがそれぞれ興味のあるツアーに参加していく。大きな観光バスが次々と乗客を乗せて出発していく様子が見えた。

「私たちは、どうする? 船のツアーに参加する?」

 莉々が尋ねる。

「実は、私と城介で独自のスケジュールを組んでみたの。これを巡るのは、どう?」

 星華が答えて、スマートフォンを取り出して画面を皆に見せた。そこには時間ごとに訪問場所が細かく設定された計画が表示されていた。一目見ただけでも、よく練られたルートであることがわかる。

「おお、さすが」

 ハヤトは感心して二人を見た。城介は軽く肩をすくめる。

「完璧とは言えないが、限られた時間で効率よく回れるルートにはなっているはずだ」
「私が以前訪れた場所の情報と、城介の最新情報を組み合わせたのよ」

 星華が付け加えた。せっかく仲間が考えてくれたルート。ならば、ハヤトの答えは決まっている。

「なら、そのスケジュールで行ってみようか」

 ハヤトがそう言うと、皆も同意して今日の動き方が決まった。

 城介が手配したタクシーが二台、彼らを待っていた。相談の結果、ハヤト、莉々、城介が一台目に、剛、楓、陸、葵、星華が二台目に分かれて乗り込む。

 車窓から見える街並みは、日本とは違った趣を持っていた。フランス植民地時代の影響を受けた建物と、現代的な高層ビル、そして伝統的なベトナム様式の家々が混在している。通りを行き交うバイクの多さに驚くハヤト。まるで水の流れのように、絶え間なく動き続けるバイクの群れは圧巻だった

「すごい数のバイクだ」
「ベトナムの主要な交通手段だからね。彼らにとっては日常の光景さ」

 城介が説明する。運転席の横に座った彼は、現地の様子を細かく観察しながら話を続けた。

「一家に一台どころか、一人一台が当たり前らしいぞ」

 城介はベトナム語で運転手と流暢に会話して、色々と聞いていた。観光スポットだけでなく、地元の生活習慣や最近の変化についても質問していた。ハヤトと莉々は驚いた表情で聞き入る。

「城介さん、ベトナム語もできるんですね」

 莉々の率直な感嘆に、当たり前という表情で答えた。

「ビジネスで役立つから少し勉強しただけさ。完璧とは言えないが、基本的な会話はできる程度にな」

 そう言いながらも、運転手と城介の会話は単なる「基本的な会話」を超えているように見えた。冗談も交わしながら、まるで旧知の間柄のように話している。

 一時間ほどのドライブで、ハヤトたちは世界遺産に登録されているホイアン旧市街に到着した。19世紀にかけて栄えた貿易都市の面影を残す街並みは、中国、日本、ヨーロッパなどの文化が混在する独特の雰囲気を漂わせていた。

「わぁ、素敵な街ですね」

 莉々が感嘆の声を上げる。彼女は思わず足を止め、周囲の景色を見回した。古い町家や商家が立ち並ぶ通りを歩きながら、ハヤトは石畳や古い建物の壁に視線を走らせた。どこか懐かしさを感じるような、歴史の重みを持った街並み。確かに良い街だ。

 一行は歴史ある通りを歩きながら、時折店に立ち寄り、地元の工芸品や雑貨を興味深く眺めた。ランタンの店では、莉々と楓が色鮮やかな手作りのランタンに目を奪われていた。職人の手仕事による精巧な刺繍品も、皆の関心を集めた。

 城介が鞄から高級な一眼レフカメラを取り出した。レンズを丁寧に拭きながら、ちょうど良い撮影ポイントを探している。

「記念に写真を撮ろう」

 最近、城介が趣味で始めたというカメラ。仕事の合間の良い気分転換になるという。クルーズ船の中でも、ハヤトたちは何枚も写真を撮ってもらっていた。今回の旅を記録に残すため。

 ハヤトたちは古い橋の前で集合写真を撮り、その後様々な組み合わせでショットを撮った。

 昼食時には地元のレストランに入り、フォーやバインミーなど本場のベトナム料理を堪能した。テーブルいっぱいに並べられた色鮮やかな料理の数々に、皆の目が輝いた。

「うん、おいしい」

 ハヤトがフォーのスープをすすりながら感嘆の声を上げる。茹でたての米麺に、香り高いスープ、新鮮なハーブの香りが調和して、独特の味わいを生み出していた。

「そうね。味付けがちょっと独特だけど、これもいい感じ。香辛料と新鮮なハーブのバランスが絶妙」

 星華も春巻きをつまみながら、味わい深そうに頷いた。莉々はローカルな野菜料理に興味を示し、剛は地元のビールを満足そうに飲んでいた。陸と葵は初めての味に戸惑いながらも、挑戦的に様々な料理を試していた。



 食事の後は、地元の市場を散策した。カラフルな雑貨や果物、衣料品などが所狭しと並ぶ光景に、一行は目を奪われた。熱帯の果物の甘い香りと、スパイスの刺激的な匂いが混ざり合う独特の空間。通路を埋め尽くす人々の活気ある声が響き渡る中、彼らはゆっくりと市場を巡った。

 莉々は地元の若者が着ているファッションに興味を示し、何軒かの衣料品店に立ち寄った。あるお店では、ベトナムの伝統的な生地を使った現代的なデザインの洋服を見て、目を輝かせていた。



 城介は値段交渉の達人で、お土産を選ぶ際にはハヤトたちのために店主と粘り強く交渉し、かなりの値引きを勝ち取っていた。

「流石だ」
「これぐらいはな。ビジネスマンとしての腕の見せ所さ」

 陸と葵のためのお土産選びでは、皆が熱心に意見を出し合った。結局、陸には精巧な模型船、葵には色鮮やかな伝統衣装の人形を購入した。二人とも大喜びだった。

 その後も、色々な観光地を巡っていく。

 あっという間に時間が過ぎ、港に戻る時間となった。タクシーで港まで戻り、改めてクルーズ船を見上げると、その巨大さにハヤトは驚く。

「やっぱり、でかいな」

 彼の漏らした言葉に皆が頷く。太陽が地平線に近づき、空が徐々にオレンジ色に染まっていく中、船の輪郭がシルエットになって浮かび上がる様子は凄い。

「あんなに広い客室や、プール、レストラン、映画館が入ってるんだもんね」

 莉々が言った。確かにそう考えると、この大きさも納得だと思うハヤト。

 乗船手続きを済ませて、彼らは再び船に乗り込んだ。デッキから見下ろすダナンの街並みを眺めながら、充実した一日の余韻に浸った。

「さすが星華と城介が考えたスケジュール。本当に楽しかったよ。ありがとう」

 ハヤトの満足げな言葉に、二人は嬉しそうに笑った。

「次の寄港地も楽しみだな」
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