23 / 41
第23話 揺らぐ信頼 ※エリック王子視点
しおりを挟む
「お前まで、そんなことを言うのか!?」
俺の声は室内に響き渡り、エリーゼの顔色が一気に青ざめた。彼女はすぐに両手を慌ただしく振って、取り繕おうとする。
「ちが、違うのよエリック! これは、神殿の連中が伝えろって言ってたから……。私は代わりに言わされただけなのよ! 信じて、エリック!」
エリーゼの慌てた言い訳を聞いても、俺のイライラは収まらなかった。せっかくの二人きりの時間が台無しだ。公務を終えて、ようやく彼女と会える時間を楽しみにしていたのに。また、神殿の話を持ち出されて台無しだ。一気に気持ちが萎えた。
「……」
俺の沈黙を見て、エリーゼはさらに必死になる。
「聞いてエリック。神殿の連中って酷いのよ! 仕事を押し付けてきて、自分たちは何もしないで、贅沢な暮らしをしてる!? 私、もう我慢できない! 貴方も、そう思うでしょ?」
神殿に対する文句を言い、俺の同情を引こうとしている。彼女なりの作戦だろう。さっきの「神殿に追加の資金援助をしてほしい」という唐突な依頼を、何とか和らげようとしているのだ。
だが、それは逆効果だった。
聖女として神殿で上に立つ者が、自らの組織を批判して何になる? 問題があるなら、自分で改善する努力をすべきではないのか。彼女の話を聞いていると、不満が噴出する。
「……」
俺は沈黙し続ける。何も言わない俺に焦りを感じて、エリーゼはさらに言葉を重ね続ける。
「それに、最近の女神官って本当に酷いのよ。修行をサボってばかりで実力も衰えてるし、そのせいで任務の成功率も下がってるみたい。酷いと思うでしょ?」
どうにか神殿の評価を下げようと必死だ。悪いのは彼らだと。それで、俺の機嫌を良くしようと思っているらしい。俺と同じ気持ちだと言うつもりか。
聖女が神殿を批判するとは、何という無責任さだろう。自分の管理不足や指導力のなさを棚に上げて、他人のせいにしている。
最初に俺が彼女に惹かれたのは、あの純粋さと美しさだった。聖女としての威厳よりも、少女のような可愛らしさと無邪気さに心を奪われた。だが今、目の前で必死に言い訳をしている彼女は、何だか別のものに見えてしまう。
「……ねえ? エリック? 何か言ってよぉ」
今まで見えていた美しいものが、一気に薄汚いものに変わってしまったような感覚だった。どこで変わってしまったのか。こんな未来は想像していなかった。残念だが、いずれ切り捨てるべきかもしれない。
こんな女と結婚したら、神殿の連中はさらにつけあがるだろう。それは避けたい。
王国からの潤沢な資金援助を受けながら、成果を出さず、評判を下げ続ける神殿。それなのに、追加で資金援助をしつこく求めてくる。一方的に負担だけ押し付けてくる相手と付き合う価値はあるのだろうか?
俺は無言で立ち上がると、部屋を出ようとした。それを見て、エリーゼは慌てて俺に縋り付いてきた。
「ま、待ってエリック! ねぇ、私が悪かったわ。謝るわ。だから話を聞いて!」
「離してくれよ」
俺の冷たい声に、エリーゼの顔が硬直した。そして、すぐに新たな作戦に出る。
「……っ、あ、あの……あのね? 私たち、婚約してるでしょ……? もうすぐ、夫婦になるんでしょ?」
婚約関係を盾にしてきたか。確かに俺たちは、王国の掟に従って婚約している。聖女と次期国王の結婚。それは王国の伝統であり、義務だ。だが、本当にそれでいいのか?
「ああ、俺たちは婚約相手だよ。だからこそ、これ以上失望させないでくれないか?」
俺がそう言うと、エリーゼは目を見開いて固まった。そして、すぐに涙を流し始める。それを見て、少しだけ心が痛む。
「ご、ごめんなさい……!」
「……」
涙で濡れた顔で謝罪される。そこまでされると、本当に面倒くさい。泣けば許してもらえると思っているのか。国を担う者の伴侶としては、もう少し芯の強さが欲しいところだ。
「……はぁ。泣くなよ、みっともない」
「うぐっ……! だって、エリックぅぅ……」
嫌だけど、もう少しだけ我慢して付き合うしかないか。向こうの方が明らかに悪いのだが、ここで厳しく接したら俺の方が印象を悪くしてしまいそうだ。完全に見捨てるのも心苦しい。甘いな、俺は。
エリーゼのそばに座り、仕方なく彼女を抱きしめた。すると、彼女は嬉しそうに俺の背中に手を回す。
「やっぱり、エリックって優しい……! 好きッ!」
この素直さ。顔も良いし、それだけだったら良かったのに。彼女が聖女という立場であることが面倒なことになっている。聖女の立場を解任させ、愛人として囲うか。そういう事も考える。
近いうちに、この面倒な問題を解決しなければならない。神殿に代わる、新しく付き合うべき相手を探す必要があるだろう。この国を導くために、いずれ国王となる俺には力が必要だ。衰退していく神殿は、早めに見切りをつけたほうがいいのかも。
そういえば、最近は冒険者たちの評判が良いようだ。神殿の失敗を尻拭いして、特に新人の冒険者パーティーが頑張っていると聞く。女性リーダーのパーティーで、困っている人を積極的に助け、他の冒険者たちにも良い影響を与えているという。
そういう実力のある者たちに協力させるというのも、悪くない選択かもしれない。強い女性を味方にするため、新しく迎え入れる。それは、なかなか良い考えのように思えた。
将来について考えながら、しばらくエリーゼの謝罪と泣き言、取るに足らない言い訳を聞き続けた。彼女の頭を機械的に撫でながら、俺の心はすでに次の一手について考えていた。
俺の声は室内に響き渡り、エリーゼの顔色が一気に青ざめた。彼女はすぐに両手を慌ただしく振って、取り繕おうとする。
「ちが、違うのよエリック! これは、神殿の連中が伝えろって言ってたから……。私は代わりに言わされただけなのよ! 信じて、エリック!」
エリーゼの慌てた言い訳を聞いても、俺のイライラは収まらなかった。せっかくの二人きりの時間が台無しだ。公務を終えて、ようやく彼女と会える時間を楽しみにしていたのに。また、神殿の話を持ち出されて台無しだ。一気に気持ちが萎えた。
「……」
俺の沈黙を見て、エリーゼはさらに必死になる。
「聞いてエリック。神殿の連中って酷いのよ! 仕事を押し付けてきて、自分たちは何もしないで、贅沢な暮らしをしてる!? 私、もう我慢できない! 貴方も、そう思うでしょ?」
神殿に対する文句を言い、俺の同情を引こうとしている。彼女なりの作戦だろう。さっきの「神殿に追加の資金援助をしてほしい」という唐突な依頼を、何とか和らげようとしているのだ。
だが、それは逆効果だった。
聖女として神殿で上に立つ者が、自らの組織を批判して何になる? 問題があるなら、自分で改善する努力をすべきではないのか。彼女の話を聞いていると、不満が噴出する。
「……」
俺は沈黙し続ける。何も言わない俺に焦りを感じて、エリーゼはさらに言葉を重ね続ける。
「それに、最近の女神官って本当に酷いのよ。修行をサボってばかりで実力も衰えてるし、そのせいで任務の成功率も下がってるみたい。酷いと思うでしょ?」
どうにか神殿の評価を下げようと必死だ。悪いのは彼らだと。それで、俺の機嫌を良くしようと思っているらしい。俺と同じ気持ちだと言うつもりか。
聖女が神殿を批判するとは、何という無責任さだろう。自分の管理不足や指導力のなさを棚に上げて、他人のせいにしている。
最初に俺が彼女に惹かれたのは、あの純粋さと美しさだった。聖女としての威厳よりも、少女のような可愛らしさと無邪気さに心を奪われた。だが今、目の前で必死に言い訳をしている彼女は、何だか別のものに見えてしまう。
「……ねえ? エリック? 何か言ってよぉ」
今まで見えていた美しいものが、一気に薄汚いものに変わってしまったような感覚だった。どこで変わってしまったのか。こんな未来は想像していなかった。残念だが、いずれ切り捨てるべきかもしれない。
こんな女と結婚したら、神殿の連中はさらにつけあがるだろう。それは避けたい。
王国からの潤沢な資金援助を受けながら、成果を出さず、評判を下げ続ける神殿。それなのに、追加で資金援助をしつこく求めてくる。一方的に負担だけ押し付けてくる相手と付き合う価値はあるのだろうか?
俺は無言で立ち上がると、部屋を出ようとした。それを見て、エリーゼは慌てて俺に縋り付いてきた。
「ま、待ってエリック! ねぇ、私が悪かったわ。謝るわ。だから話を聞いて!」
「離してくれよ」
俺の冷たい声に、エリーゼの顔が硬直した。そして、すぐに新たな作戦に出る。
「……っ、あ、あの……あのね? 私たち、婚約してるでしょ……? もうすぐ、夫婦になるんでしょ?」
婚約関係を盾にしてきたか。確かに俺たちは、王国の掟に従って婚約している。聖女と次期国王の結婚。それは王国の伝統であり、義務だ。だが、本当にそれでいいのか?
「ああ、俺たちは婚約相手だよ。だからこそ、これ以上失望させないでくれないか?」
俺がそう言うと、エリーゼは目を見開いて固まった。そして、すぐに涙を流し始める。それを見て、少しだけ心が痛む。
「ご、ごめんなさい……!」
「……」
涙で濡れた顔で謝罪される。そこまでされると、本当に面倒くさい。泣けば許してもらえると思っているのか。国を担う者の伴侶としては、もう少し芯の強さが欲しいところだ。
「……はぁ。泣くなよ、みっともない」
「うぐっ……! だって、エリックぅぅ……」
嫌だけど、もう少しだけ我慢して付き合うしかないか。向こうの方が明らかに悪いのだが、ここで厳しく接したら俺の方が印象を悪くしてしまいそうだ。完全に見捨てるのも心苦しい。甘いな、俺は。
エリーゼのそばに座り、仕方なく彼女を抱きしめた。すると、彼女は嬉しそうに俺の背中に手を回す。
「やっぱり、エリックって優しい……! 好きッ!」
この素直さ。顔も良いし、それだけだったら良かったのに。彼女が聖女という立場であることが面倒なことになっている。聖女の立場を解任させ、愛人として囲うか。そういう事も考える。
近いうちに、この面倒な問題を解決しなければならない。神殿に代わる、新しく付き合うべき相手を探す必要があるだろう。この国を導くために、いずれ国王となる俺には力が必要だ。衰退していく神殿は、早めに見切りをつけたほうがいいのかも。
そういえば、最近は冒険者たちの評判が良いようだ。神殿の失敗を尻拭いして、特に新人の冒険者パーティーが頑張っていると聞く。女性リーダーのパーティーで、困っている人を積極的に助け、他の冒険者たちにも良い影響を与えているという。
そういう実力のある者たちに協力させるというのも、悪くない選択かもしれない。強い女性を味方にするため、新しく迎え入れる。それは、なかなか良い考えのように思えた。
将来について考えながら、しばらくエリーゼの謝罪と泣き言、取るに足らない言い訳を聞き続けた。彼女の頭を機械的に撫でながら、俺の心はすでに次の一手について考えていた。
873
あなたにおすすめの小説
【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで
雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。
※王国は滅びます。
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
復縁は絶対に受け入れません ~婚約破棄された有能令嬢は、幸せな日々を満喫しています~
水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のクラリスは、婚約者のネイサンを支えるため、幼い頃から血の滲むような努力を重ねてきた。社交はもちろん、本来ならしなくても良い執務の補佐まで。
ネイサンは跡継ぎとして期待されているが、そこには必ずと言っていいほどクラリスの尽力があった。
しかし、クラリスはネイサンから婚約破棄を告げられてしまう。
彼の隣には妹エリノアが寄り添っていて、潔く離縁した方が良いと思える状況だった。
「俺は真実の愛を見つけた。だから邪魔しないで欲しい」
「分かりました。二度と貴方には関わりません」
何もかもを諦めて自由になったクラリスは、その時間を満喫することにする。
そんな中、彼女を見つめる者が居て――
◇5/2 HOTランキング1位になりました。お読みいただきありがとうございます。
※他サイトでも連載しています
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない
nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?
婚約破棄は喜んで
nanahi
恋愛
「お前はもう美しくない。婚約破棄だ」
他の女を愛するあなたは私にそう言い放った。あなたの国を守るため、聖なる力を搾り取られ、みじめに痩せ細った私に。
え!いいんですか?喜んで私は去ります。子爵令嬢さん、厄災の件、あとはよろしく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる