聖女は記憶と共に姿を消した~婚約破棄を告げられた時、王国の運命が決まった~

キョウキョウ

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第23話 揺らぐ信頼 ※エリック王子視点

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「お前まで、そんなことを言うのか!?」

 俺の声は室内に響き渡り、エリーゼの顔色が一気に青ざめた。彼女はすぐに両手を慌ただしく振って、取り繕おうとする。

「ちが、違うのよエリック! これは、神殿の連中が伝えろって言ってたから……。私は代わりに言わされただけなのよ! 信じて、エリック!」

 エリーゼの慌てた言い訳を聞いても、俺のイライラは収まらなかった。せっかくの二人きりの時間が台無しだ。公務を終えて、ようやく彼女と会える時間を楽しみにしていたのに。また、神殿の話を持ち出されて台無しだ。一気に気持ちが萎えた。

「……」

 俺の沈黙を見て、エリーゼはさらに必死になる。

「聞いてエリック。神殿の連中って酷いのよ! 仕事を押し付けてきて、自分たちは何もしないで、贅沢な暮らしをしてる!? 私、もう我慢できない! 貴方も、そう思うでしょ?」

 神殿に対する文句を言い、俺の同情を引こうとしている。彼女なりの作戦だろう。さっきの「神殿に追加の資金援助をしてほしい」という唐突な依頼を、何とか和らげようとしているのだ。

 だが、それは逆効果だった。

 聖女として神殿で上に立つ者が、自らの組織を批判して何になる? 問題があるなら、自分で改善する努力をすべきではないのか。彼女の話を聞いていると、不満が噴出する。

「……」

 俺は沈黙し続ける。何も言わない俺に焦りを感じて、エリーゼはさらに言葉を重ね続ける。

「それに、最近の女神官って本当に酷いのよ。修行をサボってばかりで実力も衰えてるし、そのせいで任務の成功率も下がってるみたい。酷いと思うでしょ?」

 どうにか神殿の評価を下げようと必死だ。悪いのは彼らだと。それで、俺の機嫌を良くしようと思っているらしい。俺と同じ気持ちだと言うつもりか。

 聖女が神殿を批判するとは、何という無責任さだろう。自分の管理不足や指導力のなさを棚に上げて、他人のせいにしている。

 最初に俺が彼女に惹かれたのは、あの純粋さと美しさだった。聖女としての威厳よりも、少女のような可愛らしさと無邪気さに心を奪われた。だが今、目の前で必死に言い訳をしている彼女は、何だか別のものに見えてしまう。

「……ねえ? エリック? 何か言ってよぉ」

 今まで見えていた美しいものが、一気に薄汚いものに変わってしまったような感覚だった。どこで変わってしまったのか。こんな未来は想像していなかった。残念だが、いずれ切り捨てるべきかもしれない。

 こんな女と結婚したら、神殿の連中はさらにつけあがるだろう。それは避けたい。

 王国からの潤沢な資金援助を受けながら、成果を出さず、評判を下げ続ける神殿。それなのに、追加で資金援助をしつこく求めてくる。一方的に負担だけ押し付けてくる相手と付き合う価値はあるのだろうか?

 俺は無言で立ち上がると、部屋を出ようとした。それを見て、エリーゼは慌てて俺に縋り付いてきた。

「ま、待ってエリック! ねぇ、私が悪かったわ。謝るわ。だから話を聞いて!」
「離してくれよ」

 俺の冷たい声に、エリーゼの顔が硬直した。そして、すぐに新たな作戦に出る。

「……っ、あ、あの……あのね? 私たち、婚約してるでしょ……? もうすぐ、夫婦になるんでしょ?」

 婚約関係を盾にしてきたか。確かに俺たちは、王国の掟に従って婚約している。聖女と次期国王の結婚。それは王国の伝統であり、義務だ。だが、本当にそれでいいのか?

「ああ、俺たちは婚約相手だよ。だからこそ、これ以上失望させないでくれないか?」

 俺がそう言うと、エリーゼは目を見開いて固まった。そして、すぐに涙を流し始める。それを見て、少しだけ心が痛む。

「ご、ごめんなさい……!」
「……」

 涙で濡れた顔で謝罪される。そこまでされると、本当に面倒くさい。泣けば許してもらえると思っているのか。国を担う者の伴侶としては、もう少し芯の強さが欲しいところだ。

「……はぁ。泣くなよ、みっともない」
「うぐっ……! だって、エリックぅぅ……」

 嫌だけど、もう少しだけ我慢して付き合うしかないか。向こうの方が明らかに悪いのだが、ここで厳しく接したら俺の方が印象を悪くしてしまいそうだ。完全に見捨てるのも心苦しい。甘いな、俺は。

 エリーゼのそばに座り、仕方なく彼女を抱きしめた。すると、彼女は嬉しそうに俺の背中に手を回す。

「やっぱり、エリックって優しい……! 好きッ!」

 この素直さ。顔も良いし、それだけだったら良かったのに。彼女が聖女という立場であることが面倒なことになっている。聖女の立場を解任させ、愛人として囲うか。そういう事も考える。

 近いうちに、この面倒な問題を解決しなければならない。神殿に代わる、新しく付き合うべき相手を探す必要があるだろう。この国を導くために、いずれ国王となる俺には力が必要だ。衰退していく神殿は、早めに見切りをつけたほうがいいのかも。

 そういえば、最近は冒険者たちの評判が良いようだ。神殿の失敗を尻拭いして、特に新人の冒険者パーティーが頑張っていると聞く。女性リーダーのパーティーで、困っている人を積極的に助け、他の冒険者たちにも良い影響を与えているという。

 そういう実力のある者たちに協力させるというのも、悪くない選択かもしれない。強い女性を味方にするため、新しく迎え入れる。それは、なかなか良い考えのように思えた。

 将来について考えながら、しばらくエリーゼの謝罪と泣き言、取るに足らない言い訳を聞き続けた。彼女の頭を機械的に撫でながら、俺の心はすでに次の一手について考えていた。
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