女男の世界

キョウキョウ

文字の大きさ
22 / 60
第2章 学園編

第14話 電車にて

しおりを挟む
 香織さんと、夜に2人で話してから数日後。

 お金の問題は、とりあえず話を聞くことが出来た。今すぐ、僕が働きに出る必要もなさそうだと分かったので、今は学生として勉強に専念する。今回はちゃんと勉強に集中して、良い大学を目指してみるのも良さそうだ。将来、もっと稼げるように。

 家族皆の朝ごはんを準備してから、学校に行く支度を済ませる。

「行ってきます」
「はーい、行ってらっしゃい。気を付けてね」
「うん」

 春お姉ちゃんに見送られながら家を出る。家を出るときは、春お姉ちゃんがいつも見送ってくれるのが習慣となっていた。家族の中では春お姉ちゃんが、家を出るのが一番遅いから。

 学園行の電車に乗り込む。何時ものように、男性しか乗っていない車両。ぐるりと電車内を見回してみると、圭一君が先に乗っていたようで、僕の姿を見つけて手招きしているのを発見。僕も、そっちに移動する。

「おはよ、圭一」
「おっと、おはよう。ゆう」

 圭一は返事とともに、席から立ち上がり僕の後ろに回り込んだと思うと、腕を首に巻きつけてくる。

「ええい、鬱陶しい! 男が抱きつくなよ」
「いいじゃんか。男同士だし、優の身長って抱き着きやすいんだよね。これぐらい、ちょっとしたスキンシップさ」

 僕の身長が150cm程で低くて、圭一は170cm以上もあって高い。横に並んで立ったら、より身長差が明確になる。だから、あまり彼とは並んで立ちたくない。

「もう! 嫌だって!」

 低身長がコンプレックスな僕に対して、ひどい仕打ちをする。僕は冗談っぽく怒りながら、圭一君の腕を掴んで拘束から抜け出した。すぐに電車の席に座り、鞄を前に持ってガードを完成させる。これで抱きつくにくいだろう。

「もう、ちょっとぐらい良いじゃんかよぉ」

 小さな声で不平を言いながら、隣の席に座る。さすがに、ここから覆いかぶさってくるようなマネはしないかと、内心ヒヤヒヤしていた。そういう事を警戒する必要があるぐらい、圭一君のスキンシップが激しい時がある。今朝も、少し激しめだった。



 電車が発進する。

 電車内では圭一が、会話の話題を振ってくれた。おしゃべりするのが好きらしい。僕は、聞き役になることが多かった。

「優は昨日のドラマ、見た? シノさん、かっこよかったよね」
「ごめん、昨日はテレビ見てないなぁ」

 シノさんというのは、今圭一がハマっている四宮恵子しのみやけいこという女性俳優の事だ。

 以前、僕は圭一のコレクションのサイン入りブロマイドを見せてもらったけれど、筋肉モリモリな身体に鋭すぎる眼光で、怖いと思った。素直な感想を彼に語ったら、3時間ぐらい四宮恵子の魅力について語られたという、嫌な思い出がある。

「優って、テレビを全然見ないよね。アイドルにも疎いし……って、ごめん」

 圭一君が謝る。多分、記憶喪失の影響でアイドルについて忘れてしまった、なんて思って、忘れた僕を非難してしまったかもしれないと、彼は考えたのだろう。

「大丈夫だよ。疎い分は、圭一に教えてもらえばいいし。……って、何?」

 ハッと驚いた顔でこちらを見ていたかと思うと、急に僕の両手をぐっと握ってきて宣言した。何だ、これは。

「わかった! このアイドルマイスターの僕が、優に素晴らしいアイドルについてを叩き込んであげる」
「い、いや、そこまで張り切る必要もないかも……」

 妙に気合を入れて燃えている圭一君に、少し引いてしまう。これは、余計なことを言ってしまったのかもしれないな。




「それで、さっきのドラマの話の続きなんだけどさ。相手役の真央まおってのが、ほんとむかつく男でね」

 昨夜のドラマについて語り足りてないのか、話を戻してしゃべり始める。僕も頷きながら、彼の話を聞く。

「背が小っちゃくて、顔も美人で、服のセンスも可愛くてさ。もう本当にむかつく。あのお坊ちゃん、絶対裏では嫌な性格だと思うよ。間違いないね」
「真央って?」
木下真央きのしたまおって、今絶賛売れ売れの男優さ」
「へぇ。その真央って男は、そんなに嫌なやつなの?」
「う~ん、バラエティとかに出演しているのは見たことないからさ。実は、あの男の性格とか分かんないんだよね。身長が150cmも無くって、女が大好きそうって顔で。嫌な性格の奴って言ってるのも、ほとんど僻みだけどね」

 嫉妬してしまうぐらいの人、ということか。身長が150cm無いなんて、僕より背が低いらしいけど。それだけで親近感が湧く。そんな事を考えていると。

「でも、絶対優の方が可愛いよ!」 

 そう言って、僕の頭を抱きかかえようとする圭一君。僕とのスキンシップを諦めてなかったようだ。

「いや、だから、ヤメてって。暑苦しい!」
「いいんだよ、男同士だからさ。ほら、あっちの車両を見てみなよ」
「どれ?」
「ほら、あの女の人」

 そう言う圭一の指す先を見てみると、隣の車両に乗っている美人な女性が貫通扉の窓の部分から、僕達のことを穴が空くほど凝視していた。

 貫通扉は、こちら側からカギが閉められている。なので、向こうからこっち側には入ることが出来ないはず。だけど、あんなにジッと見られるとちょっと怖いなぁ。

「うーん、あんまりパッとしない女だね。だけど、あんなに興奮した目で見られるとすごい優越感」
「いや、だから。ヤメて、って」
「ほらほら、男同士の絡みを見せて、あの女を興奮させてやろうよ」
「そんなの、ごめんだよ! 恥ずかしいッ!」

 フワッと男臭い匂いを感じた瞬間に思わず僕は、席から立ち上がり距離を取り臨戦態勢に入る。ちょっと、ひっつきすぎだろう。

「いやいや、固いよぉ優。学校じゃ、今はまだ退院したばかりだって、みんなが遠慮してるけど、これからは絶対に男子のスキンシップとか増えるよ。今のうちに慣れておかないとヤバいかも」

 確かに学校で、圭一君以外の男子生徒からのソフトタッチが増えているような気がしていた。

 あれでまだ遠慮していて、これからもっと過激になっていくなんて。ソフトタッチぐらいなら、そんなに気にならなかった。だけど抱きつかれたりすると、キツイかもしれない。だって、男同士なんて。

「うーん、やっぱり男に抱きつかれるのは嫌かも」
「身持ちが堅いのも、ある意味では魅力かもしれないけど。男相手に警戒してもね、って思うよ」
「そうかなぁ?」
「そうだよ。ほら、駅に到着したし降りよ」
「あ、うん」

 いつの間にか、目的の駅に到着していた。電車から降りて、僕達は学園へ向かう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...