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第7章 職業体験編
第45話 職場体験学習
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姉妹間でのいざこざがありつつも無事に収まり、佐藤家の暮らしは平穏に続いていた。そして、月日の流れるのは早いもので、気がつくと4月を過ぎ、僕は高校3年生へと進級していた。
ちなみに、春姉さんは大学を卒業して母親の経営する会社に勤めることになったそうだ。それから、つい最近まで姉妹間で喧嘩をしていた沙希姉さんと紗綾姉さんは、大学へと無事進学していた。
沙希姉さんは、高校時代の部活での活躍が認められて大学から推薦の誘いを受け、スポーツ学科のある大学へ。紗綾姉さんは学業成績が非常に優秀で、日本でも上位にランクされる大学の試験に見事合格していた。二人は喧嘩しつつも、しっかりとやるべきことはやっていたみたい。凄いなと思う。
4月になって新入生が学園へとやって来る頃、僕は3年生。一年前には、記憶喪失という診断をされて入院していた。実は、不思議なことに社会人だったはずの僕が、気づけば学生時代に逆行していた。
しかも当初は、転移前の記憶と少し違う母親に、記憶に無い姉妹が出来たりと混乱と戸惑いがあった。なにより男女の価値観が転移前の記憶とは大きく異なっていて、違和感を感じつつも生活していた。が、しばらく経てば思いの外すんなりと順応していった。
1週間、1ヶ月、1年と生活していくうちに、もう僕は転移前の社会人だった頃に戻ることはないのだろうと思うようになっていった。そして、今では戻ることはないだろうと確信していた。むしろ、家族との絆を深めて、転移前の未練は断ち切っていた。
生活には慣れてきたという気分でいたけれど、今でも時々転移前と転移後で常識や考え方、価値観が違いすぎて困惑することがある。職業体験についてだ。
「男子は今配った配属先予定から気に入った職業を見つけたら、期日までに申告するように」
僕は今、学園にある教室内で職業体験について、配られた冊子を読み込みつつ先生からの説明を受けていた。
教室には、僕の他に9名の男子生徒が集まっていた。ここにいる男子生徒は学園の3年生に所属する10名だ。一学年の男性がたった10名しかいないということも、この世界の特殊性を物語っている。これが本学園の男子生徒全員。本当に少ないと思う。他の男子生徒は、これが当たり前だと平然としているけれど。
高校3年生になって、僕達学生は進学や就職など将来についてのプランを考えなければならない時期に差し掛かっていた。プランを立てるため、将来の指針を決めるために、学園側からの手助けとして職業体験という活動が用意されているらしく、その件について説明を受けていた。
転移前の学生の頃の記憶によれば、中学生時代にあった職場体験学習や大学生時代のインターンシップについて思い浮かんだけれど、高校生時代には職場体験というような活動はなかったと記憶している。
大学受験を控えた高校3年生が勉強以外に時間を割く余裕はなかったはずだ。だが、この世界では男性が大学試験を受験するための条件に職場体験の活動を受けることが必須になっていることが多いらしい。
僕が第一志望として受ける予定の大学についても、職場体験の活動が条件に指定されていた。
この職業体験の目的は、男性に労働について体験してもらい、仕事の大変さや将来就きたい仕事の選択に間違いがないかの確認をしてもらうこと。この職場体験、男性は大学受験に必須な項目らしいけれど、女性は必須ではない。というか、この学園で女性の職場体験の授業は用意されていなくて、女性は受けることができない。
なぜ、男性だけこのような活動が学園に用意されて優遇されているのかというと、男性人口が少ないこの世界では、そもそも男性の就職率が非常に低いためだ。仕事について興味を持ってもらうということが目的の一つ。
そして、そんな少ない中で就職したとしても、今までの人生の中で男性というだけで非常に優遇されてきた男性は、就職したとしてもすぐ「想像と違う」と思って退職してしまうことが多いらしく、男性の離職率が著しく高いことから考えられた活動らしい。
説明を受けながら、僕は思う。やはりこの世界は男性が優遇されているなあ。でも、せっかく用意されているならば男性として恩恵をしっかりと受けさせてもらい、この活動を最大限に利用させてもらって、高校生である今のうちから将来をどうするべきかをじっくり考えてみよう、と。
説明のために受け取った冊子はかなり分厚くて、一番後ろのページ数を見ると112ページとあった。わざわざ、こんな分厚い冊子を用意してくれるのか。
そんな感想を抱きながら、冊子の中身の内容を見てみる。すると、最初の数ページに体験学習についての説明。その後のページには、体験できる仕事内容、仕事場所、職場情報が記載されていた。
仕事の内容は多岐にわたり、100種類以上の職業が書かれているだろう。そして、その中には弁護士や警察官、看護師等の職種まであって体験できるようになっている。そんなものまであるのかと、驚きである。
仕事場所は僕が住んでいる市内で、一番遠いものでも通勤には電車で1時間ぐらいの範囲内のようだった。
職業体験期間中に指導してくれる女性社員の顔写真も掲載されていた。
最後のページには、掲載されている職業以外に希望がある場合は先生と要相談すること、と書かれていて、どうやら相談すれば機会を用意するために動いてくれるとか。そこまでしてくれるなんて、本当に男性は優遇されている。
パラパラと流し読みで職業を確認していくと、ページを開く手が止まる。気になるものを一つ見つけたから。
そこに記載されている職業には"パティシエ"とあった。職場情報には、市内にあるスイーツ店について詳細が書かれている。どうやら、そのお店でパティシエとしての職場体験ができるようだった。
僕はこのお店の情報を見て、思い出していた。転移前の記憶にも残っている、有名だったお店について。そこの店長をしていた一人の女性を思い出していた。そして、今思い出した女性が職場体験期間中に付いてくれるという指導者であることがわかり、顔写真付きで紹介されていた。
「あの人だ……」
写真の中の女性は、僕の記憶にある人物と確実に同じ顔をしていた。転移前の世界でも、この世界でも、同じ人物がパティシエをしているなんて。それを見つけた──これは偶然なのだろうか、それとも何か意味があるのだろうか。
僕の心は、それを運命だと感じていた。
ちなみに、春姉さんは大学を卒業して母親の経営する会社に勤めることになったそうだ。それから、つい最近まで姉妹間で喧嘩をしていた沙希姉さんと紗綾姉さんは、大学へと無事進学していた。
沙希姉さんは、高校時代の部活での活躍が認められて大学から推薦の誘いを受け、スポーツ学科のある大学へ。紗綾姉さんは学業成績が非常に優秀で、日本でも上位にランクされる大学の試験に見事合格していた。二人は喧嘩しつつも、しっかりとやるべきことはやっていたみたい。凄いなと思う。
4月になって新入生が学園へとやって来る頃、僕は3年生。一年前には、記憶喪失という診断をされて入院していた。実は、不思議なことに社会人だったはずの僕が、気づけば学生時代に逆行していた。
しかも当初は、転移前の記憶と少し違う母親に、記憶に無い姉妹が出来たりと混乱と戸惑いがあった。なにより男女の価値観が転移前の記憶とは大きく異なっていて、違和感を感じつつも生活していた。が、しばらく経てば思いの外すんなりと順応していった。
1週間、1ヶ月、1年と生活していくうちに、もう僕は転移前の社会人だった頃に戻ることはないのだろうと思うようになっていった。そして、今では戻ることはないだろうと確信していた。むしろ、家族との絆を深めて、転移前の未練は断ち切っていた。
生活には慣れてきたという気分でいたけれど、今でも時々転移前と転移後で常識や考え方、価値観が違いすぎて困惑することがある。職業体験についてだ。
「男子は今配った配属先予定から気に入った職業を見つけたら、期日までに申告するように」
僕は今、学園にある教室内で職業体験について、配られた冊子を読み込みつつ先生からの説明を受けていた。
教室には、僕の他に9名の男子生徒が集まっていた。ここにいる男子生徒は学園の3年生に所属する10名だ。一学年の男性がたった10名しかいないということも、この世界の特殊性を物語っている。これが本学園の男子生徒全員。本当に少ないと思う。他の男子生徒は、これが当たり前だと平然としているけれど。
高校3年生になって、僕達学生は進学や就職など将来についてのプランを考えなければならない時期に差し掛かっていた。プランを立てるため、将来の指針を決めるために、学園側からの手助けとして職業体験という活動が用意されているらしく、その件について説明を受けていた。
転移前の学生の頃の記憶によれば、中学生時代にあった職場体験学習や大学生時代のインターンシップについて思い浮かんだけれど、高校生時代には職場体験というような活動はなかったと記憶している。
大学受験を控えた高校3年生が勉強以外に時間を割く余裕はなかったはずだ。だが、この世界では男性が大学試験を受験するための条件に職場体験の活動を受けることが必須になっていることが多いらしい。
僕が第一志望として受ける予定の大学についても、職場体験の活動が条件に指定されていた。
この職業体験の目的は、男性に労働について体験してもらい、仕事の大変さや将来就きたい仕事の選択に間違いがないかの確認をしてもらうこと。この職場体験、男性は大学受験に必須な項目らしいけれど、女性は必須ではない。というか、この学園で女性の職場体験の授業は用意されていなくて、女性は受けることができない。
なぜ、男性だけこのような活動が学園に用意されて優遇されているのかというと、男性人口が少ないこの世界では、そもそも男性の就職率が非常に低いためだ。仕事について興味を持ってもらうということが目的の一つ。
そして、そんな少ない中で就職したとしても、今までの人生の中で男性というだけで非常に優遇されてきた男性は、就職したとしてもすぐ「想像と違う」と思って退職してしまうことが多いらしく、男性の離職率が著しく高いことから考えられた活動らしい。
説明を受けながら、僕は思う。やはりこの世界は男性が優遇されているなあ。でも、せっかく用意されているならば男性として恩恵をしっかりと受けさせてもらい、この活動を最大限に利用させてもらって、高校生である今のうちから将来をどうするべきかをじっくり考えてみよう、と。
説明のために受け取った冊子はかなり分厚くて、一番後ろのページ数を見ると112ページとあった。わざわざ、こんな分厚い冊子を用意してくれるのか。
そんな感想を抱きながら、冊子の中身の内容を見てみる。すると、最初の数ページに体験学習についての説明。その後のページには、体験できる仕事内容、仕事場所、職場情報が記載されていた。
仕事の内容は多岐にわたり、100種類以上の職業が書かれているだろう。そして、その中には弁護士や警察官、看護師等の職種まであって体験できるようになっている。そんなものまであるのかと、驚きである。
仕事場所は僕が住んでいる市内で、一番遠いものでも通勤には電車で1時間ぐらいの範囲内のようだった。
職業体験期間中に指導してくれる女性社員の顔写真も掲載されていた。
最後のページには、掲載されている職業以外に希望がある場合は先生と要相談すること、と書かれていて、どうやら相談すれば機会を用意するために動いてくれるとか。そこまでしてくれるなんて、本当に男性は優遇されている。
パラパラと流し読みで職業を確認していくと、ページを開く手が止まる。気になるものを一つ見つけたから。
そこに記載されている職業には"パティシエ"とあった。職場情報には、市内にあるスイーツ店について詳細が書かれている。どうやら、そのお店でパティシエとしての職場体験ができるようだった。
僕はこのお店の情報を見て、思い出していた。転移前の記憶にも残っている、有名だったお店について。そこの店長をしていた一人の女性を思い出していた。そして、今思い出した女性が職場体験期間中に付いてくれるという指導者であることがわかり、顔写真付きで紹介されていた。
「あの人だ……」
写真の中の女性は、僕の記憶にある人物と確実に同じ顔をしていた。転移前の世界でも、この世界でも、同じ人物がパティシエをしているなんて。それを見つけた──これは偶然なのだろうか、それとも何か意味があるのだろうか。
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