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第4話 救いの手
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真っ白な光が徐々に薄れていき、私の視界がゆっくりと元に戻る。
目の前に映ったのは、見慣れた師匠の驚いた表情だった。ソリウス様の温和な瞳が、心配そうに私の顔を見つめている。その瞬間、胸の奥に溜まっていた色々な感情が一気に解けて、涙がこぼれそうになった。
「し、師匠……!」
私は師匠の胸に飛び込んだ。年齢に似合わぬがっしりとした彼の体が、私を受け止めてくれる。師匠の腕に包まれた瞬間、これまで必死に堪えていた感情が溢れ出してきた。
「おっと、どうした急に? それに今のは、瞬間転移か?」
師匠の声には、驚きとともに深い心配が込められていた。だけど、受け止めてくれた。私はしばらく師匠にしがみついたまま、心を落ち着かせる時間をもらった。師匠は急かすことなく、私が落ち着くまでじっと待ってくれている。
周囲を見回すと、そこは質素だが温かみのある部屋だった。本棚には古い魔法書が並び、暖炉には小さな火が灯っている。机の上には茶器が置かれ、湯気の立つカップがあった。
突然、彼の拠点にお邪魔してしまったことを理解する。
急にやってきて、迷惑だったかもしれない。ようやく気持ちが落ち着いたけれど、状況を把握して申し訳ない気持ちになる。
「すみません、師匠。急に現れて……、こんな時間に……」
私は師匠から離れて深々と頭を下げた。無意識とはいえ、いきなり現れるなんて、師匠を驚かせてしまっただろう。それに、窓の外を見ると暗くなっている。
「迷惑だなんて、とんでもない。それより、何があったんだい? 君の顔を見れば、ただ事ではないことが分かる。話を聞かせてくれるかい?」
師匠は私を暖炉の近くの椅子に座らせて、温かいお茶を差し出してくれた。カップから立ち上る湯気と甘い香りに、心が落ち着いていく。その優しい気遣いに、胸が熱くなる。
「実は……」
私は一連の出来事を、順番に説明した。
古代魔法を覚醒させた時の喜び。あの時の達成感と、師匠に褒められた時の嬉しさから。ヴィクター様に報告しようと弾むような気持ちで向かったこと。彼も私の成長を喜んでくれるに違いないという、淡い期待。
だけど、報告の機会も与えられずに冷酷な婚約破棄を宣告されたこと。私の話を聞こうともしない彼の態度。まるで私が邪魔だという扱い。
実家に帰って父に状況を説明しようとしたけれど、そちらでも話を聞いてもらえずに除籍処分を言い渡されたこと。着の身着のまま屋敷から追い出され、完全に孤立してしまったこと。
師匠は最後まで、一度も口を挟むことなく私の話を聞いてくれた。時折頷きながら、私の心境に寄り添うような優しい眼差しを向けてくれる。その温かな瞳に、私は救われる思いだった。
「そんな中で、誰かに助けてほしいと思ったら、気付いたらここにいました」
きっと、師匠だけが私を理解してくれると思って。話し終えた時、師匠は深いため息をついた。でも、それは呆れのため息ではない。私の境遇を憂う、深い同情のため息だと感じた。
「なるほど。大変なことがあったんだね」
師匠の言葉には、私を責める気持ちは全く感じなかった。ただ純粋に、私の辛さを理解してくれる温かさがあった。
「でも、師匠……私のせいで、きっとご迷惑を……」
「迷惑だなんて思っていないよ。それより、君がここに来てくれたのが嬉しい」
師匠の言葉に、胸の奥が温かくなった。こんな世界で、私を必要としてくれる人がまだ一人いる。それだけで、絶望の淵から少し這い上がれた気がした。
「これから、どうする?」
「……どうすればいいのか、わかりません。お金もないし、行く場所もない。何が、できるというのでしょう」
自分の現状を口にすると、改めて絶望的な状況が身に染みた。でも、師匠は私に向かって微笑んでくれた。その笑顔には、何か考えがあるような確信が宿っている。
「それなら、提案があるんだ。君さえ良ければ、一緒に来るか?」
「一緒に……ですか?」
師匠の突然の提案に、私は目を見開いた。まさか、そんな提案をしてもらえるなんて想像もしていなかった。
「旅に出ようと思っているんだ。君も一緒に来てほしい。色々な場所を回りながら、古代魔法の腕を磨こう。それから、困っている人たちを助ける旅を。君の古代魔法があれば、きっと多くの人たちの役に立てるはずだ」
師匠の提案は魅力的だったが、私には一つ心配なことがあった。
「でも、師匠はヴァーレンティア家に雇われた魔法教師なのでは? この土地を離れたら、その雇用関係が途切れてしまって……師匠にご迷惑がかかるのでは?」
ヴァーレンティア家に雇われていたから、私は師匠の教えを受けることが出来た。その仕事を離れるのは、師匠にとって損失なのではないか。そう思ったのだが、師匠は苦笑いを浮かべた。
「実を言うと、かなり昔からヴァーレンティア家と私の雇用関係は切れているんだよ」
「え? そうだったのですか?」
「君の父は、娘の魔力を増やすことに期待していた。だから最初は、魔力強化の指導を強く求められたんだ。でも、君の場合はそこを成長させるのは難しいと判断して、魔法のコントロールと理論の習得を重視する方針を提案したんだが……」
師匠の表情が少し曇る。きっと、父との間で何かあったのだろう。
「彼は娘の才能を信じられなかったみたいでね。『そんな不確実なことに時間を費やすより、確実に魔力を上げる方法を教えてくれ』と言われた。魔力至上主義の考えから抜け出せなかったんだろう。それで、彼の望む『目に見える成果』が出なかったので担当を外された」
父は、理解してくれなかった。
「その時点で、契約は打ち切り。しばらく様子を見る許可はもらったけれど、報酬は受け取っていない。完全に無償の指導だったんだよ」
そんな事があったなんて初耳だった。師匠が無償で私を指導してくれていた事実に、申し訳なさと深い感謝の気持ちが湧き上がった。
私の才能を信じて、誰からも評価されない中で一人だけ私を支えてくれていた。しかも無償で。
「師匠……そんな……申し訳ありません。私のために、そこまで……」
「君が気にする必要はないさ。残って君を見守ろうと思ったのは私の意志だからね」
「どうして、そこまでしてくださったんですか?」
「君に才能があると確信していたから。まさか、こんなにも早く覚醒するとは予想外だったけれど、それは君が努力した結果だよ」
師匠は、優しげな表情で努力してきたことを褒めてくれる。その言葉でまた、胸の奥が熱くなった。
「それに、君は今日、瞬間転移の魔法を使った。しかも完全に無意識で、目的地への強い想いだけで」
「そんなに……すごいことだったんですか?」
「転移というのは、宮廷魔術師クラスでも成功させるのは非常に困難な技術なんだ。正確な座標計算、膨大な魔力、精密なコントロール——すべてが完璧に揃わなければ失敗する。君は、古代魔法の力でそれを成功させた。本当に驚異的なことだよ」
師匠の言葉に、私は自分でも驚いた。古代魔法というのが、これほどまでにとんでもない力なのだと実感する。その力を、私は確かに使えるようになった。
「それで、一緒に行くかどうか答えを聞かせてくれるかな?」
「……でも」
一緒に行って、本当に迷惑じゃないのか。足手まといになるのではないか。そんな私のネガティブな気持ちを察したのか、師匠は優しく答えてくれた。
「君は素晴らしい才能を持っている。それを無駄にしたくない。近くで見ていたい、というのが私の気持ちだよ。一緒に来てくれた方が私も安心だし、その才能を埋もれさせてしまう方がよっぽど恐ろしいことだ」
師匠の確信に満ちた言葉に、私の心は大きく揺れた。これまで魔力不足と否定され続けてきた私の能力を、師匠だけは本当に価値あるものとして見てくれている。
「でも、本当に迷惑ではありませんか? 私なんかが師匠の足手まといになるのでは……。料理も満足にできませんし、旅の経験もありません」
最後の心配を口にすると、師匠は首を振った。
「君がいてくれれば、私も心強い。一人の旅は、時として寂しいものだからね。それに、料理なんて旅をしながら覚えればいい。大切なのは、共に歩む意志があるかどうかだ。君の気持ちを聞かせてほしい」
師匠の言葉には、一片の迷いもなかった。私を本当に必要としてくれているのだと、その確信が伝わってくる。
私は深く息を吸い込んだ。
もう、迷う理由はない。師匠だけが私を理解してくれている。師匠だけが私の価値を認めてくれている。求められている。ならば、私がすべきことは一つだけ。
「はい。それなら、私は師匠についていきます。どこまでも」
私の答えに、師匠の顔に安堵の表情が浮かんだ。
「ありがとう、エリアナ。君と一緒なら、きっと素晴らしい旅になるだろう」
師匠の温かい言葉に、私の心に希望の光が差し込んだ。新しい可能性への期待。師匠と共に歩む道が、私を成長させてくれるという確信。
婚約者からも実家からも見捨てられた私だけれど、師匠がいてくれる。私の才能を信じて、導いてくれる人がいる。それだけで十分だった。
この日から始まる師匠との旅路で、私は多くの人々と出会い、古代魔法の真の力を知り、そして真実の愛を見つけることになる。
それから、数年の月日が過ぎた——。
目の前に映ったのは、見慣れた師匠の驚いた表情だった。ソリウス様の温和な瞳が、心配そうに私の顔を見つめている。その瞬間、胸の奥に溜まっていた色々な感情が一気に解けて、涙がこぼれそうになった。
「し、師匠……!」
私は師匠の胸に飛び込んだ。年齢に似合わぬがっしりとした彼の体が、私を受け止めてくれる。師匠の腕に包まれた瞬間、これまで必死に堪えていた感情が溢れ出してきた。
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突然、彼の拠点にお邪魔してしまったことを理解する。
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師匠は私を暖炉の近くの椅子に座らせて、温かいお茶を差し出してくれた。カップから立ち上る湯気と甘い香りに、心が落ち着いていく。その優しい気遣いに、胸が熱くなる。
「実は……」
私は一連の出来事を、順番に説明した。
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だけど、報告の機会も与えられずに冷酷な婚約破棄を宣告されたこと。私の話を聞こうともしない彼の態度。まるで私が邪魔だという扱い。
実家に帰って父に状況を説明しようとしたけれど、そちらでも話を聞いてもらえずに除籍処分を言い渡されたこと。着の身着のまま屋敷から追い出され、完全に孤立してしまったこと。
師匠は最後まで、一度も口を挟むことなく私の話を聞いてくれた。時折頷きながら、私の心境に寄り添うような優しい眼差しを向けてくれる。その温かな瞳に、私は救われる思いだった。
「そんな中で、誰かに助けてほしいと思ったら、気付いたらここにいました」
きっと、師匠だけが私を理解してくれると思って。話し終えた時、師匠は深いため息をついた。でも、それは呆れのため息ではない。私の境遇を憂う、深い同情のため息だと感じた。
「なるほど。大変なことがあったんだね」
師匠の言葉には、私を責める気持ちは全く感じなかった。ただ純粋に、私の辛さを理解してくれる温かさがあった。
「でも、師匠……私のせいで、きっとご迷惑を……」
「迷惑だなんて思っていないよ。それより、君がここに来てくれたのが嬉しい」
師匠の言葉に、胸の奥が温かくなった。こんな世界で、私を必要としてくれる人がまだ一人いる。それだけで、絶望の淵から少し這い上がれた気がした。
「これから、どうする?」
「……どうすればいいのか、わかりません。お金もないし、行く場所もない。何が、できるというのでしょう」
自分の現状を口にすると、改めて絶望的な状況が身に染みた。でも、師匠は私に向かって微笑んでくれた。その笑顔には、何か考えがあるような確信が宿っている。
「それなら、提案があるんだ。君さえ良ければ、一緒に来るか?」
「一緒に……ですか?」
師匠の突然の提案に、私は目を見開いた。まさか、そんな提案をしてもらえるなんて想像もしていなかった。
「旅に出ようと思っているんだ。君も一緒に来てほしい。色々な場所を回りながら、古代魔法の腕を磨こう。それから、困っている人たちを助ける旅を。君の古代魔法があれば、きっと多くの人たちの役に立てるはずだ」
師匠の提案は魅力的だったが、私には一つ心配なことがあった。
「でも、師匠はヴァーレンティア家に雇われた魔法教師なのでは? この土地を離れたら、その雇用関係が途切れてしまって……師匠にご迷惑がかかるのでは?」
ヴァーレンティア家に雇われていたから、私は師匠の教えを受けることが出来た。その仕事を離れるのは、師匠にとって損失なのではないか。そう思ったのだが、師匠は苦笑いを浮かべた。
「実を言うと、かなり昔からヴァーレンティア家と私の雇用関係は切れているんだよ」
「え? そうだったのですか?」
「君の父は、娘の魔力を増やすことに期待していた。だから最初は、魔力強化の指導を強く求められたんだ。でも、君の場合はそこを成長させるのは難しいと判断して、魔法のコントロールと理論の習得を重視する方針を提案したんだが……」
師匠の表情が少し曇る。きっと、父との間で何かあったのだろう。
「彼は娘の才能を信じられなかったみたいでね。『そんな不確実なことに時間を費やすより、確実に魔力を上げる方法を教えてくれ』と言われた。魔力至上主義の考えから抜け出せなかったんだろう。それで、彼の望む『目に見える成果』が出なかったので担当を外された」
父は、理解してくれなかった。
「その時点で、契約は打ち切り。しばらく様子を見る許可はもらったけれど、報酬は受け取っていない。完全に無償の指導だったんだよ」
そんな事があったなんて初耳だった。師匠が無償で私を指導してくれていた事実に、申し訳なさと深い感謝の気持ちが湧き上がった。
私の才能を信じて、誰からも評価されない中で一人だけ私を支えてくれていた。しかも無償で。
「師匠……そんな……申し訳ありません。私のために、そこまで……」
「君が気にする必要はないさ。残って君を見守ろうと思ったのは私の意志だからね」
「どうして、そこまでしてくださったんですか?」
「君に才能があると確信していたから。まさか、こんなにも早く覚醒するとは予想外だったけれど、それは君が努力した結果だよ」
師匠は、優しげな表情で努力してきたことを褒めてくれる。その言葉でまた、胸の奥が熱くなった。
「それに、君は今日、瞬間転移の魔法を使った。しかも完全に無意識で、目的地への強い想いだけで」
「そんなに……すごいことだったんですか?」
「転移というのは、宮廷魔術師クラスでも成功させるのは非常に困難な技術なんだ。正確な座標計算、膨大な魔力、精密なコントロール——すべてが完璧に揃わなければ失敗する。君は、古代魔法の力でそれを成功させた。本当に驚異的なことだよ」
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「それで、一緒に行くかどうか答えを聞かせてくれるかな?」
「……でも」
一緒に行って、本当に迷惑じゃないのか。足手まといになるのではないか。そんな私のネガティブな気持ちを察したのか、師匠は優しく答えてくれた。
「君は素晴らしい才能を持っている。それを無駄にしたくない。近くで見ていたい、というのが私の気持ちだよ。一緒に来てくれた方が私も安心だし、その才能を埋もれさせてしまう方がよっぽど恐ろしいことだ」
師匠の確信に満ちた言葉に、私の心は大きく揺れた。これまで魔力不足と否定され続けてきた私の能力を、師匠だけは本当に価値あるものとして見てくれている。
「でも、本当に迷惑ではありませんか? 私なんかが師匠の足手まといになるのでは……。料理も満足にできませんし、旅の経験もありません」
最後の心配を口にすると、師匠は首を振った。
「君がいてくれれば、私も心強い。一人の旅は、時として寂しいものだからね。それに、料理なんて旅をしながら覚えればいい。大切なのは、共に歩む意志があるかどうかだ。君の気持ちを聞かせてほしい」
師匠の言葉には、一片の迷いもなかった。私を本当に必要としてくれているのだと、その確信が伝わってくる。
私は深く息を吸い込んだ。
もう、迷う理由はない。師匠だけが私を理解してくれている。師匠だけが私の価値を認めてくれている。求められている。ならば、私がすべきことは一つだけ。
「はい。それなら、私は師匠についていきます。どこまでも」
私の答えに、師匠の顔に安堵の表情が浮かんだ。
「ありがとう、エリアナ。君と一緒なら、きっと素晴らしい旅になるだろう」
師匠の温かい言葉に、私の心に希望の光が差し込んだ。新しい可能性への期待。師匠と共に歩む道が、私を成長させてくれるという確信。
婚約者からも実家からも見捨てられた私だけれど、師匠がいてくれる。私の才能を信じて、導いてくれる人がいる。それだけで十分だった。
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