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第2話 目の前にある素敵なケーキ

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 王子の婚約者として相応しい女性を目指して、今まで必死に努力をしてきた。

 一番辛かったのは、王家が定めた王妃に相応しい体型を維持するために食事制限を命じられて、満足に食べられなかったこと。

 食べることを我慢して、死ぬ気で頑張ってきた。

 それなのに私は、婚約を破棄された。これまでの努力がすべて無駄になったのね。どうしてこうなったのか分からないけれど、悔しかった。でも、辛い日々が終わったことにホッとしている自分もいた。

 もう私は、我慢しなくてもいいの。だって、王妃になる道は閉ざされたんだもの。何をしても自由。それが嬉しい。解放された気分になっていた。

 空腹がよみがえる。私は今、お腹がすいている。満足するまで食べたくなった。

 足が勝手に動く。テーブルに向かって、手を伸ばした。周りで見ていた人たちが、ギョッとした顔をしたけど気にしないわ。

「お、おい! お前、何をやって――」
「……ッ!」

 背中から、マルク王子の声が聞こえてきた。でも今は、そんなことよりも目の前にあるケーキが大事。

 私はもう我慢しないのよ。食べたいと思ったから、それを食べるだけ。幸せになるために、私は行動する。

「ぅぅ……、美味しいぃぃ……!」

 口の中に入れた瞬間、とんでもない幸福感が全身を包む。涙が出るほど、美味しい。甘くて、フワフワで、口の中で幸せな気持ちが広がって溶けていく。というか、本当に涙が出てきた。

「ぁぅ……、甘くて、幸せ……」

 体調管理や体型維持など、綿密に食事の計画を立てて、計画通りに食べることしか許されなかった。何も気にしないで自由に食べるなんて、何年振りだろうか。自由に食べられる幸せを噛みしめながら、私は夢中で甘いケーキを食べた。

 イチゴのケーキに、チョコレートのケーキ、フルーツケーキにチーズケーキも食べたい。他にも、モンブランとかシュークリーム、マカロンなども。甘いお菓子ばかり選んで手に取り、口の中へ放り込んでいく。

 今後、体型維持を気にする必要がなくなったので、これからは自由に食べられる。それが、嬉しくてたまらない。

「お嬢様、お召し物が汚れてしまうのでコレを使って下さい」
「……ん、ありがとう」

 ケーキを食べていると、後ろから声を掛けられた。パーティー会場で給仕していたメイドのようだ。使って下さいと渡されたのは、フォーク。これを使え、ということらしい。

 少しだけ冷静になって、恥ずかしい気持ちが湧き上がってきた。手掴みでケーキを食べるなんて、はしたないわよね。でも、止まらなかった。私は、食べることだけに集中していた。甘美な食べ物で、我を忘れていた。

 これからは落ち着いて、フォークを使って食べましょう。

 手についたクリームをハンカチでふき取った。ちょっとベタベタしていたけれど、食べるのに支障は何も無いから大丈夫。

 そしてまた食べることに集中する。

 どんどん食べ続けても、まだまだ満たされないぐらいケーキが美味しい。甘いものなら、いくらでも食べられる。あの言葉って、こういう事だったのね。今この瞬間に実感した。そして、涙がとめどなく溢れ出てくる。

「うぅ……、幸せ……」

 泣きながら、幸福感に包まれる。こんなに美味しいものを知らなかった自分が愚かに思えた。もっと早く、こうしていれば良かったと思う。

 我慢なんて、する必要はなかった。だって、こんなに幸せなんだもの。
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