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第6話 疑念と決断 ※マルク王子視点

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 前々から、相性が合わないオリヴィアとの婚約をどうにかできないか考えていた。相性だけじゃない。いつも反応が悪く、不機嫌なオーラを放っている。顔色も悪く、健康的ではない。彼女のような女性が、王妃になるべきなのか疑問だった。

 王妃にふさわしい体型を維持するために、そんなことになっているらしい。王妃になる前からそんな状態で、大丈夫なのか? 今後、良くなっていく可能性はあるのだろうか?

 王家が定めた基準はクリアしているそうだが、ギリギリらしい。かなり無理して、なんとか合格ラインに届いているという感じ。それを聞いて、不安になった。もっと別の、良い令嬢がいるのでは? そう考えて、私は自ら候補者を探そうと決意した。

 それで親しくなったのが、アイリーンだった。彼女は見た目もいいし、性格も明るかった。私と気が合いそうな子だと思った。

 アイリーンと出会ったきっかけは、私の婚約相手だったオリヴィアだ。どうやら、アイリーンはオリヴィアからイジメられたらしく、私に相談してきた。

 とうとう問題を起こしてしまったか、オリヴィア。不機嫌なオーラを撒き散らすだけでなく、誰かを傷つけるなんて。いつかやるかもしれないと思っていたが、本当にやってしまったのか。イジメという行為で、手を出してしまうなんて。

 婚約者として見過ごせない。アイリーンを助けてあげたいと思った私は、行動することにした。

 それに今回の話を利用して、オリヴィアとの婚約を解消できればいいとも思った。向こうの問題で、婚約を破棄できそう。

 婚約相手のオリヴィアに、アイリーンをイジメた件について問い詰めて、反省させる。罰として私との婚約は破棄して、二度と同じ過ちを繰り返さないと約束させる。

 アイリーンの問題とオリヴィアとの婚約、二つを解決できるチャンスだと思った。

 そういう目的で、今夜のパーティーに挑んだ。上手くいくはずだった。しかし、想定外な出来事が起きる。婚約破棄を告げてイジメの件を突きつけたら、オリヴィアが手づかみでケーキを食べ始めた。泣きながら、ムシャムシャ食べている。

 私の目の前で。私のことを完全に無視して。

 あまりにも衝撃的な光景に、言葉を失った。そのまま彼女はケーキを食べ続ける。止まる気配はない。オリヴィアは、おかしくなってしまった。そう思った。

 気が付くと、私はパーティー会場から出ていた。その足で、アイリーンに会いに行く。



「アイリーン、本当に君はオリヴィアにイジメられたのか?」

 その時、もう一度イジメの件について詳しく聞きたいと思った。彼女が答える。

「本当ですよ。貴方の婚約相手だった女性から、嫌がらせを受けました」
「それは、いつの話だ? 何をされたんだ? もう一度、詳しく聞かせてくれ」
「半年ぐらい前です。私の口からは言いたくない、とても酷いことをされました」
「……。そうか」

 アイリーンの言葉を聞いて、ちょっとした疑念が生じる。日時はあいまいで、何をされたのか言えないなんて本当なのか。だけど、アイリーンのことを疑いたくない。なので、追及しなかった。

 それにもう、婚約破棄を告げてしまった。大勢の目の前で、言ってしまったのだ。オリヴィアとの婚約は破棄。今さら撤回はできない。

 日時があいまいなのも何をされたのか言えないのも、それだけオリヴィアから酷い嫌がらせを受けたということ。思い出したくない、という理由なら納得できる。

 それに、さっき見た常軌を逸したオリヴィアならやりかねないと思った。ケーキを手づかみで食べるなんて普通じゃない。イジメが事実だからこそ、その事実を突きつけられて、おかしくなった。そうじゃないと、あんな行動に出た説明がつかない。

 イジメの件について、私はアイリーンの言葉を信じることにした。しかし、事実の調査はしない。目撃者が何人か居るらしいけれど、事情聴取はやめておく。この件で騒ぎを大きくしないように。イジメはあった。それが事実。

 アイリーンにも伝えておいた。酷い嫌がらせの詳しい内容を他の人には知らせないために、という理由で調査を行わないことを。彼女は感謝していた。これでいい。

 オリヴィアの奇行が世間で話題になったことは、都合がよかった。婚約破棄の主な理由を付け加えることが出来る。王妃にふさわしくない振る舞いが原因だったと説明すれば、周囲も納得してくれるはずだ。

 こうして私は婚約破棄の手続きを進めて、数日後には無事に成立させた。

 オリヴィアはもう、私の婚約相手ではない。関係が切れて、他人になれたことが嬉しかった。これでもう、彼女の酷い顔色を見なくて済むな。不機嫌そうな表情を見ることもない。

 これで心置きなく、相性の良いアイリーンとの関係を進めることができそうだな。空いてしまった王妃の座を、彼女に埋めてもらう。国王になる私を支えてくれる王妃になってもらおう。そんな風に考えていた。



 数年後、アイリーンを選んでしまったことを後悔する日が来るとは知らずに。
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