6 / 6
絶望に至る病
遅すぎた後悔
しおりを挟む
「お久しぶりですディートリヒ様。お身体の具合いは、いかがでしょうか」
「ふん。また来たのか、オリヴィア」
一週間に一度ぐらいの頻度で、ディートリヒの看病に来ていたオリヴィア。しかし、婚約破棄という事件が今の状況を引き起こした原因だと考えているディートリヒにとって、自分の過ちを顧みずに彼女に対して強く当たることで精神を安定させていた。
ディートリヒに暴言を吐かれても、オリヴィアは悲しい表情を浮かべるだけで何も言い返さない。ただひたすら、精神の病が治ると信じて声をかけるだけだった。
「ディートリヒ様、貴方の病気は必ず良くなります。だから今は、医師の指示をしっかり聞いて安静にしていて下さい」
「ふん」
今、ディートリヒのことを一番に心配しているのがオリヴィアだろう。そして、優しく声を掛けてくれるのも彼女だけ。
他の人間は、ディートリヒという王子だった彼の存在を忘れ去ってしまっていた。オリヴィアだけが、元王子だったディートリヒという人間を認識している。無意識のうちに彼女の存在が、ディートリヒにとっての支えになっていた。それは分かっている。けれど、ディートリヒは捻くれた対応で彼女を雑に扱っていた。
意地を張って、ディートリヒはオリヴィアに向けて変わらず酷い暴言を吐き続けた。病気なんかじゃないのに貴様の心配なんかの看病など必要ない。俺のことなんか、放っておけと言って追い払おうとした。
「どうぞ、お大事になさって下さい」
オリヴィアは最後まで心配する表情を浮かべて、ディートリヒのもとから去っていく。見舞いに来た時、毎回のように見られる光景だった。
***
そんなある日、2人の別れは突然やって来た。
いつものようにディートリヒの病気を見舞いにやって来ていたオリヴィアが、前触れもなく告げた一言に彼は衝撃を受ける。
「私、新しい婚約者が決まりました」
「なんだと……!?」
王族であったディートリヒから婚約破棄を言い渡された後。修道院に送られる人生を覚悟していたオリヴィアの元に、新しい婚約の申し込みがあった。
その婚約話は、家の繁栄を目的にした政略結婚ではあった。婚約相手は、オリヴィアと年の近い青年貴族だった。知り合いではない人物で、どんな性格なのかも未知である相手。
だがしかし、その話を断ったらもう二度と婚約の話が舞い込んでくる事はないだろうと、オリヴィアは確信していた。それに、貴族として政治的な駆け引きのために結婚することも令嬢の役目だと信じていた彼女。
婚約の話を、すぐ受けることに決めた。
新しい婚約相手が決まったオリヴィアは、元婚約者であるディートリヒを見舞い通う日々を、もう送れなくなったと説明した。もう、会いに来ることが出来なくなったと、彼女は告げる。
「申し訳ありません、ディートリヒ様」
「ふん、二度と貴様の顔を見ずに済むというのならば清々する!」
「……今まで、ありがとうございました。失礼します」
オリヴィアは、ディートリヒを悲しそうな表情で見つめながら別れを告げた。最後の一言を口にした彼女は立ち上がり、もう二度と後ろを振り返らず部屋から出ると、彼のもとから去っていった。
「……ッ!」
部屋を出る時に振り返らなかった彼女は、手を伸ばし引き留めようとしているディートリヒの未練ある行動を見ずに済んだのだった。
オリヴィアが去った後、ディートリヒの手がベッドの上に力なく落ちた。彼は項垂れて、しばらく動かなくなった。
***
元王子のことを心配して屋敷を訪れるような見舞客は、もう二度と現れることは無かった。
以後、オリヴィアとの最後の別れを毎日のように思い出しながら後悔し続けて、1人で寂しく残りの人生を送ることになったディートリヒ。
「ふん。また来たのか、オリヴィア」
一週間に一度ぐらいの頻度で、ディートリヒの看病に来ていたオリヴィア。しかし、婚約破棄という事件が今の状況を引き起こした原因だと考えているディートリヒにとって、自分の過ちを顧みずに彼女に対して強く当たることで精神を安定させていた。
ディートリヒに暴言を吐かれても、オリヴィアは悲しい表情を浮かべるだけで何も言い返さない。ただひたすら、精神の病が治ると信じて声をかけるだけだった。
「ディートリヒ様、貴方の病気は必ず良くなります。だから今は、医師の指示をしっかり聞いて安静にしていて下さい」
「ふん」
今、ディートリヒのことを一番に心配しているのがオリヴィアだろう。そして、優しく声を掛けてくれるのも彼女だけ。
他の人間は、ディートリヒという王子だった彼の存在を忘れ去ってしまっていた。オリヴィアだけが、元王子だったディートリヒという人間を認識している。無意識のうちに彼女の存在が、ディートリヒにとっての支えになっていた。それは分かっている。けれど、ディートリヒは捻くれた対応で彼女を雑に扱っていた。
意地を張って、ディートリヒはオリヴィアに向けて変わらず酷い暴言を吐き続けた。病気なんかじゃないのに貴様の心配なんかの看病など必要ない。俺のことなんか、放っておけと言って追い払おうとした。
「どうぞ、お大事になさって下さい」
オリヴィアは最後まで心配する表情を浮かべて、ディートリヒのもとから去っていく。見舞いに来た時、毎回のように見られる光景だった。
***
そんなある日、2人の別れは突然やって来た。
いつものようにディートリヒの病気を見舞いにやって来ていたオリヴィアが、前触れもなく告げた一言に彼は衝撃を受ける。
「私、新しい婚約者が決まりました」
「なんだと……!?」
王族であったディートリヒから婚約破棄を言い渡された後。修道院に送られる人生を覚悟していたオリヴィアの元に、新しい婚約の申し込みがあった。
その婚約話は、家の繁栄を目的にした政略結婚ではあった。婚約相手は、オリヴィアと年の近い青年貴族だった。知り合いではない人物で、どんな性格なのかも未知である相手。
だがしかし、その話を断ったらもう二度と婚約の話が舞い込んでくる事はないだろうと、オリヴィアは確信していた。それに、貴族として政治的な駆け引きのために結婚することも令嬢の役目だと信じていた彼女。
婚約の話を、すぐ受けることに決めた。
新しい婚約相手が決まったオリヴィアは、元婚約者であるディートリヒを見舞い通う日々を、もう送れなくなったと説明した。もう、会いに来ることが出来なくなったと、彼女は告げる。
「申し訳ありません、ディートリヒ様」
「ふん、二度と貴様の顔を見ずに済むというのならば清々する!」
「……今まで、ありがとうございました。失礼します」
オリヴィアは、ディートリヒを悲しそうな表情で見つめながら別れを告げた。最後の一言を口にした彼女は立ち上がり、もう二度と後ろを振り返らず部屋から出ると、彼のもとから去っていった。
「……ッ!」
部屋を出る時に振り返らなかった彼女は、手を伸ばし引き留めようとしているディートリヒの未練ある行動を見ずに済んだのだった。
オリヴィアが去った後、ディートリヒの手がベッドの上に力なく落ちた。彼は項垂れて、しばらく動かなくなった。
***
元王子のことを心配して屋敷を訪れるような見舞客は、もう二度と現れることは無かった。
以後、オリヴィアとの最後の別れを毎日のように思い出しながら後悔し続けて、1人で寂しく残りの人生を送ることになったディートリヒ。
184
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説
実家を没落させられ恋人も奪われたので呪っていたのですが、記憶喪失になって呪わなくなった途端、相手が自滅していきました
麻宮デコ@SS短編
恋愛
「どうぞ、あの人たちに罰を与えてください。この身はどうなっても構いません」
ラルド侯爵家のドリィに自分の婚約者フィンセントを奪われ、実家すらも没落においやられてしまった伯爵家令嬢のシャナ。
毎日のように呪っていたところ、ラルド家の馬車が起こした事故に巻き込まれて記憶を失ってしまった。
しかし恨んでいる事実を忘れてしまったため、抵抗なく相手の懐に入りこむことができてしまい、そして別に恨みを晴らそうと思っているわけでもないのに、なぜか呪っていた相手たちは勝手に自滅していってしまうことになっていった。
全6話
転生令嬢だと打ち明けたら、婚約破棄されました。なので復讐しようと思います。
柚木ゆず
恋愛
前世の記憶と膨大な魔力を持つサーシャ・ミラノは、ある日婚約者である王太子ハルク・ニースに、全てを打ち明ける。
だが――。サーシャを待っていたのは、婚約破棄を始めとした手酷い裏切り。サーシャが持つ力を恐れたハルクは、サーシャから全てを奪って投獄してしまう。
信用していたのに……。
酷い……。
許せない……!。
サーシャの復讐が、今幕を開ける――。
紅の髪のせいで理不尽な目に遭わされてばかりでしたが、婚約破棄の向こう側に出会いと幸せがありました。
四季
恋愛
紅の髪のせいで理不尽な目に遭わされてばかりでしたが、婚約破棄の向こう側に出会いと幸せがありました。
生きていて良かったです。
【完】今流行りの婚約破棄に婚約者が乗っかり破棄してきました!
さこの
恋愛
お前とは婚約を破棄する! と高々と宣言する婚約者様。そうですね。今流行っていますものね。愛のない結婚はしたくない! というやつでわすわね。
笑顔で受けようかしら
……それとも泣いて縋る?
それではでは後者で! 彼は単純で自分に酔っているだけで流行りに乗っただけですもの。
婚約破棄も恐らく破棄する俺カッコいい! くらいの気持ちのはず! なのでか弱いフリしてこちらから振ってあげましょう!
全11話です。執筆済み
ホットランキング入りありがとうございます
2021/09/07(* ᴗ ᴗ)
その婚約破棄喜んで
空月 若葉
恋愛
婚約者のエスコートなしに卒業パーティーにいる私は不思議がられていた。けれどなんとなく気がついている人もこの中に何人かは居るだろう。
そして、私も知っている。これから私がどうなるのか。私の婚約者がどこにいるのか。知っているのはそれだけじゃないわ。私、知っているの。この世界の秘密を、ね。
注意…主人公がちょっと怖いかも(笑)
4話で完結します。短いです。の割に詰め込んだので、かなりめちゃくちゃで読みにくいかもしれません。もし改善できるところを見つけてくださった方がいれば、教えていただけると嬉しいです。
完結後、番外編を付け足しました。
カクヨムにも掲載しています。
『婚約破棄はご自由に。──では、あなた方の“嘘”をすべて暴くまで、私は学園で優雅に過ごさせていただきます』
佐伯かなた
恋愛
卒業後の社交界の場で、フォーリア・レーズワースは一方的に婚約破棄を宣告された。
理由は伯爵令嬢リリシアを“旧西校舎の階段から突き落とした”という虚偽の罪。
すでに場は整えられ、誰もが彼女を断罪するために招かれ、驚いた姿を演じていた──最初から結果だけが決まっている出来レース。
家名にも傷がつき、貴族社会からは牽制を受けるが、フォーリアは怯むことなく、王国の中央都市に存在する全寮制のコンバシオ学園へ。
しかし、そこでは婚約破棄の噂すら曖昧にぼかされ、国外から来た生徒は興味を向けるだけで侮蔑の視線はない。
──情報が統制されている? 彼らは、何を隠したいの?
静かに観察する中で、フォーリアは気づく。
“婚約破棄を急いで既成事実にしたかった誰か”が必ずいると。
歪んだ陰謀の糸は、学園の中にも外にも伸びていた。
そしてフォーリアは決意する。
あなた方が“嘘”を事実にしたいのなら──私は“真実”で全てを焼き払う、と。
【本編完結】真実の愛を見つけた? では、婚約を破棄させていただきます
ハリネズミ
恋愛
「王妃は国の母です。私情に流されず、民を導かねばなりません」
「決して感情を表に出してはいけません。常に冷静で、威厳を保つのです」
シャーロット公爵家の令嬢カトリーヌは、 王太子アイクの婚約者として、幼少期から厳しい王妃教育を受けてきた。
全ては幸せな未来と、民の為―――そう自分に言い聞かせて、縛られた生活にも耐えてきた。
しかし、ある夜、アイクの突然の要求で全てが崩壊する。彼は、平民出身のメイドマーサであるを正妃にしたいと言い放った。王太子の身勝手な要求にカトリーヌは絶句する。
アイクも、マーサも、カトリーヌですらまだ知らない。この婚約の破談が、後に国を揺るがすことも、王太子がこれからどんな悲惨な運命なを辿るのかも―――
婚約破棄するんだったら、その代わりに復讐してもいいですか?
tartan321
恋愛
ちょっとした腹いせに、復讐しちゃおうかな?
「パミーナ!君との婚約を破棄する!」
あなたに捧げた愛と時間とお金……ああっ、もう許せない!私、あなたに復讐したいです!あなたの秘密、結構知っているんですよ?ばらしたら、国が崩壊しちゃうかな?
隣国に行ったら、そこには新たな婚約者の姫様がいた。さあ、次はどうしようか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
こうゆうパターンも面白いですね♪