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11:愛の巣の噂

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「お帰りなさいませ旦那様、奥様」

 屋敷へ戻ると、使用人が増えていた。今日から私たちの生活を支えてくれる彼らに案内され、各部屋を回る。町の方に住居を構えている場合もあるので使用人部屋の数はそれほどでもない。ワインセラーや大型冷蔵庫がないのも、外の店から買い付けられるおかげだった。
 驚いたのが、浴室が思った以上に大きかった事だ。バスタブではなく、修道院でも使用した大浴場を少し狭くした感じだった。掃除中なのを少し覗かせてもらったところ、オリオンが目を輝かせた。

「すげー広いな! 思いっきり泳げそうだ」
「泳がないでください」

 いや、勇者のための家なんだから水泳の訓練も兼ねているのか? 考え込みながらも、やたら長いテーブルがある食堂や、最初にオリオンと会った応接室にも足を運んだ。

「もしかして、大人数の客人を招くのを想定しているのかしら? 二人……いえ三人で暮らすには広いのが気になっていたのですが」
「はい、いずれ旅先から勇者が仲間と共に帰る時にでも、というのは気が早いですが、王族の方々が護衛付きで来られる事もあるでしょうから」

 貴族ならば想定して当たり前だけども、その可能性もあるのか。この町は結界に守られた陸の孤島というイメージがあったので意外だった。プレッシャーなのでできれば避けたいところだが、大は小を兼ねるぐらいに考えておいた方がいいかもしれない。

 二階は夫婦それぞれの私室の間にスペースがあった。壁の向こうは、寝室のはずだ。私のと変わり映えのないオリオンの部屋から、もう一つのドアの鍵穴に鍵を差し込んで開けると。

「うわ……」

 思わず言葉を失った。
 何と言うか、ギラギラしている。王族が使うような真っ赤な天蓋付きベッドには、そばの花瓶にも生けてある薔薇の花弁が散らされ。装飾が施された箪笥の引き出しを開ければ、お香や香油の他にも何故か蝋燭に細い縄まで何に使うのか分からない怪しげな道具が入っていた……見なかった事にしたい。

「きもちわるっ」

 正直過ぎるオリオンの呟きにも、今回ばかりは同意したくなった。一応、確認のためにベッドの下を覗き込む。何してるんだと尋ねられたので、オリオンにもよく見えるようシーツを捲り上げた。

「魔法陣ですよ。わたくしの役割は勇者――異世界人の魂をこの身に降ろす事。そのため、受精したらすぐに召喚できるようベッドの下に描かれてあるのです」
「うへぇ、この上でやんなきゃダメなのか」
「まあ模様替えは自由ですから、家具屋に連絡して後日交換してもらいましょう。今夜は我慢してください」

 そうして書庫に移るが、町には小さくても図書館が用意されている。なのでどうしても屋敷に必要とは思えなかったのだが、棚に並べられていたラインナップは――

(全部妊娠・出産に関する事ばっかり……あ、そう言えば)

 きょろきょろしているオリオンに、私は昨日から気になっていた事を聞いてみる事にした。

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