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13:祝いの席の噂

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 昼になると、私たちは中庭に集まっていた。
 いくつもの小さなテーブルいっぱいに並べられた御馳走……町の人たちも何人か来ているが、どうもボブは昨夜の食べっぷりを見て用意したらしい。

「これ全部食っていいのか!?」
「一応、身内のガーデンパーティーですから。挨拶回りが先です」

 涎を垂らして呻くオリオンを引っ張り、王家から派遣された役人や町長に会釈をする。自分たちの席に戻ってきた頃には、新郎は腹の虫でしか返事しなくなっていた。

「お疲れ様です。ケーキを切り分けてもらいましたから、どうぞ。ワインもありますよ」
「それより肉と白飯が食いたい……」

 肉は分かるが、白飯とは……確か伝説の勇者の好物だったはず。この国ではパンや麺類が主食だけれど、オリオンのような黒髪が多い東方ではライスが主役と聞く。

「白くはありませんがパエリアを貰ってきますね」
「グレートボアを炙った肉に甘いタレかけたやつ……ご飯にのっけてかきこみてぇ~~……」
「……」

 グレートボア、モンスターなんだけど。え、日常的に魔物の肉を食してるのこの人?
 聞かなかった事にしてパエリアを皿に取り分けていると、ジョージに何通かの封筒を渡された。

「奥様、国王陛下とご家族、その他お知り合いの方々からお祝いが届けられています」
「ありがとうございます。後で読ませていただきますね」

 宛名を確認し、オリオンの分を手渡すと引っ手繰られた。別に中を盗み見たりしないのに……私の方は陛下、王太子殿下とその婚約者、家族に修道院の院長、そして――

(えー……なんでビスケット様と王女殿下まで!?)

 せっかくの晴れの日に水を差されたようで、嫌な気分になった。まあ今すぐ読まなきゃいけないでもなし、お礼状を書くついでに流し読みすればいいか。
 私もお腹が減っていたのでテリーヌを一口食べたところ、皿を何枚も積み上げていたオリオンに声をかけられた。

「俺、そろそろ行くわ。後はよろしく」
「え……行くってどこへ?」
「秘密。夜までには戻るから」

 止める間もなく、そう言って庭を出ていってしまった。追いかけようにも、私までパーティーを放置するわけにはいかない。仕方なく軽く事情を説明し、その場はお開きとなった。

(先が思いやられるけど、今日に限っては都合がいいかもしれない)

 こちらも初夜に向けて準備しておく事がある。
 書庫にこもり、本を数冊見繕うと、私は夕食の用意ができたと呼ばれるまで読書に没頭してきた。

「旦那様はまだお帰りになりませんね……一体どちらに」
「さあ……でも約束は守ると思うわ。先にいただいておきましょう」

 不安そうな使用人たちにわざと明るく振る舞い、ボブにはオリオンが帰ってきた時のために夜食を頼んでおく。その後、落ち着かないくらい広い浴室でピカピカに磨かれた私に、初夜に着る寝間着が渡される。

「これ、本当に着るの?」
「ええ、きっと旦那様の心を鷲掴みにできますよ」

(絶対ない……)

 鷲掴みにする前に自分の心が折れそうになりながら、私は寝室で一人待つ事になった。

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