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4 早速高ランクのクエストに挑む

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「さっきはごめんなさいアスマさん。シグロさん、いつも乱暴で…。今日は特に酷かったですけど」
「大丈夫。気にしてないよ」

俺はカウンターに戻ったレナと話をしていた。
レナは申し訳なさそうにしているが、俺は本当に気にしていない。
サンレジェのゲームスタート時、ああいう横暴なキャラに絡まれるイベントがあったことを思い出したからだ。
その後のストーリーに絡んできた記憶もないので、本当にモブなのだろう。

というわけで、あんなのに構っている暇はない。
それよりも自分のクラス・トーカーの能力を早く確かめたい。
スタートの準備はできたのだ、早速話を進めていこう。

「じゃあクエストを受けたいんだけど」
「あ、はい!今来てるクエストはこれだけです」

そう言ってレナはクエストのリストを見せてくれた。

難易度E 大樹キリカンザスの枝葉採取
難易度B キリ水脈の洞窟探索
難易度D ガランダ銀山探索

「ガランダ銀山は、シグロってやつが向かう場所か」
「そうですね。シグロさんはクラスがディガーなので、鉱石の採取が主なお仕事です。いくつかクエストを達成してくれたので、エースディガーにスキルアップされました!」

当然の結果だな。最初はクラスの能力を活かして難易度の低いクエストを達成していくのが定石だ。

しかし、それでは成長に時間がかかりすぎる。
ゲームをプレイする時間と、こうやってリアルに動く時間はまるで違うものだが、いずれにしても俺はさっさとトッププレイヤーに戻ることが目的だ。

「おすすめは、やっぱりキリカンザスの枝葉採取からですね。この村から歩いて1時間くらいのところに群生地域があって…」
「いや、洞窟だ」
「え?」

俺の一言に、レナがすぐさま聞き返してくる。

「洞窟って、キリ水脈の洞窟探索ですか!? 無茶ですよ、難易度B認定されてます! 生息してるモンスターも多いし、奥にはボスクラスのモンスターが潜んでるって噂もあるくらいですよ!」
「ああ、知ってるよ」

クリアするまで多少時間がかかった場所だからな。よく覚えてる。

「でも、俺にこのクエストを受けさせてくれ。必ず良い結果を持って帰ってくるよ」
「そりゃあ、ギルド側に止める権利はないですけど…」
「そんなに心配しないでよ。俺はなるべく早く結果を出して一流の冒険者になりたいんだ。それに、難易度が高いダンジョンの方が俺のトーカーってクラスがどこまでいけるのか判断できるだろ?」
「ううん…今日登録されたばかりの冒険者に、これはさすがに…」
「大丈夫だって。資金もたくさんもらったし、しっかり準備してから行くよ」


暗い顔をしたままのレナを押し切る形で契約書にサインした俺は、ログボとしてもらった資金の一部を握って(幸いギルドで預かってくれるらしい)村の中をまわり、今夜の宿と食料、それから武器や防具一式を用意した。

「ふう…」

日が傾いたころ、俺は宿の部屋で一息ついていた。
時間が目まぐるしく過ぎていったので、ようやく状況の整理ができる。

買ってきた(何かの)干し肉とキャベツらしき野菜のサンドイッチを頬張りながら、俺はここまでの展開を振り返ることにした。

まず、ここはサンレジェの中、ということで間違いないだろう。
まさか車にはねられてゲームの中に来ることになるなんて。

俺はこれからどうするべきなんだろう。
この世界から元いた場所に戻ることはできるのか?
そもそも俺は死んだのだろうか?

あっちの世界では、俺の死体が回収されて、会社や両親に連絡が行き、葬式の段取りが始まっているかもしれない。

「まあ、そんなことを考えてもしょうがないよな」

ため息とともに声が出た。
生活も仕事も、多少の人間関係も、どうしても気になる、未練があるものがいくつかある。

だが、考えても仕方ないのだ。
こんな非現実的なことが起こっている以上、元に戻るなんて希望は抱かない方がいい。

「よし、とりあえずはさよならだ現世」

どうかスマホの検索履歴は見られませんように。

では、ここからの活動を考えよう。
クエスト依頼を受けたキリ水脈の洞窟は、実は難易度に対して範囲が狭く、クリアがしやすい場所だった。
たしか、水脈の源流を調査して水の流れが3箇所に分かれていることを確認すればクエストクリアだったはずだ。

一気に経験値を稼ぐチャンスだ。
さっさとクリアしてステータスを伸ばし、クラスチェンジしよう。

「まあ、トーカーってクラスが何ができるのか、単純に興味はあるけどね」

サンドイッチを飲み込んでから、誰に聞かせるでもなく呟いた。
動いてからのお楽しみだな。

ふぅーともう一度大きく息を吐いて、俺はベッドに倒れ込むと、そのまま眠ってしまった。


「助けてください、どうか、この世界ために…力を貸してください、英雄様…」

どこかで聞いた声がした。

どこで。

ああ、そうか。車にはねられる前に聞いた声だ。

「誰なんだよ、あなたは。俺が力を貸すって、どういうことなんだ?」

真っ暗闇の中、俺の声が反響し、そのまま消えていく。

「助けてください、どうか…」

女の声は変わらず、同じ言葉を届けてくる。

「どうすればいいんだ? あなたが俺をサンレジェの世界に呼んだのか?」

「助けてください、どうか…神を、止めて…」

「神…?」


はっ、と目を開けると、宿の天井が目に入った。
窓の外は薄らと明るい。
これは…どうやら、夕方から翌朝まで眠ってしまったようだ。

身体を起こすと、とても軽い。
そして盛大に腹が鳴った。

「体感としては、飯食ったばっかりなんだけど…」

減ったものは仕方がない。
俺は身支度を整え、再び食料に手を伸ばした。
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