うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo

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第1章 中立自由都市エラリア

フーシェの過去が明かされたようです

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モリソンが奴隷を連れて戻ってきたのは10分程経ってからであった。

先程のフーシェとフローリアとのやり取りのせいで、気まずい雰囲気が続くかと思ったが、そこは商人。
すぐに商談を続けるかと思われたフローリアだが、フーシェに禍根を残さぬように様々な話題を提供し、僕達に思考する暇を与えなかった。

「フフ、この紅茶はね。実はグリドール帝国の物なのよ。リーフィアの紅茶も素敵なものだけど、グリドールは香りが強いものを好む傾向があるの。私は、グリドールの物が好みね」

今は僕達に茶葉を熱心に説明しているが、その前には奴隷の売買に関する周辺諸国の政情について話題を割いていた。
変幻自在の話しぶりと、聞き手に興味を持たせる声色は、彼女が売買におけるプロであることを改めて印象づけさせられた。

さて、そんな風に飛ぶように時間は過ぎ、モリソンは応接室へと続く扉に手をかける。

「では、フーシェ様のご所望の奴隷でございます。ご予算で収められるように、この二人を選んで参りました。──入りなさい」

モリソンがゆっくりと扉を開くと、そこには、白い簡素な服に身を包んだ小さな少年とイスカと同じくらいの身長の少女が立っていた。
その彼らのの首元には、奴隷という身分を表すためのベルトのような、黒い首輪がつけられていた。

「イスカ!?」

先に声を上げたのは、入ってきた奴隷の少女だ。
その声に、すぐさまモリソンが反応し少女の視界を塞ぐ。

「許可なく喋ることは許されません。お客様、失礼致し──」

「レーネ!?」

モリソンが話し終えるより、次に口を開いたのはイスカだった。
飛び上がるように立ち上がると、身を乗り出す。

その様子をフローリアは楽しげに眺めている。

これは、知っていたな⋯⋯?

フローリアの面白がっている表情から、僕はそう推測する。
僕の視線に気づいたのか、フローリアは、よく気づいたとでも言いたげに口元を緩めた。

「あら、お知り合いだったとはね。そう、ドーラスがクルトスを攻めたでしょう?そこで、数名がドーラスに捕らえられて奴隷になったのよ。男は労働力としてグリドールに連れて行かれたわ。そして女性は、このエラリアに運ばれたってわけ。ただ、

そのフローリアの含みに、視線がイスカに向けられたことで僕は確信する。

あの、ベイルベアーに乗せられたイスカは、このエラリアに運ばれてフローリアの『商品』になる所だったのだ。
その真実を知ると、とてつもなく不快な気分が押し寄せてくる。

目の前に立った少女はレーネだ。
だけど、一つ運命が違えばそこに立っていたのはイスカであることは明白だった。

「勘違いしないでね。少しおふざけが過ぎたわ」

フローリアはパタパタと扇で自身の頬をあおぎながら謝罪を口にした。

「ご主人様、恐れながら毎度そのようなご趣味は、少しお客様に対しては控えて頂いた方がよろしいかと存じます」

やれやれと言った風に眉間を押さえるモリソン。
そんな彼の様子を見て、フローリアは口元から笑みをこぼすのをやめた。

「──まぁ、確かに悪かったわ。イスカ様でしたか?貴方の喋り方はクルトスの訛が少し混じっていたことから、このレーネという奴隷と知己であると推測したの。だから、二人を引き合わせたことはこんな私でも情に揺れたと思って頂いて構わないわ」

焦らし方は悪趣味だが、フローリアの言葉を信じるならイスカがクルトスの出身であることを見抜いて、レーネさんをわざわざモリソンに呼ぶように指示したのだろうか。

しかし、本来ならイスカがフローリアの『商品』となる予定であったことを、フローリアは⋯⋯うん、多分見抜いているだろう。

そして、レーネとイスカを引き合わせることは、フローリアにとっては確実な利益をもたらすことに繋がるため、わざわざ彼女を選んで連れてきたのだろう。

何故なら、フーシェがレーネを断ったとしても、イスカと僕は絶対にレーネさんを買うしかなくなるからだ。
よっぽどではない限り、同郷の者を見捨てる者はいないはずだ。

フーシェがレーネを買えばそれで良い、もし買わなかった場合は僕とイスカがレーネさんを買い戻すことは明らかなので、フローリアはフーシェに3人目の奴隷を紹介すれば良いだけだからだ。

フローリアとしては、レーネを諦めてくれた方がもう一人奴隷を売ることができ、儲けに繋がるといった状況だ。
情にほだされたというのも、そう考えるとかなり嘘くさい。

「ん。買う。もう一人見せて」

果たして、フーシェは間髪言わずに即決した。

「商談成立ね。積もる話もあるでしょうけど、後にしましょう。モリソン、連れて行きなさい」

「待って!」

小さく声を上げるイスカに、モリソンは申し訳無さそうに首を横に振ると、室外へとレーネさんを出してしまった。

そして、そこに残されたのは小柄なフーシェと似たやや褐色肌、両耳の上にはやや小ぶりな角と思われる突起がついた少年が立っていた。

この少年が『安全ではない商品』⋯⋯?

「買う」

少年を見るなりフーシェは即答する。
その様子を見てフローリアはニヤリと笑う。

しかし、少年はすぐに表情険しく叫んだ。

「誰だよ!こんなガキの女に俺は買われねぇぞ!」

自分の見た目を全て無視した暴言。
モリソンが嗜めるより早く、少年は駆けるとフーシェへと跳躍した。

「『縛れバインド』」

フローリアがその言葉を口にした瞬間、少年は首元に嵌められた首輪を掴み、苦悶の表情で地面へと落下した。

奴隷としてはあり得ない振る舞いに僕とイスカは驚愕するが、フーシェは眉一つ動かさない。
対するフローリアは、少年を見ると困った風に顔を曇らせた。

「躾がなっておらず、大変な失礼を。こちらが、フーシェ様の予算内で買うことのできる奴隷。ご覧になった通り『安全ではない商品』ですけど、どうされる?」

ツラツラと喋るフローリアに対し、フーシェは何を言っているのだという風に腕を組むと宣言する。

「さっきも言った、買う」

「見た通り、この子は魔族よ。男の魔族は特に厄介、力無いものに仕えることは死ぬ以上の屈辱。貴女にはこの子の面倒が見切れるかしら?」

フローリアの忠告に、フーシェは軽く頷き立ち上がると、殺気を放ち飛びかかってきた少年の元へと近づいた。

フーシェはそのまま苦しんでいる少年の元へと近づくと、その前にしゃがみ込む。

「強い者に仕えたいなら問題ない。私は貴方より強い」

苦しそうに首を押さえながら、少年は歯ぎしりをしながらフーシェを睨む。まるで檻から解き放たれた猛獣のようだ。

「人間風情が、僕の主人になれると思うな!」

首輪の魔力によって苦しんでいるはずなのに、少年は上体を持ち上げると、その拳をフーシェにふるう。

しかし、フーシェはその拳を軽々と握ると、そのまま強く握り潰した。

「ガァッ!いだ、痛い!」

叫ぶ少年を見下ろしつつ、フーシェはフローリアに声をかける。

「まだ、私が買ってないから『商品』は壊せない。ギリギリ壊れないところで腕を握ってる。だから、早く私に売って」

フローリアは、フーシェと少年。お互いのことを一瞥すると、軽く目を瞑って頷いた。

「いいわ、貴女には売っても良いでしょう。その子、レベル15はあるけど、それを軽くあしらっていたわね。『安全ではない商品』ではあるけど、管理する者が適切であれば売り手としては問題ない。商談成立よ」

フローリアの言葉に少年は恨めしげな表情をする。

「こんな、女がなんでこんなに強いんだ⋯⋯」

「ん。だって、私も同族だから」

そう言うと、フーシェは堂々とカチューシャを外した。
そこには、小さいがしっかりと紫色の1対の角が見えた。

その角を目撃した少年の瞳が大きく見開かれる。
しかし、その驚きの顔は次の瞬間怒りに染まる。

「なんで貴様のような誇り高い魔族が、こんな所で生活しているんだ!その角!レーベン大陸の王族の角の色じゃないか!」

少年の言葉に僕は絶句する。
横を見ればイスカも、そしてさすがのフローリアの目にも驚きが現れていた。

しかし、当のフーシェ本人はそのことを一向に意に介していないようだ。
マイペースにカチューシャを戻すと、髪を整える。

「滅んだ故郷は関係ない、弱いから滅んだ。だから、私がどう生きようと私の自由。もともと貴方を買ったら奴隷から開放するつもりだった」

その言葉をフローリアの前で言うのはまずいかと思ったが、フローリアは余り気にしていないようだ。

「うちは、正規の奴隷商。売った奴隷は1年は首輪を外せないわ。手違いで奴隷になったなどの特殊な事情で首輪を外すなら、裁判を受けて正当性を証明しなくちゃならない。だけど、その子のように人族を敵視しているようであれば、うちとしては全ての責任をお客様が背負うと一筆頂かないと、首輪を外すことはできません」

フローリアの言葉に少年は視線を落とす。
しかし、次の瞬間少年は力を振り絞るように指先に力を込めるとフーシェに襲いかかった。

「貴様ら王族が!俺たちの故郷を守れなかったんだ!」

ヒュバッ!

爪が空を切る音を立て、フーシェを襲う。
しかし、フーシェは少年の決死の一撃を避けなかった。

バシュッ!

フーシェの右肩が切り裂かれ、鮮血が飛ぶ。

「なんてことするの!!」

再び、フーシェが止めることを期待でもしていたのか、悲鳴のようにフローリアが叫ぶ。

「フーシェ!大丈夫か!?」
「フーシェちゃん!」

僕とイスカも飛び上がり、フーシェに駆け寄ろうとしたが──

「──いい、これは必要なこと」

フーシェはそう言って、左手で僕達を制した。
痛みに耐えながらもフーシェは傷口である肩を押さえない。

ダラダラと流れる血液は、すぐにフーシェの服を赤く染めあげる。

「な、なんでだよ⋯⋯。お前なら俺を止めることも、反撃することなんて余裕なのに」

少年も、フーシェが無防備に攻撃を受けるとは考えていなかったのか、茫然自失といった感じに、血に染まった震える右手とフーシェを見つめる。

そのフーシェは、ゆっくりと少年に近づくと。震える右手をそっと取り、そして少年を抱き寄せた。

力なく、少年はフーシェの細腕に抱かれることになる。

「ん。よく今まで頑張ってきた。元王族として、誇りに思う。⋯⋯でも、戦争は終わった。貴方が一人なら、私がお姉ちゃんになる。この世界で、失われた故郷の同胞に会えた。それだけで私は嬉しい」

息荒く話すフーシェに抱かれ、少年の顔がクシャクシャになる。

全てを敵に思っていた、暗闇の世界に現れた、同胞という灯火。
その暖かさに触れたのか、少年は眼に一杯の涙を作ると、それは年相応に泣きじゃくるのだった。
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