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序章・帝国崩壊編
17、優しい味
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ミルランスは屋敷の台所で料理を作っていた。
パスタを山羊乳で湯だてて野菜や細切れにした豚肉を入れる。
思い切り鼻で息を吸うと、山羊乳の匂い、野菜の甘い匂い、豚肉の脂の焼ける匂いが合わさって食欲を誘った。
ああ、もう食べたい!
涎をごくんと飲み込んで、食欲をぐっと堪える。
「まだまだこれからこれから。ラドウィン様にも食べて貰うんだから」
瓶の固く締まった蓋を力一杯開けて、小さじ二杯の塩を入れた。
くったくったと煮立つ山羊乳をかき混ざると、スプーンで山羊乳をすくって味見する。
「うん!」
ミルランスは自分が料理の天才じゃないかと小躍りしたい気持ちだ。
ほんの少し前までは料理ナイフ一つ満足操れなかった。
だけど、必死に……いや、自分の料理で笑顔になってくれる人を思い浮かべると毎日毎日『夢中』で料理をして、ついに近所のおばさんお墨付きの料理の腕前のなったのである。
皇帝として帝都に居た時とは感じた事の無かった生きる喜びをミルランスは感じていた。
そして、今日ついに、ミルランスはこの手料理をラドウィンに食べてもらおうと思う。
別に他意は無い。ただ、そう、世話になっているラドウィンに少しでも恩返しがしたいだけだ。
さて、仕上げを――
ミルランスが調味料棚を漁っていると、キッチンに繋がっているダイニングへ誰かが入って来て、キッチンの前に立った。
その気配に顔を向けると、子供が二人立っている。
「ミル姉ちゃん。ラドウィン様は?」
少し背の高い少年が聞いた。
「二階だけど……どうしたの?」
「こいつが転んで……」
背の低い少年は今にも泣き出しそうな顔で必死に涙をこらえている。
派手に転んだようで肘や膝が擦りむけて血が流れていた。
「あちゃ。派手にやったね」
ミルランスは二人をダイニングの椅子に座らせて、リビングから医療セットを持って来る。
包帯や瓶詰めの清潔な水なんかが入れられていて、これらは非常に高価だったからモンタアナ村には領主のこの屋敷にしか無かった。
「ちょっと染みるけど……」
傷に水をかけて、綺麗な布を軽く押し付けて汚れを取ると、テキパキ包帯を巻く。
この処置はラドウィンから教えて貰った。
ミルランスはおっちょこちょいで、庭先を子供達と遊んでいるとよく転んだから自然と怪我の治療を覚える事が出来たのだ。
「よし。どう? 痛い?」
「ちょっとマシ……」
「じゃ、大丈夫だね!」
ミルランスにはかつての引っ込み思案で人見知りな所は見られない。
かつてのオドオドと囁くような声を必死に搾り出すような言葉では無かった。
今では元気に明るくニッコリ笑っている。
「ありがと! 姉ちゃん!」
二人が元気よく屋敷を出ていく背中に「また転んじゃうよ!」と嬉しそうな声で注意した。
ミルランスは二人の子が笑顔になってくれて嬉しい。
彼女はそういう子だったのだ。
ミルランス自身、今まで知らなかった事だったが、自分はきっと人の笑顔で生きていく存在なのだと思った。
「……あー!」
もっとも、笑顔にひたる気分は山羊乳パスタの焦げ付いた臭いで引き戻されたが。
ミルランスは急いで火から鍋をどかしたものの、時既に遅かった。
山羊乳の乳脂が焦げ付いて鍋の底にこびり付いている。
試しに味見したらやっぱり苦味が強くて食べられたものじゃ無かった。
失敗したと思う。
捨てようかと思ったが、勿体ないので捨てるのはやめて自分で食べる事にした。
皇帝の頃は不味いものは食べなかったし、それが当然だった。
だが、モンタアナに来て、野菜を汗水垂らして作る皆や豚を懸命に育てる皆を見ると、捨てる事なんてとても出来やしないのだ。
「ラドウィン様の分はラドウィン様の分で作り直そ」
食材はまだあったかな?
ミルランスは台所の隅にある小さな貯蔵庫を屈んで確認した。
土で出来た貯蔵庫はちょっとした洞窟のようで、気温が高くなる時期でもひんやり涼しい。
貯蔵庫にはまだまだ備蓄はあるので有り合わせの物でなんだって作れそうである。
鼻歌まじりに幾らかの食材を抱えて立ち上がり、振り向くとミルランスは驚いた。
キッチンから見えるダイニングで、ラドウィンが焦げた山羊乳パスタを食べているのだ。
ミルランスは大慌てでラドウィンの元へと駆け寄ると「ダメですラドウィン様!」と食事を止めようとした。
だけどラドウィンは何も気にしてない様子で「やあミルランスちゃん。この料理は君が? 美味いよ」と笑うのだ。
「美味い訳無いです! 焦げてるんですから!」
「そんな事ないよ。優しい味がする」
ミルランスは、自分が子供だからあやされている気がした。
それは、帝都で皇帝だからと誰もが頭を下げてチヤホヤと甘い言葉を並べ立てて来た時と同じような感じがしてミルランスは嫌だった。
悔しくて悲しくて、ミルランスはスカートをギュッと握って顔を俯かせる。
料理だけは……料理だけは自信があったのだ。
失敗をして、美味く出来なかった。
その事実を指摘して欲しかった。
だってそうしてくれないと、次に料理を美味く作れても、ラドウィンが本当に美味いと言ってくれているのか分からない。
不味いと言われても揺るがない料理に対する自信がミルランスにはあったのに、明らかな失敗作を不味いと言ってくれなくて自尊心が傷付いたのだ。
「無理して食べなくて……良いです……」
今にも泣きそうな声をグッと堪えながら言う。
「無理なんてしてない。本当に優しくて美味しい味がするよ」
「こんな焦げて苦いのに……美味いわけないです……」
不味いのに気を使って優しくされるとますますみじめに感じた。
本当はもっと美味しく作れるのだ。
たまたま運が悪くて焦がしてしまっだけなのに、こう優しくされると『これが君の実力なんだね。哀れだから気を遣ってあげるよ』と言われているような感覚を覚えるのである。
「焦げているのはミルランスちゃんが優しいからだ。怪我の治療をしてなかったら焦げて無かっただろう? この味はミルランスちゃんの優しさの味だよ。不味いわけが無い」
ラドウィンがそのように言うのでミルランスは顔を上げた。
なんで子供の怪我を治療していた事を知っているのだろう。
そんな疑問だらけのミルランスの頭をラドウィンは優しく撫でた。
ラドウィンは二階にある執務室から、転んだ子供が入ってくるのを見ていたのだ。
その後、少しして包帯を巻いて出てくるのも執務室から見えていたし、ミルランスの作る料理の匂いが焦げ付いた臭いに変わっていたのにも気付いていた。
「ミルランス。すごく美味しいよ」
ラドウィンがニコリと笑う。
ミルランスは彼の笑顔がなんて優しくてなんて暖かいのだろうと思う。
ラドウィンの向かいに座って、山羊乳パスタを食べる彼の顔を笑顔で見るのだ。
ミルランスはラドウィンがちゃんと自分を見てくれているのだと分かって嬉しいのである。
ニコニコとした笑みでじいっと見てくるので、ラドウィンは食べづらいよと苦笑した。
「それで……今日もハルアーダと喧嘩したのかな?」
ミルランスがラドウィンと一緒に居たがる時はただ一つ、ハルアーダやティタラと喧嘩してつまらない鬱憤を吐き出す時だ。
モンタアナに来てからはそれがミルランスの密かな癒しでもあった。
「そうですよ聞いて下さい。ラドウィン様!」
ミルランスはハルアーダの頭でっかちぶりをラドウィンに話す。
故郷に本当は帰りたくない。ずっとここに居たい。
だってここには自分の望むものがある。
故郷には何も無い。ただ座っているだけのお人形さんにはなりたくない。
「だけど……私が戻らないと大変な事になるってハルアーダが……」
最初はプンプンと頬を膨らませていたミルランスは段々と声がか細く、弱々しくなっていった。
帰りたくない。でも帰らないといけない。
どうすれば良いのか分からず、このまま状況に流されて帰らなくてはいけないのだとミルランスは分かっていた。
ラドウィンはそんなミルランスに優しく微笑んだまま、食べる手を止めて彼女の隣へと座り直す。
そして、彼女の小さな体を抱き締めた。
いきなり抱き締められてミルランスは驚く。
あんまりにも驚いたもので声一つ挙げられずに体はカチンコチンに強張っていた。
そんなミルランスの頭はラドウィンの固い胸に包まれる。
「嫌な事がある時、どうすれば良いか知ってるか?」
ラドウィンはミルランスを優しく抱きしめてそのように聞く。
ミルランスはどうすれば良いのか知らないので小さく頭を左右に振った。
「逃げるんだ。逃げて逃げて逃げて……とにかく嫌な事から逃げる」
「それで……どうするの?」
「そうだな……のんびりできる所でも探して、毎日、本でも読んで暮らすんだ。そうしたら逃げて良かったと思えるんだ」
ミルランスはクスリと笑う。
「それってラドウィン様みたいな暮らしですね」
ラドウィンも笑って「そうだね。僕もそうだった」とミルランスの頭を撫で続けた。
「もう十四年も前かな……まだ五歳だった僕が父上に連れられて帝都からモンタアナに逃げたのは」
「私が産まれた年だ……。ラドウィン様はその時、帝都にいたんですね」
ラドウィンは小さく頷く。
父に連れられてモンタアナへと向かう旅。
その旅はまともなものじゃなかった。
「なにせアロハンド前陛下が僕達を殺そうと追手を放って来たからね」
「お父様が!」
ミルランスは驚いた。
こんなにラドウィンは良い人なのに、そんな人を殺そうだなんて信じられない。
……いや、父の苛烈な性格をミルランスも知っていた。
むしろ信じる事しかできない。
その追手から逃げて逃げて逃げ続けてモンタアナに到着した。
そうしてラドウィンはこの暮らしを手に入れたのだ。
「世の中には逃げてはいけないなんて言う奴は居るけどね、人生一回きりなんだ。幸せを求めて逃げたって良いじゃないか」
そのような事をラドウィンが言うと、なぜかミルランスは不機嫌そうに頬を膨らませて「嘘つき」と見上げるのである。
苦笑して「変な事を言ったかな?」と聞くと、「だってラドウィン様はこの村を守るために一生懸命でしょ? 逃げてないじゃないですか」と言うのだ。
そんな風にミルランスが不貞腐れるのが可愛らしくて、ラドウィンは声を挙げて笑うとその頬をぷにぷにつついた。
このモンタアナはラドウィンにとって宝だ。
だからこの地とこの地に暮らす人々を守るためにどれだけ頑張ろうとも嫌な訳が無かった。
「仕事は嫌だけど、皆が笑顔で居てくれる……それだけで僕は幸せになれるんだ。だからここから逃げる訳が無いんだよ」
ラドウィンの顔にはいつもとは違う笑顔があった。
あの飄々として笑みでは無い、本当に慈愛に満ちた爽やかな笑顔だ。
私と同じ……。
ミルランスはラドウィンの生きる喜びが自分と同じなんだと分かった。
ラドウィン様も同じなんだ。
私と同じで、皆の笑顔が――幸せが、自分の幸せなんだ。
ミルランスはラドウィンに共感すると同時に、彼の笑顔を見ていると自分の顔が凄い勢いで赤くなってきた気がして、ガバと彼の胸に顔をうずめる。
「どうしたの? ミルランスちゃん?」
「なんでもないです!」
ミルランスがピシャリと言い放つので、まるで怒っているかのようでもあったが、心の中では全然怒ってはいなかった。
――ラドウィン様……。やっぱり私はあなたの事が……――
ラドウィンの大きくて硬い胸の中にいるとミルランスは安心した。
あんまりにも安心するものだからそのままゆっくりと眠ってしまう程である。
ミルランスが寝ているのに気付いたラドウィンは彼女の事を起こそうとしたが、すっかり眠っていて起きなかった。
仕方ないのでラドウィンは彼女を抱えて寝室に行くと、ベッドに寝かせるのである。
静かな寝息をたてるミルランスにシーツをかけて、ポンポンと頭を撫でた。
『皇帝陛下』も大変だなぁ。
ラドウィンはそう思う。
彼はミルランスが皇帝だと知っていた。
当たり前であるが、皇帝の名を知らぬ訳が無かったのだ。
でも、ミルランスが皇帝かどうかなんてラドウィンにはどうでもいい事である。
「自分のやりたい道を見つけるまで、ここでゆっくりするが良いよ」
そう呟くと、ラドウィンは窓から外を見た。
屋敷の前に豪華な装飾の施された馬車が泊まっていて、上等な質のローブを着た男が降りている。
三人の護衛兵を連れた切れ目で細く口髭を整えた痩せ身の男が屋敷へと向かって来るのであった。
パスタを山羊乳で湯だてて野菜や細切れにした豚肉を入れる。
思い切り鼻で息を吸うと、山羊乳の匂い、野菜の甘い匂い、豚肉の脂の焼ける匂いが合わさって食欲を誘った。
ああ、もう食べたい!
涎をごくんと飲み込んで、食欲をぐっと堪える。
「まだまだこれからこれから。ラドウィン様にも食べて貰うんだから」
瓶の固く締まった蓋を力一杯開けて、小さじ二杯の塩を入れた。
くったくったと煮立つ山羊乳をかき混ざると、スプーンで山羊乳をすくって味見する。
「うん!」
ミルランスは自分が料理の天才じゃないかと小躍りしたい気持ちだ。
ほんの少し前までは料理ナイフ一つ満足操れなかった。
だけど、必死に……いや、自分の料理で笑顔になってくれる人を思い浮かべると毎日毎日『夢中』で料理をして、ついに近所のおばさんお墨付きの料理の腕前のなったのである。
皇帝として帝都に居た時とは感じた事の無かった生きる喜びをミルランスは感じていた。
そして、今日ついに、ミルランスはこの手料理をラドウィンに食べてもらおうと思う。
別に他意は無い。ただ、そう、世話になっているラドウィンに少しでも恩返しがしたいだけだ。
さて、仕上げを――
ミルランスが調味料棚を漁っていると、キッチンに繋がっているダイニングへ誰かが入って来て、キッチンの前に立った。
その気配に顔を向けると、子供が二人立っている。
「ミル姉ちゃん。ラドウィン様は?」
少し背の高い少年が聞いた。
「二階だけど……どうしたの?」
「こいつが転んで……」
背の低い少年は今にも泣き出しそうな顔で必死に涙をこらえている。
派手に転んだようで肘や膝が擦りむけて血が流れていた。
「あちゃ。派手にやったね」
ミルランスは二人をダイニングの椅子に座らせて、リビングから医療セットを持って来る。
包帯や瓶詰めの清潔な水なんかが入れられていて、これらは非常に高価だったからモンタアナ村には領主のこの屋敷にしか無かった。
「ちょっと染みるけど……」
傷に水をかけて、綺麗な布を軽く押し付けて汚れを取ると、テキパキ包帯を巻く。
この処置はラドウィンから教えて貰った。
ミルランスはおっちょこちょいで、庭先を子供達と遊んでいるとよく転んだから自然と怪我の治療を覚える事が出来たのだ。
「よし。どう? 痛い?」
「ちょっとマシ……」
「じゃ、大丈夫だね!」
ミルランスにはかつての引っ込み思案で人見知りな所は見られない。
かつてのオドオドと囁くような声を必死に搾り出すような言葉では無かった。
今では元気に明るくニッコリ笑っている。
「ありがと! 姉ちゃん!」
二人が元気よく屋敷を出ていく背中に「また転んじゃうよ!」と嬉しそうな声で注意した。
ミルランスは二人の子が笑顔になってくれて嬉しい。
彼女はそういう子だったのだ。
ミルランス自身、今まで知らなかった事だったが、自分はきっと人の笑顔で生きていく存在なのだと思った。
「……あー!」
もっとも、笑顔にひたる気分は山羊乳パスタの焦げ付いた臭いで引き戻されたが。
ミルランスは急いで火から鍋をどかしたものの、時既に遅かった。
山羊乳の乳脂が焦げ付いて鍋の底にこびり付いている。
試しに味見したらやっぱり苦味が強くて食べられたものじゃ無かった。
失敗したと思う。
捨てようかと思ったが、勿体ないので捨てるのはやめて自分で食べる事にした。
皇帝の頃は不味いものは食べなかったし、それが当然だった。
だが、モンタアナに来て、野菜を汗水垂らして作る皆や豚を懸命に育てる皆を見ると、捨てる事なんてとても出来やしないのだ。
「ラドウィン様の分はラドウィン様の分で作り直そ」
食材はまだあったかな?
ミルランスは台所の隅にある小さな貯蔵庫を屈んで確認した。
土で出来た貯蔵庫はちょっとした洞窟のようで、気温が高くなる時期でもひんやり涼しい。
貯蔵庫にはまだまだ備蓄はあるので有り合わせの物でなんだって作れそうである。
鼻歌まじりに幾らかの食材を抱えて立ち上がり、振り向くとミルランスは驚いた。
キッチンから見えるダイニングで、ラドウィンが焦げた山羊乳パスタを食べているのだ。
ミルランスは大慌てでラドウィンの元へと駆け寄ると「ダメですラドウィン様!」と食事を止めようとした。
だけどラドウィンは何も気にしてない様子で「やあミルランスちゃん。この料理は君が? 美味いよ」と笑うのだ。
「美味い訳無いです! 焦げてるんですから!」
「そんな事ないよ。優しい味がする」
ミルランスは、自分が子供だからあやされている気がした。
それは、帝都で皇帝だからと誰もが頭を下げてチヤホヤと甘い言葉を並べ立てて来た時と同じような感じがしてミルランスは嫌だった。
悔しくて悲しくて、ミルランスはスカートをギュッと握って顔を俯かせる。
料理だけは……料理だけは自信があったのだ。
失敗をして、美味く出来なかった。
その事実を指摘して欲しかった。
だってそうしてくれないと、次に料理を美味く作れても、ラドウィンが本当に美味いと言ってくれているのか分からない。
不味いと言われても揺るがない料理に対する自信がミルランスにはあったのに、明らかな失敗作を不味いと言ってくれなくて自尊心が傷付いたのだ。
「無理して食べなくて……良いです……」
今にも泣きそうな声をグッと堪えながら言う。
「無理なんてしてない。本当に優しくて美味しい味がするよ」
「こんな焦げて苦いのに……美味いわけないです……」
不味いのに気を使って優しくされるとますますみじめに感じた。
本当はもっと美味しく作れるのだ。
たまたま運が悪くて焦がしてしまっだけなのに、こう優しくされると『これが君の実力なんだね。哀れだから気を遣ってあげるよ』と言われているような感覚を覚えるのである。
「焦げているのはミルランスちゃんが優しいからだ。怪我の治療をしてなかったら焦げて無かっただろう? この味はミルランスちゃんの優しさの味だよ。不味いわけが無い」
ラドウィンがそのように言うのでミルランスは顔を上げた。
なんで子供の怪我を治療していた事を知っているのだろう。
そんな疑問だらけのミルランスの頭をラドウィンは優しく撫でた。
ラドウィンは二階にある執務室から、転んだ子供が入ってくるのを見ていたのだ。
その後、少しして包帯を巻いて出てくるのも執務室から見えていたし、ミルランスの作る料理の匂いが焦げ付いた臭いに変わっていたのにも気付いていた。
「ミルランス。すごく美味しいよ」
ラドウィンがニコリと笑う。
ミルランスは彼の笑顔がなんて優しくてなんて暖かいのだろうと思う。
ラドウィンの向かいに座って、山羊乳パスタを食べる彼の顔を笑顔で見るのだ。
ミルランスはラドウィンがちゃんと自分を見てくれているのだと分かって嬉しいのである。
ニコニコとした笑みでじいっと見てくるので、ラドウィンは食べづらいよと苦笑した。
「それで……今日もハルアーダと喧嘩したのかな?」
ミルランスがラドウィンと一緒に居たがる時はただ一つ、ハルアーダやティタラと喧嘩してつまらない鬱憤を吐き出す時だ。
モンタアナに来てからはそれがミルランスの密かな癒しでもあった。
「そうですよ聞いて下さい。ラドウィン様!」
ミルランスはハルアーダの頭でっかちぶりをラドウィンに話す。
故郷に本当は帰りたくない。ずっとここに居たい。
だってここには自分の望むものがある。
故郷には何も無い。ただ座っているだけのお人形さんにはなりたくない。
「だけど……私が戻らないと大変な事になるってハルアーダが……」
最初はプンプンと頬を膨らませていたミルランスは段々と声がか細く、弱々しくなっていった。
帰りたくない。でも帰らないといけない。
どうすれば良いのか分からず、このまま状況に流されて帰らなくてはいけないのだとミルランスは分かっていた。
ラドウィンはそんなミルランスに優しく微笑んだまま、食べる手を止めて彼女の隣へと座り直す。
そして、彼女の小さな体を抱き締めた。
いきなり抱き締められてミルランスは驚く。
あんまりにも驚いたもので声一つ挙げられずに体はカチンコチンに強張っていた。
そんなミルランスの頭はラドウィンの固い胸に包まれる。
「嫌な事がある時、どうすれば良いか知ってるか?」
ラドウィンはミルランスを優しく抱きしめてそのように聞く。
ミルランスはどうすれば良いのか知らないので小さく頭を左右に振った。
「逃げるんだ。逃げて逃げて逃げて……とにかく嫌な事から逃げる」
「それで……どうするの?」
「そうだな……のんびりできる所でも探して、毎日、本でも読んで暮らすんだ。そうしたら逃げて良かったと思えるんだ」
ミルランスはクスリと笑う。
「それってラドウィン様みたいな暮らしですね」
ラドウィンも笑って「そうだね。僕もそうだった」とミルランスの頭を撫で続けた。
「もう十四年も前かな……まだ五歳だった僕が父上に連れられて帝都からモンタアナに逃げたのは」
「私が産まれた年だ……。ラドウィン様はその時、帝都にいたんですね」
ラドウィンは小さく頷く。
父に連れられてモンタアナへと向かう旅。
その旅はまともなものじゃなかった。
「なにせアロハンド前陛下が僕達を殺そうと追手を放って来たからね」
「お父様が!」
ミルランスは驚いた。
こんなにラドウィンは良い人なのに、そんな人を殺そうだなんて信じられない。
……いや、父の苛烈な性格をミルランスも知っていた。
むしろ信じる事しかできない。
その追手から逃げて逃げて逃げ続けてモンタアナに到着した。
そうしてラドウィンはこの暮らしを手に入れたのだ。
「世の中には逃げてはいけないなんて言う奴は居るけどね、人生一回きりなんだ。幸せを求めて逃げたって良いじゃないか」
そのような事をラドウィンが言うと、なぜかミルランスは不機嫌そうに頬を膨らませて「嘘つき」と見上げるのである。
苦笑して「変な事を言ったかな?」と聞くと、「だってラドウィン様はこの村を守るために一生懸命でしょ? 逃げてないじゃないですか」と言うのだ。
そんな風にミルランスが不貞腐れるのが可愛らしくて、ラドウィンは声を挙げて笑うとその頬をぷにぷにつついた。
このモンタアナはラドウィンにとって宝だ。
だからこの地とこの地に暮らす人々を守るためにどれだけ頑張ろうとも嫌な訳が無かった。
「仕事は嫌だけど、皆が笑顔で居てくれる……それだけで僕は幸せになれるんだ。だからここから逃げる訳が無いんだよ」
ラドウィンの顔にはいつもとは違う笑顔があった。
あの飄々として笑みでは無い、本当に慈愛に満ちた爽やかな笑顔だ。
私と同じ……。
ミルランスはラドウィンの生きる喜びが自分と同じなんだと分かった。
ラドウィン様も同じなんだ。
私と同じで、皆の笑顔が――幸せが、自分の幸せなんだ。
ミルランスはラドウィンに共感すると同時に、彼の笑顔を見ていると自分の顔が凄い勢いで赤くなってきた気がして、ガバと彼の胸に顔をうずめる。
「どうしたの? ミルランスちゃん?」
「なんでもないです!」
ミルランスがピシャリと言い放つので、まるで怒っているかのようでもあったが、心の中では全然怒ってはいなかった。
――ラドウィン様……。やっぱり私はあなたの事が……――
ラドウィンの大きくて硬い胸の中にいるとミルランスは安心した。
あんまりにも安心するものだからそのままゆっくりと眠ってしまう程である。
ミルランスが寝ているのに気付いたラドウィンは彼女の事を起こそうとしたが、すっかり眠っていて起きなかった。
仕方ないのでラドウィンは彼女を抱えて寝室に行くと、ベッドに寝かせるのである。
静かな寝息をたてるミルランスにシーツをかけて、ポンポンと頭を撫でた。
『皇帝陛下』も大変だなぁ。
ラドウィンはそう思う。
彼はミルランスが皇帝だと知っていた。
当たり前であるが、皇帝の名を知らぬ訳が無かったのだ。
でも、ミルランスが皇帝かどうかなんてラドウィンにはどうでもいい事である。
「自分のやりたい道を見つけるまで、ここでゆっくりするが良いよ」
そう呟くと、ラドウィンは窓から外を見た。
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復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
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「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
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地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
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追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
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最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
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