魔王。勇者とともに世界を救う旅に出る!

アイアイ式パイルドライバー

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7話、伝説の3コマ

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 魔王と勇者と、そして武闘家が魔王城にたどり着きました。

 そして、数分後――

「ぼ、ぼ、暴君ハバネ□ー!!!」。クイーン・ウェアウルフの声が響きます。

 唐辛子のモンスターは武闘家の高々と掲げた拳に貫かれています。

 何が起こったのか、この数分間の出来事を見てみましょう。

 魔王たち三人が城の前にたどり着くと、城の扉は自動で開きました。

「ようこそおいでくださいってか」。武闘家はつまらなそうです。

 道中、モンスターの一匹も現れず戦えなかったので武闘家は不満でした。

 魔王城にもモンスターが出なかったら、怒り狂いそうな気持ちで武闘家は城に入ります。

 罠を警戒する勇者と、「こわーい」なんて勇者の腕に嬉しそうな顔でくっつく魔王も後に続きました。

 城のエントランスは広く、吹き抜けで二階が廊下となっています。

 三人がエントランスに足を進めると入り口が閉まりました。

 同時に、吹き抜けの二階から大量のモンスターが「わ!」と声を上げます。

 それは歓声でした。

 まるでコロッセオの観客のように三人の登場を喜ぶのです。

 魔王たちの前にはローブのフードを目深に被った五人が立っていました。

「ここを通りたくば私たちを倒して行きなさい」

 その声がゾンビ・マジシャンロードだと魔王にはすぐに分かります。

 それも、若々しい声で、彼女が十分に力を得ているのだと分かりました。

 魔王は笑顔でゾンビ・マジシャンロードに手を振ります。

「マジシャンロード! 力を取り戻したんだね!」。口には出しませんが、そう言いたげです。

 ゾンビ・マジシャンロードは指を顔の前に持ってきて静かにするよう示しました。

「魔王さま。今はお互い敵同士ですので、お喋りはあとでお茶をしながらしましょう」

 これも口に出しません。
 ゾンビ・マジシャンロードは魔王の扱いをよく知っていました。

 魔王が元気よく頷いたところで、さあ戦いとなります。

「先鋒! 暴君ハバネ□! 行きます!」

 ハバネ□がバッとローブを脱ぎ捨てました。

 グオゴゴゴと雄叫びあげて突撃するハバネ□の胸を武闘家の突きが一閃!

「ギャアーっ!」

 こうして冒頭のシーンに至ります。

 四天王ハバネ□の死を見届けた氷炎魔神がローブを投げ捨てました。

 氷炎魔神は戦闘狂で、強い相手と戦いたかったのです。

 彼は武闘家がそうとうに強いと気付いていても立ってもいられません。

 武闘家も氷炎魔神が強いと気づくと、彼も戦闘狂だったのでニヤリと笑いました。

 二人は同時に跳躍。空中でぶつかります。

 激しい殴打の衝撃で落ちるどころか空中へと浮かんで行くのです。

「良いぞ良いぞ~」。上機嫌で声援を送るのはクイーン・ウェアウルフでした。

 彼女はもう床に腰を下ろしてお酒を飲んでいます。
 物見遊山ですね。戦う意志を感じられません。

 ゾンビ・マジシャンロードが「あなたは戦わないの?」と聞きました。

「だって私、息子たちとの集団戦を見込まれてるだけでタイマン勝負なんてできないぞ。それに、あの人外の戦いには割り込めないなぁ」

 そう言って酒を飲むと、吹き抜けの中空へ目を向けます。

 二人の激しい殴打の嵐はまだ空中に浮かんだままです。

「あなたも人外でしょうが」

 ゾンビ・マジシャンロードはため息をつくと、残った四天王の一人を見ます。

 残った一人とは当然、神母竜です。
 彼女は「何かあったら起こしてください」と看板を置いて地面に寝ています。

 人間であるお姫様の手下になって、見世物みたいに戦うつもりがなかったのです。
 ちなみに一度寝ると、何があっても十年は目覚めませんでした。

 マジシャンロードはますます大きなため息を吐くと勇者と魔王の元へと向かいました。

 ゾンビ・マジシャンロードに気付いた勇者が身構えます。

 ですが、マジシャンロードは戦う気なんてありません。
 最初から、主の魔王に刃を向けるつもりはないのです。

「玉座の間に連れて行くわ。可愛い坊や」

 マジシャンロードは玉座の間に勇者と魔王を案内する気だったのです。

 勇者はマジシャンロードの妖艶な美女の顔に少し顔を赤らめました。

 激しく戦う武闘家と氷炎魔神を無視して三人はエントランスから廊下へと出ていきます。

「俺のことをみんな忘れてない?」。エントランスのすみに投げ捨てられたハバネ□がいました。
 勇者と魔王は彼に気付きましたが玉座の間に向かいたかったので無視しました。

 廊下を歩いている時、魔王は少し不機嫌に勇者に色目を使わないようマジシャンロードに耳打ちするのです。

 マジシャンロードはチラリと勇者を見ると笑いました。

 彼女にとって魔王は娘みたいなものです。
 魔王が勇者にどんな気持ちを抱いているのか分かったのです。

 そして娘の初恋に嬉しくないわけがありません。

「青春ねぇ」

 マジシャンロードの呟きに魔王は慌てました。
 勇者に聞かれて、自分の想いを知られたくなかったからです。

 ですが、その言葉は勇者にも聞こえていました。
 勇者は何が青春なのか分からずに訝しんでいたので魔王の気持ちがバレることはありませんでした。

 勇者はマジシャンロードの親身な態度に心を許しそうになりましたが、頬をピシャと叩いて気合を入れます。

 勇者の目の前には玉座の間へ通ずる扉があるのです。

 ゾンビ・マジシャンロードは「じゃ、頑張ってね。小さな勇者くん」と妖艶に微笑むのでした。

 勇者が顔を赤くしてうつむきます。
 マジシャンロードとしては愉快でたまりません。
 彼女はゾンビになってなお自分の美に自信があったので、勇者の反応は自分が美しいと再認識させてくれるのです。
 嬉しくないわけがありません。

 ですが、魔王が不機嫌そうにムカムカとにらんでいたので、これ以上勇者をからかうつもりもありませんでした。

 踵を返してマジシャンロードは別れようとします。

「待て。なんで敵の君が僕たちを助けるんだ」

 マジシャンロードはにこりと笑い「どうしてでしょう」と立ち去るのでした。

 当然、マジシャンロードが魔王のしもべだからです。
 マジシャンロードがお姫様に肩入れしたのは、負のエネルギーを手に入れて自分の美を取り戻すためと、魔王に少しは自覚を持って欲しいからでした。

 マジシャンロードは思います。
 魔王もこの旅で少しは成長しただろうと。

 だから、マジシャンロードはもうお姫様に肩入れするつもりはなかったのです。

 そんなマジシャンロードの考えなんて勇者には分かりません。
 だから、きっと罠に違いないと思ったのです。

 万全を期して戦おうと思いました。

 深く呼吸をし、剣の柄を触って、この旅のことを思い出し――

「さあ行こう勇者さま」

 魔王が平然と扉を開けてしまったのです。

 勇者は罠か何かがあったらどうしようと慌てたのですが、玉座の間を見ると言葉を失いました。

 玉座にまで続く真っ赤な絨毯。

 絨毯の左右には燭台が等間隔に並び、青い炎を灯していました。

 そして、その奥、大きな大きな玉座に座るのは……

「良く来た勇者よ」

 あのお姫様です。

 お姫様は勇者を見た瞬間、「あ!」と言います。

 勇者は玉座に駆け寄ると「何やってるんだ!」と怒鳴りました。

「あー。えっと~。えへへ」

「愛想笑いで誤魔化すなよ。さてはお前、モンスターが戦争するとかいうのはお前のイタズラだな!」

 勇者はお姫様と仲良さそうに話しています。
 あの礼儀正しい勇者とは思えない年頃の少年の顔です。

 勇者が素の顔を覗かせるお姫様に魔王はちょっと嫉妬しました。

 すると、勇者がお姫様の手を引いて玉座から下ろさせると「まったく……心配かけさせやがって」と、お姫様の小さな体を抱き締めたのです。

 魔王は粉々に砕けました。
 体ではありません。心がです。

 そして、そして、ああ、魔王は二人の関係を察したのです。

 よく考えてみれば勇者がただの一般人なわけがありません。
 つまり、お姫様のいいなずけに違いないのです。

 愛するお姫様のため、勇者は旅をしていたのです。
 そうだ! きっとそうに違いありません!

 魔王は絶望しながらフラフラと歩きました。

 抱き合う勇者とお姫様の横を通ります。

「リラちゃん?」。勇者の声なんて聞こえません。
 聞きたくありませんでした。

 彼女はゆっくりと玉座に座ります。

 そして、ついにフードを彼の前で取りました。

 太い角があらわになります。

 驚く勇者を玉座から見下して、「よく来たな、勇者。余が魔王リラだ」と言うのです。

 勇者は目の前の少女が魔王だと理解しましたが、楽しかった旅の思い出が真実を認めようとしませんでした。

 勇者は頭を振って、笑います。

 きっと悪い冗談だ。そうだろう?

「ううん。本物の魔王よ」

 お姫様の言葉が勇者の最後の希望を否定しました。

 勇者から笑みが消えます。

「本当……なのか」

 魔王はクククと笑いました。

「今までよく騙されていたね」

 魔王は努めて冷酷に、そして冷徹に振舞おうとします。

 女心を弄んだ勇者と、モンスターだけじゃなく愛しい勇者まで奪ったお姫様へ憎悪の炎を燃やそうとしながら。

「でも、お遊びはもうおしまい。勇者、貴様を殺し、その内臓を喰らいつくし……くらい……くらい……」

 魔王は次の言葉が出てこないように何度も同じ言葉をはんすうしました。

 そして、目に涙が溜まり、声もなんだか涙声になってくるのです。

「勇者さまをころすなんてできないよお!」

 魔王はわんわんと泣きだしました。

「だってリラはぁ! リラはぁ! 勇者さまのことが大好きなんだもぉん! だって死んだら痛いんだもぉん!」

 魔王は自分の心には嘘がつけないタイプなのです。
 戦いで傷をうけたら痛いのです。そんなことは誰だって分かりますよね。
 だから、戦いなんてしたくないのです。誰も傷ついて欲しくないのです。
 魔王はやっぱりいい子なのです。

「でもぉ! 勇者ざまはお姫様とげっごん(結婚)するんでじょぉ! そんなの嫌だぁぁ! 嫌だけどだだがい(戦い)だぐないよぉ!」

 鼻水まで垂らして魔王は泣きじゃくります。

 そんな魔王とうってかわって、勇者とお姫様はキョトン顔で互いに顔を見合わせたのです。

 そして、二人して笑い声をあげました。

 魔王は酷く名誉を傷つけられたように感じます。

 ここまで泣いているのに笑うなんて酷い話です。
 ですが、二人が笑ったのはちゃぁんと理由があるのです。

「リラ。こいつは僕の『妹』だよ」

 魔王はピタと泣き止みました。

 まん丸の目を向けたまましばしの停止です。
 魔王の脳が動き始め、勇者の言葉を理解しようと脳細胞がフル回転しました。

「いもう……と?」

 魔王の首ができの悪いからくり人形みたいに、カクンと小首を傾げます。

 お姫様が頷きました。

「魔王ちゃん。勇者が私のお兄さまって知らなかったの?」

 魔王はとんだ勘違いをしていたのです。

 勇者とお姫様はいいなずけなんかじゃありません。
 ただの兄妹だったのです。

 王位継承権を持つ勇者が、王となる資格を持つと人々に示すために、勇者としてこの旅に出たのでした。

 ですから、勇者とお姫様はいいなずけでもなんでもなかったのです。

 そう思って見てみると、二人とも同じ金髪です。
 二話と三話を読み直しても、二人とも金髪だと説明されていましたね。つまり兄妹なのです。

 魔王は玉座から降りました。

 勇者を見ます。

「ほんと? ウソじゃない?」

 勇者が頷きました。

 瞬間、魔王は駆け出しました。

 玉座の間を抜けて、廊下を突っ切ります。

 階段を駆け上がり、自室の扉を開けました。

 窓を勢いよく開けてバルコニーへ出ます。

「やったあああああ!!!」

 地平線にまで魔王の歓喜の声は響きました。
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