魔王。勇者とともに世界を救う旅に出る!

アイアイ式パイルドライバー

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8話、頑張れ魔王。戦え魔王。

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 魔王と勇者の戦いは終わりました。

 いえ、正確にはお姫様と勇者の戦いでしょうか。

 なんにせよ戦争の危険は去りました。

 お姫様と勇者は国に帰ります。
 魔王は初恋の相手と友達が去るというので寂しかったのですが、涙を拭いて笑顔で送りました。

 魔王はこの旅で大人になったのです。
 無理に引き止めたりしません。

 魔王とお姫様は、近いうちに必ず会おうと約束しました。
 魔王はその約束を胸に二人を送り出したのです。

――それから一年経ちました。

 魔王領のモンスターたちは空腹に苦しむことはなくなりました。

 勇者とお姫様が王様に掛け合って、魔王に支援物資を送ってくれるようになったのです。

 それに加えてモンスターを満足させたのが、「モンスターハウス」というものです。

 モンスターハウスは大きなテントで、中にはたくさんの(そして、特に見た目の恐ろしい)モンスターたちがひしめいています。

 人々の悲鳴が途絶えない恐怖のテントです。

 とは言っても襲われることはありません。
 恐ろしいモンスターたちに襲われそうになる恐怖を体験できるのです。

 お姫様が考案し、国王に許可を貰っていまた。

 テントは畳まれて、暴君ハバネ□をリーダーに複数のモンスターによって運ばれています。

 モンスターの恐怖を体験したい人々に人気で、その負のエネルギーは魔物たちの生きる糧になったのです。

 こうしてモンスターたちは安泰の暮らしを得ました。

 ですが、みんながみんな、平和を受け入れたわけではありません。

 武闘家と氷炎魔神は、魔王たちの戦いが終わってもなお戦い続けました。
 三日三晩戦い続けても決着はつきません。

 二人が疲れ果て、同時に倒れると、奇妙な友情が生まれました。

 今では二人で一緒に旅をしているそうです。
 より強くなるために修行をしたり、強い敵を求めているのです。

 二人はなんでも神母竜と戦おうとしているとか。
 神母竜は眠りについて十年は起きないので、彼女の眷属であるドラゴンたちが、神母竜を連れて世界中を逃げ回っているそうです。

 母子といえば、クイーン・ウェアウルフとその息子たちの話もしましょう。

 息子たちはすっかり反抗期で、クイーン・ウェアウルフのもとを飛び出て人の飼い犬兼用心棒になってしまいました。

 栄誉ある人狼が飼い犬になるだなんてクイーン・ウェアウルフは辛抱堪りません。
 ですが、「ようやく人になれました」と息子たちから手紙が来ると、悲しそうに泣きながらも嬉しそうに尻尾を振るのです。

 人狼が人の姿になるのは成人の証だったので、クイーン・ウェアウルフはそれはもう喜ぶのでした。

 次は結婚かな。孫の顔が早くみたいなぁ。と呟いている姿が目撃されています。

 手紙といえば、魔王は、勇者やお姫様と手紙でやり取りしていました。

 勇者たちと別れて一年後のその日、お姫様から「魔王城に行きます。」と短く書かれた手紙が来たのです。

 魔王は久しぶりに友達が来るということで嬉しそうに小躍りしました。

「美味しい豚の丸焼きを作ってね!」と、魔王はオークに命じます。

 ゾンビ・マジシャンロードは「豚に豚の料理をさせるかね」と呆れました。

 オークは豚顔のモンスターです。
 豚顔のモンスターに豚の料理をさせるだなんて酷い命令ですが、オークはこの酷い命令に嬉しそうにするのです。

 オークは違う意味でも豚のようです。

 魔王とオークにゾンビ・マジシャンロードはほとほと呆れかえりましたが魔王は気付きません。

 そのくらい魔王は有頂天だったのです。

 正午、客が来ました。

 魔王自ら城の門を開けると、そこに立っていたのは、なんと勇者だったのです。

 友達だと思ったら初恋の相手だなんてとんだサプライズです。
 魔王はお姫様のサプライズプレゼントに違いないと喜びました。

 そんな魔王の小さな両肩を勇者はガシと掴みます。
 一年経ってより大人びた彼の顔が近くにあるのです。

 魔王はもう耳まで真っ赤になったのが分かりました。

「ま、まって。まだ早いです勇者さまぁ」

 嫌よ嫌よと言いながらまんざらでもありません。

「リラちゃん」

「は、はい。勇者さまがどうしてもと言うなら……」

 魔王が目を閉じました。
 何を期待しているのでしょうか。

 ですが、勇者の口からは「あのお転婆姫を知らないか」と出たのです。

「え? お姫様と一緒に来たんじゃないの?」

 魔王は不思議そうに目を開けます。

 実を言うと、数日前にお姫様はお城から姿を消したのです。
 城の中はてんやわんやの大騒ぎです。

 国王なんて、大事な娘に危険が迫ったらと不安で寝込んだほどでした。

 ですが、勇者には分かります。
 あのイタズラ妹が野に放たれて、無事で済まないのは世界の方だと。

 お姫様がなにかを計画したとしたら、きっと魔王城に関係していると勇者は思ったのです。

「確かにお姫様からここに来るって手紙が来ましたよ」

「そうか。やはりあいつは魔王城に来るのか――」

 勇者がそう言った瞬間でした。

 風が吹きました。
 勇者の髪や服や、そしてマントがなびきます。

 ですが、魔王城がいかにおんぼろとはいえ、そんな風が吹くわけがないのです。

 しかし、実際、勇者はその強い風に体が飛ばされてしまったのです。

 魔王がその風を目で追うと、なんとエントランスの階上にお姫様がいました。

 そして、お姫様の手には見覚えのある杖が握られています。

 真っ赤に透き通る宝石の杖。
 風は吹いているのではありません。宝石が『吸って』いるのです。

 勇者は風に吸い込まれ、宝石へと入ってしまいました。

「やった! ついに邪魔者のお兄さまを閉じ込めたわ!」

 お姫様は笑みを浮かべて杖を見ます。

 杖の宝石には、小人みたいに小さな勇者が『だせー!』と怒鳴っていました。

 魔王はミニ勇者があんまりにも可愛らしいので大興奮しそうになります。
 ですが、グッとこらえて「お姫様! なんで勇者さまを閉じ込めるの!」と責めました。

 お姫様は不敵に笑います。

「一年間、ただ私がイタズラをせずにボーッとしてると思ったのかしら?」

 お姫様は一年間、城の古文書を読み解き、封印魔法を取得したのです。
 そして、最大の理解者ゆえに最大の障害である勇者を閉じ込めるべく、密かに魔王城へ忍び込んで、この杖を手に入れたのでした。

 恐ろしいのは、強者しか手にできない杖を姫が握っている点かも知れません。
 鬼に金棒。虎に翼。お姫様に伝説の杖です。

「ふふふふ! あはははは! これで私を邪魔するものはいない! さあ魔王! 今こそともに世界を我が手にする時よ! 今ならこのミニお兄さまもセットよ!」

 魔王はその誘いに乗りそうです。
 ミニ勇者を枕元に置きたい。毎日眺めていたい。そんな欲望がありました。

 ですが、そんな欲望に従うわけにはいきません。
 だって、魔王は勇者を眺めるよりも結婚して、触れ合って、甘い日々を送りたいからです。

 お姫様の元から囚われの勇者を助け出し、
「素敵だ。魔王。結婚してくれ」
「そんな、勇者さま。私とあなたはともにいられない禁断の恋」
「愛に国境はないのさ」というところまで妄想済みなのでした。

「姫! あなたの好きには絶対にさせない!」

 魔王は不敵に笑うお姫様を指さし、そう宣言したのです。

 果たして魔王はお姫様を倒し、愛と平和を手に入れられるのでしょうか。

 頑張れ魔王。戦え魔王。
 いつか、勇者と結ばれるその日が来ると信じて!


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