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第一章 国民が飢えることなく、まずはそこを目標に!

18 アツシと言う賢王と、己と言う小ささと。

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 ――拠点を作らせてほしい。
 と、言う申し出に頭が一瞬宇宙になったが、聞けば箱庭師のようにその場に家などを建てて、何時でも行き来できる環境を作る……と言うのが拠点らしい。
 思い切りチートじゃないかと思ったが、それ以上にチートなのが色々あるらしく頭を抱えたくなった。


「確かにそれは凄いですね……いえ、本当に凄いの一言です」
「ええ、アツシ様のお陰であちこち行き来が出来るようになり、戦争を起こしたり色々あった島国でしたが一つにまとまり、まさにあの島の賢王なのですよ」
「ははは、同じ賢王でもスケールが違う。是非アツシ様に会ってみたくなりました」
「では、拠点を作る事を」
「受け入れます。そしてアツシ様と言う異世界から来た人たちに会ってみたい。当時の事を色々と話して盛り上がってみたい」
「ほっほっほ! 宜しいでしょう。きっとアツシ様も転生……でしたかな? それでやってきたシュライ様を気に入ると思いますよ」
「そうありたいと思います」


 その後、神々の島から来たと言う事で婚約者のリゼルを紹介したりと色々あったが、宴をする際には「貧相なモノばかりで申し訳ないが、今我が国で出せる最大のおもてなしなのだ」と口にすると目を細めて頷いていたボルド殿。


「アツシ様も仰っていました。ありのまま、最大限のおもてなしを受ければそれ相応にお返しをしなくてはならないと。困っている事など御座いませんか?」
「そうですね。冷蔵の魔道具を作ろうとしているんですが中々作れず……」
「それは我が島では当たり前の物ですねぇ」
「なんと!! 馬車でも冷蔵がついているのですか!?」
「はい、冷蔵冷凍庫完備です。案を出したのはアツシ様ですが、それを形にした魔道具師たちは本当に頑張りましたね」
「是非、その冷凍冷蔵の作り方を教えて頂きたい。それ一つで国が更に豊かに、そして国民が飢えずに済むのです」
「……アツシ様に相談してみましょう」
「――ありがとう御座います!」
「ふふふ……貴方はアツシ様の若い頃によく似ていらっしゃる」


 思わぬ言葉に目を見開くと、ボルドさんは懐かしい人を見る目で俺を見つめていた。
 きっとその眼の先には、アツシ様と言う異世界から来た男性が映っているのだろう。


「アツシ様は猪突猛進な所があって、日々何かしら忙しくしておられましたね。お妃様のカナエ様と走り回って色々と改革をドンドン打ち出しました。あの衝撃は人生でも早々味わえないものでしたねぇ」
「そうなのですね」
「シュライ様は国を良くする為に必死に走り回っている、そんな空気を感じます。先ほど部下に調べさせた所、この国は最初は全く何もない、本当に何もない所からのスタートで、国民は飢えに苦しみ、それを前国王時代は放置していたそうですね」
「ええ、その通りです」
「それを、僅か15歳で国王となってからの快進撃は、正にアツシ様を彷彿とさせました。実に素晴らしい手腕です。出来る事、出来ない事、それに対する着眼点。どれをとっても貴方は誇っていい」
「……ありがとう御座います」
「私は気に入りましたよ? 是非これからもこのシュノベザール王国と懇意にさせて頂きたいですね」
「是非に」


 そう言って酒は無いが水で乾杯し、嬉しい言葉を沢山貰って幸せだった。
 無論、まだまだアツシ様と比べれば足りない所は多々あるだろう。
 たかが【天候を操る程度の能力】では、どうする事も出来ない事だってある。
 それでも、その力があるからこそ生活し、生きていける国があるのもまた事実だ。
 アツシ様の様な力がなくとも、俺は俺のスキルを誇ろう!

 その後、明日には島国に帰るべく移動を始めると言う事だったので、急ぎ日本の文字でアツシ様に手紙を書いた。
 本名は【中村キョウスケ】である事。
 長らく心臓病を患っていたが、自宅治療になった30歳にして階段から両親に突き飛ばされ死亡し、この世界に転生してきた事。
 その事を悲しいとは思わないが、現世でも親には恵まれなかった事。
 ただ、弟には恵まれ幸せである事や、婚約者がいる事で前を向ける日が多くなったことも記載し、是非我がシュノベザール王国に拠点を作り、転移してきたアツシ様と話がしてみたい事や、冷蔵冷凍の技術をダメ元だが教えて貰いたい事も書いた。
 その為にも、島国の周辺の海の気候は安定させておくことも伝え、手紙として蝋で閉じボルド殿に手紙を手渡した。

 これから少しずつでも我が国が栄え、そして国民に新たな雇用が生まれたり発展する事を望んでいるが、今はそこが不透明だ。
 俺の出来る事は大体やったのだが、一体何が他に足りないだろうか……。
 国内が安定し、商売もポツポツとし始める所も出て来たし、他国や自国を回るオアシス商隊も出来た。

 だが、まだ足りない。
 此処で終わりであってほしくない。
 次なる一手が欲しいのだが――。


「中々難しいな」
「でも、先ずは民が飢えない事が目標だったもの。それは満たしていると思うわ」
「それはそうだが、次のステージに行きたいんだ」
「次の?」
「国内は安定した。戦争を仕掛けようとする国も今のところは無い。本当に平和と言う言葉がしっくりくるが、発展しないのは止まっている事と同義だと思ってな」
「ふむ」
「その為にもまずは冷蔵や冷凍の技術が欲しかった。アツシ様次第だが……」
「そうね、拠点が作られた暁には会えるのでしょう?」
「その予定だ」
「それまでに色々考えましょう? 次なる国民の幸せ指数が上がる方法を」
「――そうだな!」


 リゼルにそう言われ微笑み抱きしめると、丁度良く弟のシュリウスが入ってきてお互い固まる。
 いやいや、これくらいのハグは婚約者ならば……。


「えっと、お楽しみ中失礼しますが、少々話をしても?」
「ああ、構わない」
「では私は魔石を作りに行ってまいります」
「うむ」


 そういうとリゼルは魔石作りに行き、俺は久々にシュリウスと会話をする事になったのだが――。
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