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17 春の嵐の間、人形保護施設での過ごし方。

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 ――それからというもの、外の世界も見てみたいというアンクとピリポの為に俺の家とシャーロック町にある家を繋ぎ、人の営みを見る機会を与えつつ、「春の荒は第三次世界大戦後だったな」と呟いた。

 第三次世界大戦は、あちらこちらの国で戦争が勃発し、収集つかなくなってドーンとやらかした結果だという。
 あの時人類は滅ぶのだと思ったらしいが、気候が可笑しくなって大変な目には遭った先祖たちだが、何とか生き延びた者達がこうして命を繋ぎ今があるのだという。


「ですが、この国では人間が増えすぎて一人っ子政策をしてるんですよ」
「他国ではどうなんだ?」
「他国ではしてないですね、この国だけです」
「それだけ人間が過ごしやすい国と言うことだろうな」
「でも、西の大陸ではまだ戦争は起きています。最近だと【アルマティ】や【イルマティ】を付けた人形兵士を作っているとも」
「「アルマティにイルマティだと!?」」


 その言葉に反応したのはコウとエミリオ、そして口に手を当て全員が驚いている。
 古代にもあったものなのだろうか?


「あんな物つけたら、ただの殺戮兵器の出来上がりだぞ!?」
「ええ、そのアルマティやイルマティを付けた人形兵士を西の国では作り、人形を使って戦争をしていると聞いています」
「あっちの大陸は未だにそんな国なのか」
「と言うと、古代でもですか?」
「ああ、領地拡大だの宗教問題だのとカッコつけてな」
「全く未だに学習しないんですか? 呆れますね」
「だが、アルマティやイルマティを作るだけの技術はあるという事だろう?」
「こちらの東側が平和というか、私達で言えば退化した環境と言うんでしょうか。西は発展した世界なんでしょうかね?」
「どちらもそう変わりませんが、軍事国家が多いので機械は発展していると思います」
「なるほど……」
「敢えて言っておくが、俺は西の奴等が来てもこの施設には入れんからな」
「分かりました」


 どうやら西の連中が嫌いらしい。
 もしかしたら政府と言う機関が西にあったのかも知れない。
 そう言えば――。


「あの、西の国に行く途中に神々の住む島と呼ばれる島国があるそうなんですが、何か聞いていますか?」
「ああ、知ってるぜ。今は亡きジャポーン王国だろう? 今は違う名前になってるかもしれんがな」
「ジャポーン王国……」
「海流がかなり変わって人が入りにくくなったという情報はあるな。海からはとてもじゃないが行けないし、霧が濃くて行きつくのも至難の業だとか」
「四季がある島国なんだよな」
「四季と言うと、春夏秋冬ですか?」
「ああ、その4つしかない島だな」
「なるほど……それは興味深い」
「テリサバース教が一度辿り着いてるはずだが、その後辿り着いたとこはないんじゃないか?」
「そう聞いているな」


 勉強になる。彼らは知識の宝庫だ。
 ノートに書き溜めつつ、今日はシャーロック町から牛乳や卵を持ってきてダーリンさんに渡している。
 野菜の種も幾つか購入してきたのでそれも手渡し、半分ちょっとは俺の箱庭で作る。
 妖精さん達は木材を伐って鶏小屋とヤギ用の柵と小屋を作り始めている。
 箱庭は不思議なもので、ゴミ箱やトイレといったものに入れれば魔素となるのだ。
 その魔素の量で野菜などが育つのが早くなるという傾向がある。
 鶏やヤギを飼えば魔素はさらに循環して育つのが早くなるだろう。
 そうすれば、ダーリンさん達も助かる筈だ。


「そう言えば、古代では人間と人形が対等だったという話ですが、暴走した人形というのはやはり」
「暴走したのはアニマとデュオだったんだ」
「ああ、やはりそうでしたか……」
「元々対等でもなかったがな。この施設名を見れば分かるだろう」
「保護施設ですもんね」
「しかし今年の春の嵐は長いな」
「ええ、今年は長引くと聞いています。住民たちはそろそろ慣れて来たのか動き始めているので、鶏やヤギと言った買い物もしようと思えば出来るので今度して来ますね」
「ありがたい。アイテムボックスに入るのか?」
「ええ、母が人形師だったのとアイテムボックス持ちだったので俺もそれを引き継いだようです」
「なるほど、便利だな」
「となると、箱庭は?」
「祖先の誰かが持っていたのだと思います」
「まぁ、二つもスキルがある奴なんて珍しいんだし、誇っていいと思うぞ」
「ええ、国にバレないようにしつつ誇ります」


 こうして翌日、春の嵐の中養鶏所に向かい卵を産む鶏を多めに5羽、オスを1羽購入してアイテムボックスに入れ、その足でヤギ牧場に行き、オスとメスのヤギを購入。
「箱庭で飼うんです」と言えば不思議がられず鶏もヤギも購入出来た。
 それに調味料に関しても多めに購入すると不思議がられたが、「箱庭で使う分を」と言えば納得されて購入する事が出来た。
 無論大きめの物を購入したので、暫くは施設の分も持つだろう。

 こうして箱庭に鶏のメス5羽、オス1羽、ヤギのオスメス番で入る事になり、妖精さん達は物珍しそうに世話をしてくれることになった。
 無論餌も購入して来ているので問題はない。
 後は増やして食べられる量になるのを待つだけだ。


「凄いな、この箱庭魔素で充満してるじゃねーか」
「コウさん」
「今日鶏とヤギが入るって聞いてな。俺動物好きなんだよ。食うけど」
「あはは。そうだ、コウさんはあの木を見たことありませんか?」
「あの木? ああ、珍しいのがあるな。だが見た事はないな……」
「そうですか」
「ただ、伝承で聞いたことのある木には似てるぞ」
「その伝承とは?」
「世界樹の木って奴だ。実が出来たりしないか?」
「出来ますね。マリシアとメテオにはその実を使ってるんですよ」
「なるほど。じゃぁ間違いなくコイツァ世界樹の木だな」
「そんな伝承にある木が生えるなんてあるんですかね?」
「これもレアスキルの一つだと思うぞ。お前の箱庭は箱庭であって箱庭に非ずって奴だ」
「と言うと?」
「恐らく、お前の持つ人形師の力をフルで使うのなら、宝石では人形は動かないって事だろうよ。世界樹の実がないと多分動かせないだけのレアな人形を作ってるって事だ」
「レアな人形……あの、当時は人形の年齢とはどれくらいあったんですか?」
「そんなの壊れるまでだろ? ああ、今は違うんだったな。そもそも20年以上生きるような作り方をしちゃイケナイだったか?」
「ええ」
「マリシアが20年経ったら施設で保護してやるよ」
「お願いします」


 そう会話をしながらコウさんは動き回る鶏やヤギを見て微笑み、妖精さん達にツンツンされようとも嫌がらず「めんこい奴らめ」と妖精さんたちを可愛がってくれた。


「お前がニャムを連れて来てくれてから一気に俺たちの生活は昔のように戻った。アンクはずっとニャムに会えない事を気に病んでいたんだ」
「そうだったんですね……もっと早く連れて来れればよかったんですが」
「施設を監視するのがいるんじゃ仕方ないさ」
「そうですね、俺も春の嵐を利用してコッソリきましたし」
「トーマは春の嵐の中で俺達に良い風を巻き起こしてくれた。礼を言うぜ」
「いえいえ、本当に大変なのはこれからですから」
「そうだな、困ったことがあったら俺達に相談しろよ。古代人形の知恵と守りを見せてやろう」
「はははは! その時はお願いします。後俺は人形のメンテナンスの仕事や翻訳の仕事もしているので、今みたいに度々来ることが出来なくなりすが」
「おう、沢山人形を治療してやんな!」


 コウと話をすると元気になる。
 流石皆の頼れる兄貴だ。


「さて、明日からは俺達の身体を新しくしていく作業に入るが、大丈夫そうか?」
「ええ、女性陣の裸は妻以外のものは見れないのでそちらに任せますが、男性陣なら問題はありません」
「嫁さん一途だなぁ。いや、こっちの奴等も嫁さんには一途だけどさ」
「そうですね」
「まぁ、くじ引きで決めて行くから誰が最初になるかは分からないが、俺とエミリオは最後だろうな。女性陣の身体を新しくしないとだし。魔素が減ったらまた頼むわ」
「はい、お任せください」


 こうして明日からは皆さんの身体を新しくしていく事が決まり、明日は明日で楽しみが出来た春の嵐が半分まで去った頃の出来事。
 そして翌日――。

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