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第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる

33 魔王様、男女戦争に巻き込まれる①

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 小学校六年生にもなると、男女の差とは色々出てくるものだと我は思う。


 背丈だけでなく身体のつくりさえも根本的に違うのだから当たり前なのだが、こうして男女を見比べると精神的成長についても色々変って来るものだ。
 基本的に陣取りゲームも小学校五年生くらいから女子は参加しなくなってくる。
 勝手に色気づくのは構わないのだが、直ぐに色恋沙汰だの「男子が酷い」だのと喚き散らすのだけは耳障りだ。

 そもそも、一部の男子が女子にちょっかいを出しているだけで、男子全員が女子の身体に興味があると言う訳では無い。
 良い例が我や魔法使い、そしてアキラだろう。
 確かにアキラは若干おっぱい好きではあるが、昔ほど表立っておっぱいと連呼する事は無い。
 寧ろ背丈がクラスの男子の中では一番高く身体つきもシッカリしている為、女子とは一線引いて過ごしているのだ。


 だが、その背丈の高さなども影響してか……体育の時間は女子に遠慮する事も多い。
 男女入り乱れての球技など特に顕著けんちょだ。
 だが、それを良いことに女子が時折暴走することがある。
 そして今正に――であった。



 ――始まりは体育の授業だった。
 担任の教師が校長に呼ばれているとかで体育の授業が自習となったのだ。
 何時もは男女一緒の授業だが、自習ならば男女別々で好きな球技をしても罰は当たらないだろうと、男子は体育館でバスケをする事になった。
 しかし……。


「ちょっと男子――? 私達バレーがしたいんだけど――?」


 女子が群れを成して二つあるコートのうち一つを使っていた我らに声を掛けてきた。


「今日は自習だから男女別で楽しんでもいいじゃん」
「は? それって男子の勝手でしょ?」
「私らがバレーしたいっていったらバレーなの!」
「男子の癖に生意気―――!」


 そう言って野次を飛ばす女子に、我はアキラと魔法使いと共に言いあいになる様を見つめていた。
 どうやら男女別々と言う事も気に入らないらしい。
 頭の先からつま先まで一緒じゃないとイヤだとでも言うつもりかと呆れて溜息を吐くと、女子は凄い剣幕で否定する男子に噛み付いている。


「俺達はバスケがしたくて集まったの! 隣のコート空いてるんだから女子はそっちで遊べよ!」
「はぁ!? 勝手に決めないでくれる!?」
「そもそも男子がバレーに加われば問題ないじゃない!」
「私らの言うこと聞けないわけ!?」
「何で俺達が女子の言いなりにならないと駄目なんだよ!」
「女子のほうが勝手だろ!?」


 おぉ、ヒートアップしているようだな。
 我としてはバレーだろうがバスケだろうが特にどっちでもいいのだが、男子は男子で集まり女子は女子で群がって言いあいになってしまったようだ。
 アキラは呆れて間に入ろうとしたが、魔法使いに腕を捕まれ止められていた。


「恵、このままじゃ……」
「ああやって発狂した女子にアレコレ言っても無駄無駄。頭の先からつま先まで自分達の言うことが全て正しいって思ってるクズに何を言っても言葉なんて届かないよ」
「確かにそれはありますね……やれやれ、もう少し冷静さをもって対応して欲しい所です」


 我と魔法使いがウンザリした溜息を吐くと、女子の一部が男子を突き飛ばしたようだ。
 こうなると男子も頭に血が上って女子を突き飛ばしてしまう。
 男女で体格さや力の差があるのだから男子が手を出す事はよろしく無いのだが……出してしまった以上、最早どうすることも出来ないだろう。


「男子酷い!!」
「最初に突き飛ばしたのは女子だろ!?」
「頭にきた!! もう男子と一緒に授業なんて受けられない!!」
「教室戻ろう!」
「おい! まだ授業中だろ!? 勝手なことするなよ!」


 男子の言う事は最もだが女子には届くはずも無く……一部の取り残された女子は残ったものの、ほぼ全ての女子が教室に戻ってしまった。
 こうなるとバツが悪いのは男子だろう。
 少し言いすぎただろうかと悩む者、あんなに怒らなくてもと呆れる者、女子の残った一部は「バレーでもバスケでもどっちでも良くない?」と冷静だった。
 寧ろ、冷静な女子が数人残ったことが男子にはホッとできただろう。
 それでも、女子の態度には頭にきているようで……。


「何でもかんでも命令口調の女子って頭にくるわ~」
「マジそれな」
「言うこと聞かないとキレるしさ――」
「俺達は女子の召使でもなんでもないってーの!」


 文句を口にする男子は多かった。
 確かに六年生になった頃から一部の女子の態度は明らかにだ。
 五年生の頃から片鱗は見えていたが、自分達の考えが全て正しく他の考えは受け付けないと言う態度は酷いものがあった。
 今回男女で喧嘩した際も、件の女子が中心となり問題になったのだから男子としては頭が痛いところだろう。


「しかし困りましたね。もう直ぐ授業が終わるので先生も戻ってくると言うのに」
「女子の勝手な暴走でしょ? 今に始まった事じゃないし先生もとやかく言わないんじゃない?」
「小言はあると思うぜ? ただまぁ、たかが体育の授業でブチキレる女子の相手はオレもしたくないなぁ」


 アキラの言葉に我と魔法使いが頷いていると、担任の大野先生が体育館に現れた。
 ほぼ男子しか残ってない状態に驚きはしたようだが、事情を聞いた大野先生は呆れて頭を抱えた。
 最近の女子の言動には先生も頭を悩ませていたらしい。


「とは言え、男子が手を上げたのは問題だったぞ? その事はちゃんと女子には謝罪しないと駄目だからな?」


 事情を聞いた大野先生は溜息を吐きながら男子を諭し、男子もそれについては問題があったと理解しているようで反省している。
 六時間目の授業は女子に謝罪する時間と、女子と話し合う時間にしようと提案してくれる辺り、優しい担任だと我は思っている。
 丸く収まるのならそれに越したことは無いし、女子も反省すべきところは多くあるだろう。
 そんな事を思いつつ教室に帰ると――驚いたことにクラスの女子は一人もいなかった。


「あれ? 女子は?」
「いないね……」


 困惑する担任と男子を他所に魔法使いは小さく溜息を吐く。
 呆れたような馬鹿にしたような表情だったが、その答えは直ぐに解った。

 ――女子が次の授業に参加しなかったからだ。

 その後もホームルームや掃除の時間になっても女子が現れる事は無く、担任が放送を掛けても女子は戻ってこなかった。


 後に【】と呼ばれるこの事件は、更に混沌としていくことになる……。

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