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第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる

34 魔王様、男女戦争に巻き込まれる②

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 次の日からの学校での授業は異様な光景だった。

 まず、女子が一切授業に参加しないのだ。
 昨日の体育の授業で残った女子だけが授業に参加はしていたが、他の女子は学校にはきているものの姿をくらまし出てくる事は無かった。
 幾度と無く担任が放送して女子に語りかけたが、給食時間にすら現れなかったのだ。
 担任は他の教師にも事情を話し、他の教師達が女子生徒を探したが、見つかると一気に走り去って話しすら聞かないのだという。

 それは、まるで追いかけっこのようだった。

 女子は教師すら馬鹿にし、学校にお菓子を持ってきては食べ散らかす始末。
 その行為は日に日にエスカレートしていき、最初に行われた暴挙ぼうきょは放課後に判明した。


 ――男子に肩入れしたと言う理由からだろう、男子と一緒に授業を受けていた女子の靴が刃物でボロボロにされた。


 ボロボロにされた女子は嘆き、男子は更に怒りを増幅させた。
 この行為にアキラは酷く怒った。
 声を荒げて怒ると言う事をアキラはしない。
 ただ静かに怒りを露にしたのだ。
 魔法使いは泣き崩れている女子に対し、職員室に向かい事情を説明したらしく、靴をボロボロにされた女子の分のスリッパを持ってきた。


「靴がないんじゃ帰るに帰れないでしょ」
「恵くん……」
「先生から許可貰ったから、そのスリッパで帰りなよ」


 魔法使いとて鬼ではない。
 泣いている女子が何もしていないのに攻撃され、人権を侵害されたのであれば優しくする。
 普段から女子に厳しい魔法使いが優しさを見せると、女子は頭を下げてお礼を言い、残っていた男子数名が帰り際にイジメられないようにと一緒に帰ることになった。


 担任の大野は息を切らせながら玄関に駆け込んでくる。
 そして集められた女子の靴を見て大きく溜息を吐き、頭を抱えた。


「何て事を……」
「男子に色目使ったとでも思ってんじゃないの? 綺麗に男子側にいた女子の靴が狙われたしね」
「と言っても、コレは許される問題ではありませんよ。集団いじめのような類でしょう」


 我の言葉にその場にいた男子も言葉が出ない。
 一部は苛立ちを隠せず壁を殴ったが、床に落ちる女子生徒の涙を見つめると溜息が零れた。
 女子が授業を放棄し、逃げ隠れするようになって三日目……担任は女子生徒の家に連絡する事を決めた。


 これで少しは女子生徒も大人しくなるだろうか?
 それ以前にボロボロになった靴の弁償などをどうするのだろうか?
 溜息が零れたが、最後まで帰らず残っていた女子――守山もりやまアカネは自分の靴を見つめ「ふむ」と口にした。
 守山は我とアキラの幼馴染でもあり、陣取りゲームでも率先して遊ぶ貴重な女子だ。


「全く持って幼稚な真似をするものだな!」


 そう言って笑う守山にクラスの男子は目を見開いた。


「だがこんなのはまだまだ序の口だろう! 次はどんなことが起きるか見ものだな!」
「モーリー……こんな事が起きたからこそ何とか対策をとらないと駄目だろう?」


 アキラが守山を注意すると、彼女の後ろからクラスで一番背の低い男子の田中ミノリが不安そうに顔を出した。


「そ、そうだよアカネちゃん。次にどんな事をされるかと思うと怖くって……」
「そう怯える事はあるまい! ミノリは怖がりだなぁ!」
「でも……その靴は昨日買って貰ったばかりじゃない……アカネちゃん喜んでたのに」


 そう言って瞳に涙を貯めるミノリに、守山は豪快に笑った。


「確かに一部の女子の靴が攻撃された事は残念だが、人間してきた事しか自分に返っては来ないのだ。良い事をすれば良いことが返ってくる、だが悪い事をすれば悪いことが帰ってくるのだと爺様がいっておった! それに、不幸は寂しがり屋だからな! 不幸だと思っていれば不幸が寄ってくるぞ!」
「アカネちゃん……」
「だから笑え! 笑う門には福来る!」


 歯を見せて二カッと笑う守山に、ミノリはようやく笑う事が出た。
 その後、後の事は担任に任せる事になり帰宅する事になったのだが、アキラは終始不機嫌だった。
 我としても今回の嫌がらせは度が過ぎていると感じているが、この異世界では浅慮な輩が多い気がしてならない。

 ――長谷川然り、今回の女子の行動然り。

 後の事を考える頭があれば、この様な真似をすればどうなるかは解るだろうに。


「アキラ」
「ん?」
「イライラしても何の解決にもなりません。心の切り替えをして対策を考えたほうが気持ちも楽ですよ」


 我の言葉にアキラは大きく溜息を吐き「そう簡単に切り替えられねぇよ」とぼやいた。
 正義感の強いアキラの事だ。
 ぶつけたい思いを消化できないでいるのだろう。


 しかし、アキラの心を更に踏み躙るように事態が悪化していく事を、この時の我達は予想すらしていなかった。
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