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悪役令嬢は愛妻なんです!

第21話 わたくし、まだまだ悪役令嬢は現役で行きますわね

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 女性が働く風潮を良しとしない王都では、夫からの暴力に耐える女性が多く存在しました。
 かといって、逃げ出したとしても連れ戻されたり、仕事が無くて夜の商売をするしかないのが現状でもあります。
 今回、避難民としてやってきている女性にアンケートをとった結果、3分の2以上が夫からの暴力を受けていることが判明しました。
 中には鼻の骨が折れている女性、歯が欠けている女性も多く、心のケアーを優先的に彼女たちの意思を持って保護へと踏み切りました。

 元々領では、夫からの暴力、親からの暴力を受けた子供達を避難させる施設が作られており、そこで日常生活を取り戻す、また、職の斡旋に心のケアーを主に行っています。

 この助けとなるべき事が王都の議会で通らなかったのは、今でも苦い思い出です。
 ――助けが遅くなってしまった。
 ――助けることが出来ない女性や子供も多かった。
 悔やんでも悔やみきれません。


 男尊女卑。


 多くの男性が女性を支配したいと言う考えには、私も少なからず男なので同意します。
 確かに男の本能としてそう言うものはあるでしょう。
 ですが、それが前面にでて暴力に走ってはならないのです。
 相手はか弱い女性、確かに世の中には女性のほうが強い家庭もありますが、そればかりが表に出る事も無く、我が領では、男女が共に家族を支えると言うのが大事だと教育されています。

 その教育がされていない王都の女性にとって、また、王都の子供にとって、我が領のあり方は驚きの連続のようです。
 そして、夫から逃げたい一心で教会へ逃げ込む家族も少なからずいました。
 そういった方々は、顔や体に酷い痣を作っている女性と子供が殆どでした。

 後に、妻を返せ、子供を返せという問題は浮上しますが、まずは命の安全を優先しなくてはなりません。
 法整備を更に強固なものにしなくてはなりませんね……。



 そんな事を思いつつ三日が過ぎた頃、やっとリコネルが動けるようになりました。
 今までの無理が祟ったのでしょう、本当に申し訳ないと只管謝られましたが、私としては愛する妻にはもっとゆっくりと時間を取ってもらいたいものです。


「お手伝いできる事はなんでもやりますわ!」
「それはあり難い申し出ですが、まずはリコネル商会のモデルケースを世に広めるためにもそちらの方に尽力していただければ助かります。園については追々2人で話をつめて行きましょう」
「そうですわね……雇用形態の改善には力を入れたいですもの……プリザーフラワーのためにも花屋の店も決めなくてはなりませんわね」
「こちらが花屋にむいている空き店舗の資料です。必要だろうと思って用意しておきました。大体本屋の近くでと思い、場所を絞っていますが宜しいですか?」
「まぁ! なんて仕事が早いのかしら! 無論ですわ! 中をチェックして宜しくて?」


 そう言うとリコネルは物件をはさめたファイルを手にし、私の執務室にあるリコネルの執務机にて作業を始めました。


「水周り、店舗としての配線は完璧ですわね」
「いい物件がありましたか」
「ええ、花を飾るキーパーも手配しなくてはなりませんわ。職人にお願いできますかしら」
「出来ると思いますよ」
「では、ランディに頼んで今後必要になるモノを用意致しましょう。花用冷蔵庫も必要になってきますし、でもそうなると花屋で働く女性達の子供達は……」
「園が出来るまでは近くの本屋のキッズスペースで預かっていただけたら宜しいのではないのですか?」
「そうですわね……もしくは、店舗2階にキッズスペースを用意いたしますわ」


 そう言って着実に店舗としてどこをどう使うか考えていくリコネルに頷きつつ、私も山のように送られてきている王都からの書類にやっと目を通しました。
 我が領での仕事が一段楽したらと思っていた為、今にも崩れ落ちそうなほどの王都からの書類が届いていますが、まだ民からの懇願書や嘆願書が届いていると言う書類は入っていません。
 王が無視しているのか、必要ないと思って処理をしなかったのかはわかりませんが、兎に角私に全ての仕事を投げてつけてきたので、どうしてくれようかと思っています。


「ふむ……どうしましょうかねぇ」
「どうなさいましたの?」
「いえ、国王から全ての仕事を全部送られてきておりまして、どれもこれも王のすべき仕事な為、私では手がつけられないのです」
「送り返せば宜しいのではなくて? 国王の仕事は国王がすべきことですわ。国王があまちゃんだからこそ王太子がアホになったんではなくて?」
「言えてますね。一筆書いて全てお返ししましょう」


 ――このままでは、母なるクリスタルの逆鱗に触れますよ。


 その一言で何を示しているのかわからなければその程度の国王であると言う事。
 そして国王の仕事は国王の仕事である、甘えは許されないと言う文面も書いて全ての書類を魔法の水の中に投げ入れました。
【国民の税の上で甘い汁を啜る国王などいなくなってしまえばいい】
 そう思うのは、私だけでは無いでしょう。
 ただでさえ国賓達から失笑されている国王の存在で、王都と言えど、国として成り立っているのは兄であった私のおかげである事は、国賓や他国でも知れ渡っている事実。


 その私が国王代理としての仕事をやらなくなったことは、どれだけの国が知っていることでしょうか?
 他国からの行商人、冒険者、吟遊詩人……彼らの目から見れば王都の今の有様を見て察しはするでしょう。
 そんな王都に、花屋への対応が終われば国王陛下に結婚式へ参列して頂きの感謝を伝えにいかねばならない事は頭の痛い問題ではありますが、全ての爵位を持つものは男爵であろうと伯爵であろうと同じなのです。


「近々、王都へ赴き結婚の挨拶をしなくてはならない事をはリコネルはご存知でしょうか?」


 恐る恐る聞いてみると「存じておりますわ」 と口に為さいました。
 王都の私の屋敷にて、一週間過ごさねばならないのですが、リコネルは特に気にした様子も無く、ただ 「アホ王子を見るのも声を聞くのも耳障りで目障りですけど」 とだけ口にしました。


「そのアホ王子と会わねばならない事は私にとっても不愉快な事です。結婚したばかりだと言うのに離婚しろと……あの方の頭はニワトリ以下ですか?」
「ニワトリは肉にも卵を産んだりもしますもの、ニワトリ以下ですわ」
「そうでしたね」
「ちなみに、私は断罪されて学園を退学になってますけれど、学園でのアホ王子のあだ名をご存知?」


 あだ名までは調べてなかったなと思い「いいえ?」と問い掛けると、リコネルはクスクス笑い続けて言葉を口にします。


「道化、ピエロって言われてましたのよ」
「ピエロですか」
「ええ、良いように動かされて良いように利用されるだけのアホってことですわね。ですからピエロ、道化ですわ」
「な、なるほど」
「婚約時代は本当に苦痛でたまりませんでしたわ……全く、わたくしは5歳の時からジュリアス様一筋だと言うのに」
「おやまぁ!」


 思わぬ言葉に頬を赤くすると、リコネルは少しだけ意地悪な表情で、でも魅力的な表情を浮かべ私を見つめました。


「わたくし、愛する夫のためでしたらどんな道化にもなれましてよ?」
「いえいえ、あなたに道化は必要ありません」
「では何が必要でして?」


 その言葉に私は――。


「ありのままの貴女で」
「まだまだ悪役は卒業できませんことね」


 そう言って笑いあった執務室の事。
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