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悪役令嬢な王妃は、全てを受け止めるのです!

第56話 最期の時まで悪あがきを――

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 屋敷の対策室にて入ってくる情報の整理をしていた時でした。
 護衛騎士の一人が部屋に入ってくるなり、犯人であるチャーリーとアルジェナを捕らえたと言う報告が来たのです。


「直ぐに向かいます」
「わたくしも行きますわ」
「ですが、身重の貴女に無理はさせられません」
「いいえ、わたくしも行きますわ」


 頑なに譲らないリコネルに私も折れ、無理をしないと言う約束を交わしてクリスタル輝く玄関へと向かいました。
 そこには床に顔面を抑えられながらも叫び声を上げるチャーリーと、両腕が爛れた状態で罪人の焼き印が押されたアルジェナの姿があり、リコネルも私も唇をきつく結ぶと、ゆっくりと二人のもとへと歩み寄りました。


「無様ですわね」


 リコネルの言葉に二人がこちらにやっと気づきました。


「リコネル……本物か!?」
「偽物でもいましたの?」
「いたとも!! 私を騙した……私を裏切ったクリスタルが!!」
『簡単に騙される方が悪いと言うものじゃ、ジュリアスならば我とリコネルの違いなど即見分けて語りかけるぞ? お主のリコネルへの愛情など、ジュリアスの足元にも及ばぬわ』
「―――っ!!」


 クリスタルはそう告げるとチャーリーの頭を足で踏みつけました。
 ですが、その姿はリコネルそのままで……一部の護衛騎士が「ゴクリ」と喉を鳴らしたのが聞こえ、咳払いをしました。


「それで、各所への放火は貴方たちの仕業ですか? 理由は何です」
「ハッ! 誰が化け物に話すか!」
「ではアルジェナ、あなたならご存じですね?」
「いだぃぃぃいいいい!! うでがぁぁぁあああ!!」
「話すのであれば、その腕を治す薬を出すことも考えましょう」


 涙を流し、鼻水と涎まみれのアルジェナにそう告げると、アルジェナは這い寄りながら私の許へと来ると額を床にこすりつけた状態で話し始めました。

 ――全てはチャーリーの所為だと。
 ――自分は止めようとしたけれど、チャーリーを止めることが出来なかったと。


「あだじは……チャーリーにだまされてだだけで……っ」
「嘘をつくなアルジェナ!! 貴様も率先して放火を楽しんでいたじゃないか!」
「うぞじゃないんですぅぅぅぅぅ!!」


 号泣しながら語るアルジェナに、クリスタルが溜息を吐くとツカツカと彼女に近寄り、髪をつかみ上げて後ろへと投げ捨てました。


「クリスタル!!」
『嘘をつくでない、我の目が騙されるとでも思ったか? 極刑は免れぬのじゃ、薬を出す必要もない』
「では、アルジェナの言葉は嘘だと言う事ですね」
「最初から最後まで嘘でご自分を包んで、そうやって死んでいくのですわね」
「リゴネルだすけてぇ……」


 蹲って泣き続けるアルジェナは、最早話が聞ける状態ではありませんでした。
 反対にチャーリーは……。


「私の王国だ! 私の勝手にして何が悪い! ジュリアスが全てを奪ったんだ! 私の! 全てを! クリスタルも何もかも!!」
「貴方の王国ではありません。そして、まるで貴方が必要としない施設を選んで放火したような口ぶりですね」
「だとしたら何だと言うのだ!」
「………」
「何とか言ってみろ!!」


 そう叫んだチャーリーに、私は静かに歩み寄ると、彼は興奮しすぎてなのか鼻血を出しながら私を睨みつけていました。


「……非常に残念ですよ、あなたのような人間がいることにね」
「なん……だと?」
「貴方は人として最低限の慈しみも、思いやりも、気遣いすらも出来ない人間なのですね。それは、王家の者としてという枠組み等と言う物の前に、人間として欠如しております。誰も貴方に教えなかったのですか? 慈しむことも、憐れむ事も……人を、愛すると言う事も」


 私の言葉にチャーリーは呆然とし、玄関にはアルジェナのうめき声とすすり泣く声だけが木霊しています。


「自分だけを愛し、他人を傷つけることしか知らない貴方が、あなたを育てた弟の責任ですね……」
「違う!! 父上は何時も訳の分からない事ばかりを」
「弟はね、貴方の御父上は……貴方に、人間になって欲しかったのですよ」
「……どういうことだ?」


 意味が解らないと言った様子のチャーリーに、私は一通の手紙を手渡しました。
 そこには、どうすればチャーリーが人として生きることが出来るだろうかと言う親の悩みが書かれてあったのです。


「弟は結婚も子供もいない私に、貴方の相談をしていたのです。人の痛みが分からない、常に自分を優先し、誰かが苦しんでいるとそれを見て笑い、慈しむ、憐れむ事をしないのだと、悩んでいたのです」
「……そんなことはない!! 父上が私を憐れむ必要などないのだ! 私は完璧な人間だ!」
「いいえ、欠陥品です」


 私の静かな言葉に鼻息荒くしていたチャーリーは周囲を見渡し、自分の今置かれている状況に冷静になりかけているようでした。


「人の痛みが分からない等……人の不幸を喜ぶなど、人としては欠陥品です」
「……」
「そんな人物が次期国王になれるはずがないでしょう。貴方ならばそういう国王のもとで安心して生活ができますか?」
「……違う」
「何が違うのです?」
「私は完璧だ! 母上は何時も私を完璧な人間だと褒めていた! 私を父とは違い完璧な人間だと!!」
「けれど、その母親も、不貞を働いていたわけですけどね。同じ女性として軽蔑致しますわ」
「―――っ!」


 リコネルの言葉にチャーリーは唇を噛みしめ、血が出ても気にもせず、目は血走り震え始めました。


「そもそも、貴方はわたくしを愛してなどないでしょう? 幼少の頃からそうですわ」
「違う!! 違うんだリコネル……あれは照れ隠しで」
「あら、照れ隠しで婚約者のいるわたくしの前で別の女性と手を繋いでいたり、多種多様の女性のお友達を作ってはわたくし無しでお茶会をしてましたの?」
「それは……」
「貴方も元王妃様の血を濃く受け継いでおられるようですわね。不貞を働くなんて病気ですわ。気持ちの悪い。ただでさえ気持ち悪いのに……今になって愛してるなんてどの口が言えるのかしら? 人としても欠陥品、王族の品位もない、まぁ王族ではないんですけど」


 リコネルの棘のある言葉がチャーリーの何かに触れたのでしょう。
 大きな声で叫び声を上げると暴れ始め、護衛騎士が数人がかりで押さえつけました。


「もうあなた方が生きていける場所はどこにもありませんわ。罪を償うにしても罪状が重すぎますもの。あなた方二人とも、死刑ですわよ。ただ火炙りの刑になるか、斬首刑になるのかは分かりませんけど」
「法の下では……火炙りでしょうね」
「致し方ありませんわ」
「違う! だってちゃんと私に教えなかった大人が悪いじゃないか! 私は被害者だ! 私は……私は――死にたくない! 死にたくないんだ!!」
「あら、沢山人を殺しておいてご自分は死にたくないなんて、都合がよすぎでしてよ? 同じように苦しんだ民以上の苦しみの中地獄に堕ちなさいませ」
「いやだぁぁあああああ!!」
「だすげてぇぇぇえ!!!!」


 彼らは叫び声を上げながら、外に用意された十字架の前に連れていかれました。
 犯人が捕まったらと用意していた、最も罪を犯した罪人にのみ使われる十字架に、彼らは両手足を釘で打ち込まれ、屋敷中に彼らの悲鳴が木霊します。


「明日の朝、刑を執行します。それまで今受けている痛みを、貴方が犯した罪を感じなさい」
「あぁああぁぁああああああ!!」
「絶対に許すものがぁあ!! 恨んでやる!! この国に災いをぉぉおおおお!!」
『災い等おきぬよ、我が守るのじゃからのう。ジュリアス、火は我がつけてやろう。中々死ねぬように火を操ってな。それくらいがこの阿呆どもには丁度良い』
「お願いします」






 こうして、翌日。
 城下町の広場の中心にて、火炙りの刑が執行されました。
 民は二人に怒り、火炙りになる前は石や棒を投げつけられていましたが、最早アルジェナは言葉もなく、死んでいるようにも見えました。
 そしてチャーリーは、最後の最後まで「この国に災いを!」と叫んでいましたが、大きな石が頭に当たり、その声は小さくなっていきました。


 そして――クリスタルから放たれた炎は二人を包み、身を焼かれ、焦がし、それでもなお死ぬことが出来ない苦しみを二日味わった後、原型を留めない程に燃え上がったのち、灰になって地面に落ちていきました。
 これでようやく……この王国に平和が戻った瞬間でもありました。



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