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1.レイヴンとアウル
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「アウル!執務は終わったか?今日も素敵なプレゼントを持ってきてやったぞ!」
「……レイヴン、窓から入るなといつも言っているだろう」
「だったら窓の鍵を閉めておけばいいではないか」
「む……」
「ははっ、何だかんだ言ってアウルはオレに甘いな!」
豊かな資源を持ち、他国との貿易も盛んなアルバトロス王国。賑やかな城下町の奥に居を構えるのは、荘厳な風格を漂わせる白亜の城である。
その一室、アルバトロス王国の第三王子であるアウルの執務室から、王子の声ではない高らかな笑い声が響いてきていた。
その声を聞いて、廊下を歩いていた新米騎士はぎょっとして足を止めた。いつも多くを語らず鉄仮面王子とも呼ばれているアウルが、部屋の外にまで聞こえる程の音量で笑っているなんて、と思ったからだ。勿論、すぐに別人の声だと気づいたが。
驚きながらも隣にいる先輩騎士を見上げれば、面倒くさそうに眉をひそめているものの、何も衝撃を受けていないようだった。
「あの、ホークさん。今の声……、アウル殿下の部屋から聞こえてきましたよね?」
「あぁ?あー……、お前は入ってきたばっかで知らねぇんだっけ。あの馬鹿みてぇな笑い声はレイヴンって奴のもんだよ」
「レイヴン……さん?」
聞き慣れない名に首を傾げる後輩に、近衛騎士団の副団長でもあるホークはがしがしと頭を掻いて端的に状況を説明していく。
「レイヴンは、ここらじゃ珍しい魔法使いだ。昔、アウル殿下が奇病にかかった時に、どこからともなく現れて魔法でさっと治したんだよ。それから事あるごとに王子の邪魔しに来てんの。ったく……、迷惑極まりねぇわ」
「え、病気を治した……って、良い人じゃないですか」
「良い人だぁ?毎日のようにギャーギャー騒いで殿下の仕事を邪魔しやがる野郎のどこが良いってんだよ」
チッ、と舌打ちをするホークの表情がいつも以上に凶悪になっているのを見て、賢明な新米はそっと口を噤んだ。どうやらこの先輩騎士にとって、笑い声の主である魔法使いの話題は禁句のようだ。
一つ暗黙の了解を覚えた彼は、レイヴンという魔法使いのことが気になりつつも、自らの持ち場へと足を速めていった。
そんな会話がなされていることなど露も知らない魔法使い……レイヴンは、持ってきたプレゼントを広い机の上へと丁寧に並べていた。そして、一枚一枚を指差しながら、喜色満面の表情で説明していく。
「彼女は北のスパロウ国の王女でな、見た目も美しいが心根も優しく、巷では慈愛の姫と呼ばれているそうだ。こっちは西のピーコック国の王女で、王女という身でありながら政務にも携わっているらしいぞ。それからこの方は──……」
机の上に並べられるのは、幾数もの着飾った女性の写真。有り体に言ってしまえばお見合い写真である。レイヴンはその写真に写る美しい姫や王女、貴族の娘を示しながらぺらぺらと流水のように賛辞を連ねていく。
確かに、どの女性も美しく、レイヴンが言うように内面も素敵な女性達なのだろう。
──……けれども。
「……レイヴン」
「む、どうした?好みの女性が見つかったか?」
「俺は見合いなど望まない。後にも先にも、妻にしたいと思うのは一人だけだ」
「…………それは、何度も聞いたよ、アウル。だが、その人の名前も顔も分からんのだろう?……君ももう19歳。とっくに成人しているのだぞ。昔の恋を引きずっていないで、未来の幸せを掴んだらどうだ?」
「すまない、レイヴン。それは無理だ」
「……相変わらず即答だな。少しは考える素振りぐらいしてもいいというのに」
はぁ、と短い溜息を吐いて、レイヴンは広げていた煌びやかな写真を一枚ずつ重ねていく。トントンと揃えた写真に視線を落としたまま、ぽつりと呟きを零す。
「オレは君に……、幸せになってほしいんだ」
その言葉に嘘はない。だが、半分は本当のことだったが、残り半分は自分のためであった。
レイヴンは、アウルの幸せを切望すると同時に──、自らの恋の終焉をも望んでいるのである。
「……レイヴン、窓から入るなといつも言っているだろう」
「だったら窓の鍵を閉めておけばいいではないか」
「む……」
「ははっ、何だかんだ言ってアウルはオレに甘いな!」
豊かな資源を持ち、他国との貿易も盛んなアルバトロス王国。賑やかな城下町の奥に居を構えるのは、荘厳な風格を漂わせる白亜の城である。
その一室、アルバトロス王国の第三王子であるアウルの執務室から、王子の声ではない高らかな笑い声が響いてきていた。
その声を聞いて、廊下を歩いていた新米騎士はぎょっとして足を止めた。いつも多くを語らず鉄仮面王子とも呼ばれているアウルが、部屋の外にまで聞こえる程の音量で笑っているなんて、と思ったからだ。勿論、すぐに別人の声だと気づいたが。
驚きながらも隣にいる先輩騎士を見上げれば、面倒くさそうに眉をひそめているものの、何も衝撃を受けていないようだった。
「あの、ホークさん。今の声……、アウル殿下の部屋から聞こえてきましたよね?」
「あぁ?あー……、お前は入ってきたばっかで知らねぇんだっけ。あの馬鹿みてぇな笑い声はレイヴンって奴のもんだよ」
「レイヴン……さん?」
聞き慣れない名に首を傾げる後輩に、近衛騎士団の副団長でもあるホークはがしがしと頭を掻いて端的に状況を説明していく。
「レイヴンは、ここらじゃ珍しい魔法使いだ。昔、アウル殿下が奇病にかかった時に、どこからともなく現れて魔法でさっと治したんだよ。それから事あるごとに王子の邪魔しに来てんの。ったく……、迷惑極まりねぇわ」
「え、病気を治した……って、良い人じゃないですか」
「良い人だぁ?毎日のようにギャーギャー騒いで殿下の仕事を邪魔しやがる野郎のどこが良いってんだよ」
チッ、と舌打ちをするホークの表情がいつも以上に凶悪になっているのを見て、賢明な新米はそっと口を噤んだ。どうやらこの先輩騎士にとって、笑い声の主である魔法使いの話題は禁句のようだ。
一つ暗黙の了解を覚えた彼は、レイヴンという魔法使いのことが気になりつつも、自らの持ち場へと足を速めていった。
そんな会話がなされていることなど露も知らない魔法使い……レイヴンは、持ってきたプレゼントを広い机の上へと丁寧に並べていた。そして、一枚一枚を指差しながら、喜色満面の表情で説明していく。
「彼女は北のスパロウ国の王女でな、見た目も美しいが心根も優しく、巷では慈愛の姫と呼ばれているそうだ。こっちは西のピーコック国の王女で、王女という身でありながら政務にも携わっているらしいぞ。それからこの方は──……」
机の上に並べられるのは、幾数もの着飾った女性の写真。有り体に言ってしまえばお見合い写真である。レイヴンはその写真に写る美しい姫や王女、貴族の娘を示しながらぺらぺらと流水のように賛辞を連ねていく。
確かに、どの女性も美しく、レイヴンが言うように内面も素敵な女性達なのだろう。
──……けれども。
「……レイヴン」
「む、どうした?好みの女性が見つかったか?」
「俺は見合いなど望まない。後にも先にも、妻にしたいと思うのは一人だけだ」
「…………それは、何度も聞いたよ、アウル。だが、その人の名前も顔も分からんのだろう?……君ももう19歳。とっくに成人しているのだぞ。昔の恋を引きずっていないで、未来の幸せを掴んだらどうだ?」
「すまない、レイヴン。それは無理だ」
「……相変わらず即答だな。少しは考える素振りぐらいしてもいいというのに」
はぁ、と短い溜息を吐いて、レイヴンは広げていた煌びやかな写真を一枚ずつ重ねていく。トントンと揃えた写真に視線を落としたまま、ぽつりと呟きを零す。
「オレは君に……、幸せになってほしいんだ」
その言葉に嘘はない。だが、半分は本当のことだったが、残り半分は自分のためであった。
レイヴンは、アウルの幸せを切望すると同時に──、自らの恋の終焉をも望んでいるのである。
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