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2「ボードゲームのお約束だヨ」
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五十嵐が作り上げたバーチャル世界は、RPGゲームのようなファンタジー風の世界である。
剣を持って敵と戦うもよし、のんびりとフィールドを散策するもよし、とにかく本人の意思で自由にルートを選ぶことが出来るのだ。拠点となる町には、助言を与えるNPCを多数配置しているため、初めての人でもそこまで迷うことはない。これといった最終目的も存在しないので、五十嵐は百瀬と共にまず町の散策から始めようとしていた。
──……の、だが。
目を開けた五十嵐の視界に飛び込んできたのは、スタート地点に指定していた宿屋ではなく、淫靡なピンクの照明が妖しく光る謎のステージだった。
早速バグかよと舌打ちしながら隣にいる百瀬を見ると、「見たこともない場所だ……!すごいな五十嵐、大成功ではないか!」と純粋な笑顔ではしゃいでいた。
まさか失敗しているとも言えないまま言葉を濁していると、ステージ上からフードを目深に被った男がひらりと降りてきた。こんなNPCを作った覚えはないぞ、と訝しむ五十嵐と不思議そうにまばたきをする百瀬の前で、男は気取った動きで優雅に一礼した。
「幻惑と耽美の世界へようこそォ。今ちょっとしたゲームをやってんだけどォ、参加するよねェ?」
「ほう、ゲームか。なかなか凝っているものを作っているではないか五十嵐!……というかこのNPC、お前に声がそっくりだな。びっくりしたぞ」
「……百瀬。一旦ここ出るから」
「む?何故だ?オープニング的なものではないのか?」
「モモセ、と、イガラシ。名前認証完了ォ。それじゃ案内するからついてきてネ」
「は!?何を勝手に……!」
ぱちん、とフード男が指を鳴らすと、辺りの光景が一変した。場を照らすピンク色は変わらないが、ステージが消え、巨大な盤が出現したのだ。出現、というより百瀬達が移動したといった方が正しいだろうか。
盤には空白のマスがいくつも並び、中央にGOALと書かれた赤いマスがあるのが見て取れた。足元を見下ろすと、STARTの文字が青く光っている。ヴォン、という音と共に、目の前にダイスが表示されたウィンドウが現れる。ここまで来れば、もうこれが何なのか嫌でも分かってしまう。
「なるほど、双六か」
嬉々として答えを発した百瀬とは違い、五十嵐は神妙な顔で辺りを観察する。カジノは作ったが、こんな造りのゲームルームはプログラミングした覚えがない。やはりどこかで大きなバグが発生しているようだ。プレイヤーを強制的にゲーム参加させる点といい、不確定要素が多すぎる。
わくわくと顔を輝かせる百瀬には悪いが、この場はログアウトした方が堅実だろう。
「百瀬、悪いけど手違いで変な所に出ちまったみたいだ」
「……む?そうなのか?」
「だからひとまず帰るぞ」
「オレはこのまま双六をしても……」
「百瀬」
「…………分かった。そこまで言うなら一旦帰るとしよう。えぇと……、ログアウト、だったか?」
帰還の言葉を口にした百瀬だったが、その姿はいくら待っても消えずに存在し続ける。さっ、と青ざめた五十嵐が自らもログアウトと唱えるが、結果は変わらず。
何か見えない力によって妨害されているような、そんな感触があった。
「あれ、言ってなかったっケ?ゲームをクリアするまで帰れないよォ?」
くすくす、と笑いを零しながら口を挟んできたのは、ふわふわと宙に浮いているフード男だ。
実際にログアウト出来ない以上、奴の言っていることは本当なのだろう。臍を噛む五十嵐を心配そうに見やり、百瀬は努めて明るく話しかけた。
「大丈夫だ、五十嵐。手違いだったかもしれないが、ゴールすれば帰れるのだろう?ならば楽しもうではないか」
「……百瀬…………」
「話はついたァ?じゃあかるゥくルール説明しておくネ。といっても普通の双六と殆ど一緒だけどォ。ダイスを振って出た目の数だけ進んで、そのマスの指令に従うだけだからァ。今は空白だケド、止まった時に文字が浮き出る仕組みだヨ。タッグ式の双六盤だから、イガラシくんとモモセちゃんには二人一緒に行動してもらうねェ」
「……その指令ってやつ、出来なかったらどうなるんだよ」
「エ、それはもちろん決まってるデショ」
ふわふわ浮遊していた男がすうっと降りてきて、二人の前でぱさりとそのフードを取った。
露わになったその顔に、五十嵐も百瀬も思わず息を呑んだ。纏っている雰囲気や所作、口調や髪型に違いはあれど。
その男は、五十嵐に瓜二つだったのだから。
驚く二人に構うことなく、ドッペルゲンガーのような彼は薄い唇で弧を描き、楽しげに息を吐いた。
「遂行出来なきゃ、待つのは死。ボードゲームのお約束だヨ」
「し……?死って……死ぬってこと、か?あまりボードゲーム自体することがなくなったが、最近はそれが当たり前なのか……?」
「違ぇよ!納得すんな百瀬!!つか、そんなお約束聞いたことねぇよ!」
「ふふっ、だーいじょぉぶだよォ。二人で協力すれば簡単にクリア出来る指令ばっかだしィ。…………それじゃあそろそろ、ゲームスタートしよっかァ」
男は再びぷかりと宙に浮くと、その狐のような相貌をゆるりと愉しげに崩した。
「改めましてェ。俺は盤を司るゲームマスター。名前はないからマスターって呼んでヨ。今ここにイガラシくんとモモセちゃんのドキドキエロエロラブハプニング双六の開催を宣言しまァす」
死という重い単語を発した後とは思えない、その頭の悪そうなカタカナの羅列に、百瀬と五十嵐の思考はぽかんと呆けた。
ドキドキ?エロエロ?ハプニング?
訳が分からず首を傾げる二人がその意味を知るのは、実際にダイスを振った後の話になる。
五十嵐が作り上げたバーチャル世界は、RPGゲームのようなファンタジー風の世界である。
剣を持って敵と戦うもよし、のんびりとフィールドを散策するもよし、とにかく本人の意思で自由にルートを選ぶことが出来るのだ。拠点となる町には、助言を与えるNPCを多数配置しているため、初めての人でもそこまで迷うことはない。これといった最終目的も存在しないので、五十嵐は百瀬と共にまず町の散策から始めようとしていた。
──……の、だが。
目を開けた五十嵐の視界に飛び込んできたのは、スタート地点に指定していた宿屋ではなく、淫靡なピンクの照明が妖しく光る謎のステージだった。
早速バグかよと舌打ちしながら隣にいる百瀬を見ると、「見たこともない場所だ……!すごいな五十嵐、大成功ではないか!」と純粋な笑顔ではしゃいでいた。
まさか失敗しているとも言えないまま言葉を濁していると、ステージ上からフードを目深に被った男がひらりと降りてきた。こんなNPCを作った覚えはないぞ、と訝しむ五十嵐と不思議そうにまばたきをする百瀬の前で、男は気取った動きで優雅に一礼した。
「幻惑と耽美の世界へようこそォ。今ちょっとしたゲームをやってんだけどォ、参加するよねェ?」
「ほう、ゲームか。なかなか凝っているものを作っているではないか五十嵐!……というかこのNPC、お前に声がそっくりだな。びっくりしたぞ」
「……百瀬。一旦ここ出るから」
「む?何故だ?オープニング的なものではないのか?」
「モモセ、と、イガラシ。名前認証完了ォ。それじゃ案内するからついてきてネ」
「は!?何を勝手に……!」
ぱちん、とフード男が指を鳴らすと、辺りの光景が一変した。場を照らすピンク色は変わらないが、ステージが消え、巨大な盤が出現したのだ。出現、というより百瀬達が移動したといった方が正しいだろうか。
盤には空白のマスがいくつも並び、中央にGOALと書かれた赤いマスがあるのが見て取れた。足元を見下ろすと、STARTの文字が青く光っている。ヴォン、という音と共に、目の前にダイスが表示されたウィンドウが現れる。ここまで来れば、もうこれが何なのか嫌でも分かってしまう。
「なるほど、双六か」
嬉々として答えを発した百瀬とは違い、五十嵐は神妙な顔で辺りを観察する。カジノは作ったが、こんな造りのゲームルームはプログラミングした覚えがない。やはりどこかで大きなバグが発生しているようだ。プレイヤーを強制的にゲーム参加させる点といい、不確定要素が多すぎる。
わくわくと顔を輝かせる百瀬には悪いが、この場はログアウトした方が堅実だろう。
「百瀬、悪いけど手違いで変な所に出ちまったみたいだ」
「……む?そうなのか?」
「だからひとまず帰るぞ」
「オレはこのまま双六をしても……」
「百瀬」
「…………分かった。そこまで言うなら一旦帰るとしよう。えぇと……、ログアウト、だったか?」
帰還の言葉を口にした百瀬だったが、その姿はいくら待っても消えずに存在し続ける。さっ、と青ざめた五十嵐が自らもログアウトと唱えるが、結果は変わらず。
何か見えない力によって妨害されているような、そんな感触があった。
「あれ、言ってなかったっケ?ゲームをクリアするまで帰れないよォ?」
くすくす、と笑いを零しながら口を挟んできたのは、ふわふわと宙に浮いているフード男だ。
実際にログアウト出来ない以上、奴の言っていることは本当なのだろう。臍を噛む五十嵐を心配そうに見やり、百瀬は努めて明るく話しかけた。
「大丈夫だ、五十嵐。手違いだったかもしれないが、ゴールすれば帰れるのだろう?ならば楽しもうではないか」
「……百瀬…………」
「話はついたァ?じゃあかるゥくルール説明しておくネ。といっても普通の双六と殆ど一緒だけどォ。ダイスを振って出た目の数だけ進んで、そのマスの指令に従うだけだからァ。今は空白だケド、止まった時に文字が浮き出る仕組みだヨ。タッグ式の双六盤だから、イガラシくんとモモセちゃんには二人一緒に行動してもらうねェ」
「……その指令ってやつ、出来なかったらどうなるんだよ」
「エ、それはもちろん決まってるデショ」
ふわふわ浮遊していた男がすうっと降りてきて、二人の前でぱさりとそのフードを取った。
露わになったその顔に、五十嵐も百瀬も思わず息を呑んだ。纏っている雰囲気や所作、口調や髪型に違いはあれど。
その男は、五十嵐に瓜二つだったのだから。
驚く二人に構うことなく、ドッペルゲンガーのような彼は薄い唇で弧を描き、楽しげに息を吐いた。
「遂行出来なきゃ、待つのは死。ボードゲームのお約束だヨ」
「し……?死って……死ぬってこと、か?あまりボードゲーム自体することがなくなったが、最近はそれが当たり前なのか……?」
「違ぇよ!納得すんな百瀬!!つか、そんなお約束聞いたことねぇよ!」
「ふふっ、だーいじょぉぶだよォ。二人で協力すれば簡単にクリア出来る指令ばっかだしィ。…………それじゃあそろそろ、ゲームスタートしよっかァ」
男は再びぷかりと宙に浮くと、その狐のような相貌をゆるりと愉しげに崩した。
「改めましてェ。俺は盤を司るゲームマスター。名前はないからマスターって呼んでヨ。今ここにイガラシくんとモモセちゃんのドキドキエロエロラブハプニング双六の開催を宣言しまァす」
死という重い単語を発した後とは思えない、その頭の悪そうなカタカナの羅列に、百瀬と五十嵐の思考はぽかんと呆けた。
ドキドキ?エロエロ?ハプニング?
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