56 / 75
第三部:異界館編
8:藤袴テイスティ③
しおりを挟む
*****
「フジ、昼食を持ってきたぞ」
「……ガレットさん。べ、別に頼んでません……。食事なら勝手にとりますしいらないです……」
「んなこと言って、ほっとくと全然食べないだろ。ほら、今日のもとびきり美味く作れたから食ってみろって」
「うぅ……」
「……?どうした?いつもならもっと強く抵抗してくんのに」
「ぴッ!?かっ、かかか顔を寄せないでください!!」
「ああ、悪い。獣臭かったか」
「べっ、別にそういうわけじゃ……。…………た、食べます、から」
「そうか。じゃあ、食い終わるまで待たせてもらうな」
「あっ、ちょ……!」
椅子にどっかりと座ってしまった彼に恨めしげな視線を向ける藤袴だが、当の獣人はどこ吹く風である。
黒河と緑から見られているとも知らず、溜息を吐いた彼は渋々と用意された昼食に向き直る。
材料はよく分からないものの、温かそうなスープにサラダ、パスタのような麺料理。きっと美味しいのだと思うし、実際猫柳達はよく料理のことを褒めている。
それでも、藤袴は美味しいと思えないのだ。
「(ん……。あったかくは、感じるけど……)」
スープはただのぬるま湯、サラダは紙のような食感、パスタはゴムを噛んでいるかのよう。
ある年齢を境に、彼は味を感じることが出来なくなった。
栄養を摂るために食べはするものの、美味しくないと分かっていて食欲など湧くはずがない。この世界に来てから数回お試しで魔族の元へ行ってみたが、どこの食事も同じだった。一度でいいから美味しい物を食べてみたいという願いは、どんどん萎んでいく。異界なら美味しく感じるかもという希望はほぼなくなってしまっていた。
そんな時に藤袴の専属料理人として名乗りをあげたのが、虎獣人のガレットだ。大型獣人とは思えない程の繊細な料理を作る彼は、前々から藤袴のことが気になっていた。健康的な意味でも、ほのかな恋愛的な意味でも。彼が美味しく食べる姿を見たいというのが、ガレットの願いである。
けれども今のところは全戦全敗。いくら素材を変えようと、いくら想いをこめようと、藤袴の舌は美味しさを感じない。
「(はあぁ……。残すのは申し訳ないから頑張るけど、もっと僕の演技が上手だったらガレットさんに迷惑かけないのに……)」
「……なぁ、フジ。これはただのオレの勝手な予測なんだけどよ。もしかして味覚に障害があるのか?」
「っ……!ど、どうして……」
「いやぁ、流石に毎日見てたらな。けど、それなら魔法で治る可能性があるぞ。オレの知り合いに治癒が得意な魔族がいるから連れて……」
「む、無理です……っ!」
「は?」
「……無理、なんです。こっ、これは、普通の味覚障害じゃなくて……、僕の、『フォーク』の性質なんです……っ」
「フォーク……?」
「っあ、な、ななな何でもないです忘れてください!!っげほ、ごほっ」
「おい、大丈夫か!」
味のない料理を一気に口に入れたせいで咳き込んでしまう。そんな彼に慌てて近寄り、もふもふの手で背中を撫でるガレット。その優しさにうっかりときめきながらも、藤袴は自分の失言を悔いる。この世界に存在しないものを伝えたところで、どうにかなるわけではないのに。
「あーほら、口の周りについてるぞ」
ナプキンを器用に摘んだ彼が、優しく丁寧に口元を拭いてくれる。
「(うぅ、優しい……。……さっきの、赤い糸の話。今でも信じられないけど……、ガレットさんと繋がってたらいいのに……。……っお、おお思うだけはタダってことで……!)」
内心では荒ぶりながらも大人しく拭ってもらっていると、不意に肉球がぷにりと唇に当たった。薄く開いていたため、舌がちょんっと触れてしまう。たったそれだけの些細な触れ合い。それなのに。
ぶわっっっっっ
「~~~ッッ!!?」
痺れるような甘さが、脳天を貫いた。味を感じなくなる前より遥かに甘く感じるその味に、頭がくらくらする。
「ぉい、し……」
「よし、綺麗になっ……、フジ?どうした?」
「……うそ、そんなこと、でも、これって……」
きょとんとするガレットの手を取り、避けられないのをいいことに肉球にぷにっと口付けする。そのままぺろりと舌を這わせれば、甘美な味が一気に咥内を満たした。
「なっ……!?何してるんだフジ!」
「……おいしい…………♡」
「は……?」
「すごく、甘くて美味しい……♡もっと食べたい♡……ん♡んうっ♡」
藤袴に美味いと言わせる、というガレットの願いは図らずも叶った訳ではあるものの、うっとりした表情で肉球をペロペロと舐め回し始めた藤袴に、あらぬ所が熱くなりつつあった。
*****
「フジ、昼食を持ってきたぞ」
「……ガレットさん。べ、別に頼んでません……。食事なら勝手にとりますしいらないです……」
「んなこと言って、ほっとくと全然食べないだろ。ほら、今日のもとびきり美味く作れたから食ってみろって」
「うぅ……」
「……?どうした?いつもならもっと強く抵抗してくんのに」
「ぴッ!?かっ、かかか顔を寄せないでください!!」
「ああ、悪い。獣臭かったか」
「べっ、別にそういうわけじゃ……。…………た、食べます、から」
「そうか。じゃあ、食い終わるまで待たせてもらうな」
「あっ、ちょ……!」
椅子にどっかりと座ってしまった彼に恨めしげな視線を向ける藤袴だが、当の獣人はどこ吹く風である。
黒河と緑から見られているとも知らず、溜息を吐いた彼は渋々と用意された昼食に向き直る。
材料はよく分からないものの、温かそうなスープにサラダ、パスタのような麺料理。きっと美味しいのだと思うし、実際猫柳達はよく料理のことを褒めている。
それでも、藤袴は美味しいと思えないのだ。
「(ん……。あったかくは、感じるけど……)」
スープはただのぬるま湯、サラダは紙のような食感、パスタはゴムを噛んでいるかのよう。
ある年齢を境に、彼は味を感じることが出来なくなった。
栄養を摂るために食べはするものの、美味しくないと分かっていて食欲など湧くはずがない。この世界に来てから数回お試しで魔族の元へ行ってみたが、どこの食事も同じだった。一度でいいから美味しい物を食べてみたいという願いは、どんどん萎んでいく。異界なら美味しく感じるかもという希望はほぼなくなってしまっていた。
そんな時に藤袴の専属料理人として名乗りをあげたのが、虎獣人のガレットだ。大型獣人とは思えない程の繊細な料理を作る彼は、前々から藤袴のことが気になっていた。健康的な意味でも、ほのかな恋愛的な意味でも。彼が美味しく食べる姿を見たいというのが、ガレットの願いである。
けれども今のところは全戦全敗。いくら素材を変えようと、いくら想いをこめようと、藤袴の舌は美味しさを感じない。
「(はあぁ……。残すのは申し訳ないから頑張るけど、もっと僕の演技が上手だったらガレットさんに迷惑かけないのに……)」
「……なぁ、フジ。これはただのオレの勝手な予測なんだけどよ。もしかして味覚に障害があるのか?」
「っ……!ど、どうして……」
「いやぁ、流石に毎日見てたらな。けど、それなら魔法で治る可能性があるぞ。オレの知り合いに治癒が得意な魔族がいるから連れて……」
「む、無理です……っ!」
「は?」
「……無理、なんです。こっ、これは、普通の味覚障害じゃなくて……、僕の、『フォーク』の性質なんです……っ」
「フォーク……?」
「っあ、な、ななな何でもないです忘れてください!!っげほ、ごほっ」
「おい、大丈夫か!」
味のない料理を一気に口に入れたせいで咳き込んでしまう。そんな彼に慌てて近寄り、もふもふの手で背中を撫でるガレット。その優しさにうっかりときめきながらも、藤袴は自分の失言を悔いる。この世界に存在しないものを伝えたところで、どうにかなるわけではないのに。
「あーほら、口の周りについてるぞ」
ナプキンを器用に摘んだ彼が、優しく丁寧に口元を拭いてくれる。
「(うぅ、優しい……。……さっきの、赤い糸の話。今でも信じられないけど……、ガレットさんと繋がってたらいいのに……。……っお、おお思うだけはタダってことで……!)」
内心では荒ぶりながらも大人しく拭ってもらっていると、不意に肉球がぷにりと唇に当たった。薄く開いていたため、舌がちょんっと触れてしまう。たったそれだけの些細な触れ合い。それなのに。
ぶわっっっっっ
「~~~ッッ!!?」
痺れるような甘さが、脳天を貫いた。味を感じなくなる前より遥かに甘く感じるその味に、頭がくらくらする。
「ぉい、し……」
「よし、綺麗になっ……、フジ?どうした?」
「……うそ、そんなこと、でも、これって……」
きょとんとするガレットの手を取り、避けられないのをいいことに肉球にぷにっと口付けする。そのままぺろりと舌を這わせれば、甘美な味が一気に咥内を満たした。
「なっ……!?何してるんだフジ!」
「……おいしい…………♡」
「は……?」
「すごく、甘くて美味しい……♡もっと食べたい♡……ん♡んうっ♡」
藤袴に美味いと言わせる、というガレットの願いは図らずも叶った訳ではあるものの、うっとりした表情で肉球をペロペロと舐め回し始めた藤袴に、あらぬ所が熱くなりつつあった。
*****
70
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる