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第三部:異界館編
8:藤袴テイスティ③
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*****
「フジ、昼食を持ってきたぞ」
「……ガレットさん。べ、別に頼んでません……。食事なら勝手にとりますしいらないです……」
「んなこと言って、ほっとくと全然食べないだろ。ほら、今日のもとびきり美味く作れたから食ってみろって」
「うぅ……」
「……?どうした?いつもならもっと強く抵抗してくんのに」
「ぴッ!?かっ、かかか顔を寄せないでください!!」
「ああ、悪い。獣臭かったか」
「べっ、別にそういうわけじゃ……。…………た、食べます、から」
「そうか。じゃあ、食い終わるまで待たせてもらうな」
「あっ、ちょ……!」
椅子にどっかりと座ってしまった彼に恨めしげな視線を向ける藤袴だが、当の獣人はどこ吹く風である。
黒河と緑から見られているとも知らず、溜息を吐いた彼は渋々と用意された昼食に向き直る。
材料はよく分からないものの、温かそうなスープにサラダ、パスタのような麺料理。きっと美味しいのだと思うし、実際猫柳達はよく料理のことを褒めている。
それでも、藤袴は美味しいと思えないのだ。
「(ん……。あったかくは、感じるけど……)」
スープはただのぬるま湯、サラダは紙のような食感、パスタはゴムを噛んでいるかのよう。
ある年齢を境に、彼は味を感じることが出来なくなった。
栄養を摂るために食べはするものの、美味しくないと分かっていて食欲など湧くはずがない。この世界に来てから数回お試しで魔族の元へ行ってみたが、どこの食事も同じだった。一度でいいから美味しい物を食べてみたいという願いは、どんどん萎んでいく。異界なら美味しく感じるかもという希望はほぼなくなってしまっていた。
そんな時に藤袴の専属料理人として名乗りをあげたのが、虎獣人のガレットだ。大型獣人とは思えない程の繊細な料理を作る彼は、前々から藤袴のことが気になっていた。健康的な意味でも、ほのかな恋愛的な意味でも。彼が美味しく食べる姿を見たいというのが、ガレットの願いである。
けれども今のところは全戦全敗。いくら素材を変えようと、いくら想いをこめようと、藤袴の舌は美味しさを感じない。
「(はあぁ……。残すのは申し訳ないから頑張るけど、もっと僕の演技が上手だったらガレットさんに迷惑かけないのに……)」
「……なぁ、フジ。これはただのオレの勝手な予測なんだけどよ。もしかして味覚に障害があるのか?」
「っ……!ど、どうして……」
「いやぁ、流石に毎日見てたらな。けど、それなら魔法で治る可能性があるぞ。オレの知り合いに治癒が得意な魔族がいるから連れて……」
「む、無理です……っ!」
「は?」
「……無理、なんです。こっ、これは、普通の味覚障害じゃなくて……、僕の、『フォーク』の性質なんです……っ」
「フォーク……?」
「っあ、な、ななな何でもないです忘れてください!!っげほ、ごほっ」
「おい、大丈夫か!」
味のない料理を一気に口に入れたせいで咳き込んでしまう。そんな彼に慌てて近寄り、もふもふの手で背中を撫でるガレット。その優しさにうっかりときめきながらも、藤袴は自分の失言を悔いる。この世界に存在しないものを伝えたところで、どうにかなるわけではないのに。
「あーほら、口の周りについてるぞ」
ナプキンを器用に摘んだ彼が、優しく丁寧に口元を拭いてくれる。
「(うぅ、優しい……。……さっきの、赤い糸の話。今でも信じられないけど……、ガレットさんと繋がってたらいいのに……。……っお、おお思うだけはタダってことで……!)」
内心では荒ぶりながらも大人しく拭ってもらっていると、不意に肉球がぷにりと唇に当たった。薄く開いていたため、舌がちょんっと触れてしまう。たったそれだけの些細な触れ合い。それなのに。
ぶわっっっっっ
「~~~ッッ!!?」
痺れるような甘さが、脳天を貫いた。味を感じなくなる前より遥かに甘く感じるその味に、頭がくらくらする。
「ぉい、し……」
「よし、綺麗になっ……、フジ?どうした?」
「……うそ、そんなこと、でも、これって……」
きょとんとするガレットの手を取り、避けられないのをいいことに肉球にぷにっと口付けする。そのままぺろりと舌を這わせれば、甘美な味が一気に咥内を満たした。
「なっ……!?何してるんだフジ!」
「……おいしい…………♡」
「は……?」
「すごく、甘くて美味しい……♡もっと食べたい♡……ん♡んうっ♡」
藤袴に美味いと言わせる、というガレットの願いは図らずも叶った訳ではあるものの、うっとりした表情で肉球をペロペロと舐め回し始めた藤袴に、あらぬ所が熱くなりつつあった。
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「フジ、昼食を持ってきたぞ」
「……ガレットさん。べ、別に頼んでません……。食事なら勝手にとりますしいらないです……」
「んなこと言って、ほっとくと全然食べないだろ。ほら、今日のもとびきり美味く作れたから食ってみろって」
「うぅ……」
「……?どうした?いつもならもっと強く抵抗してくんのに」
「ぴッ!?かっ、かかか顔を寄せないでください!!」
「ああ、悪い。獣臭かったか」
「べっ、別にそういうわけじゃ……。…………た、食べます、から」
「そうか。じゃあ、食い終わるまで待たせてもらうな」
「あっ、ちょ……!」
椅子にどっかりと座ってしまった彼に恨めしげな視線を向ける藤袴だが、当の獣人はどこ吹く風である。
黒河と緑から見られているとも知らず、溜息を吐いた彼は渋々と用意された昼食に向き直る。
材料はよく分からないものの、温かそうなスープにサラダ、パスタのような麺料理。きっと美味しいのだと思うし、実際猫柳達はよく料理のことを褒めている。
それでも、藤袴は美味しいと思えないのだ。
「(ん……。あったかくは、感じるけど……)」
スープはただのぬるま湯、サラダは紙のような食感、パスタはゴムを噛んでいるかのよう。
ある年齢を境に、彼は味を感じることが出来なくなった。
栄養を摂るために食べはするものの、美味しくないと分かっていて食欲など湧くはずがない。この世界に来てから数回お試しで魔族の元へ行ってみたが、どこの食事も同じだった。一度でいいから美味しい物を食べてみたいという願いは、どんどん萎んでいく。異界なら美味しく感じるかもという希望はほぼなくなってしまっていた。
そんな時に藤袴の専属料理人として名乗りをあげたのが、虎獣人のガレットだ。大型獣人とは思えない程の繊細な料理を作る彼は、前々から藤袴のことが気になっていた。健康的な意味でも、ほのかな恋愛的な意味でも。彼が美味しく食べる姿を見たいというのが、ガレットの願いである。
けれども今のところは全戦全敗。いくら素材を変えようと、いくら想いをこめようと、藤袴の舌は美味しさを感じない。
「(はあぁ……。残すのは申し訳ないから頑張るけど、もっと僕の演技が上手だったらガレットさんに迷惑かけないのに……)」
「……なぁ、フジ。これはただのオレの勝手な予測なんだけどよ。もしかして味覚に障害があるのか?」
「っ……!ど、どうして……」
「いやぁ、流石に毎日見てたらな。けど、それなら魔法で治る可能性があるぞ。オレの知り合いに治癒が得意な魔族がいるから連れて……」
「む、無理です……っ!」
「は?」
「……無理、なんです。こっ、これは、普通の味覚障害じゃなくて……、僕の、『フォーク』の性質なんです……っ」
「フォーク……?」
「っあ、な、ななな何でもないです忘れてください!!っげほ、ごほっ」
「おい、大丈夫か!」
味のない料理を一気に口に入れたせいで咳き込んでしまう。そんな彼に慌てて近寄り、もふもふの手で背中を撫でるガレット。その優しさにうっかりときめきながらも、藤袴は自分の失言を悔いる。この世界に存在しないものを伝えたところで、どうにかなるわけではないのに。
「あーほら、口の周りについてるぞ」
ナプキンを器用に摘んだ彼が、優しく丁寧に口元を拭いてくれる。
「(うぅ、優しい……。……さっきの、赤い糸の話。今でも信じられないけど……、ガレットさんと繋がってたらいいのに……。……っお、おお思うだけはタダってことで……!)」
内心では荒ぶりながらも大人しく拭ってもらっていると、不意に肉球がぷにりと唇に当たった。薄く開いていたため、舌がちょんっと触れてしまう。たったそれだけの些細な触れ合い。それなのに。
ぶわっっっっっ
「~~~ッッ!!?」
痺れるような甘さが、脳天を貫いた。味を感じなくなる前より遥かに甘く感じるその味に、頭がくらくらする。
「ぉい、し……」
「よし、綺麗になっ……、フジ?どうした?」
「……うそ、そんなこと、でも、これって……」
きょとんとするガレットの手を取り、避けられないのをいいことに肉球にぷにっと口付けする。そのままぺろりと舌を這わせれば、甘美な味が一気に咥内を満たした。
「なっ……!?何してるんだフジ!」
「……おいしい…………♡」
「は……?」
「すごく、甘くて美味しい……♡もっと食べたい♡……ん♡んうっ♡」
藤袴に美味いと言わせる、というガレットの願いは図らずも叶った訳ではあるものの、うっとりした表情で肉球をペロペロと舐め回し始めた藤袴に、あらぬ所が熱くなりつつあった。
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