まんぞくできない多々良君〜たのしい羞恥物語〜

桜羽根ねね

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①僕と彼氏とご主人様

1.ものたりない!(小スカ)

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 すらりと背が高く、明るい金髪にいくつものピアス。見た目こそ軽薄でチャラっとしている狩屋との性行為は、僕が想像していたものとまるで違っていた。

 僕の身体を逐一心配して、甘く優しい言葉を吐くし、無理に事を進めようとしない。時間をたっぷりかけた前戯のおかげで、挿入の際に酷い痛みを感じることもない。ゴムは必須で中出しもゼロ。ピロートークをしながら、お互い抱きしめあって眠ることが多い。

 優しく丁寧で紳士的なセックスは、普通の感覚の持ち主なら喜ぶべきものなんだろう。自分がどれだけ大切にされて、愛されているのか肌で感じることが出来るのだから。
 ……普通の感覚の持ち主であったなら、そうだったんだろう。こんなに愛されていて更に何を望むのだと思われてしまうだろうけど、僕は狩屋との行為に不満を抱いている。

 優しくされるのは好きだ。
 気遣われて愛でられるのも好きだ。

 けれど僕はそれ以上に、……辱められることが、好きなんだ。


*****


「じゃあ、行ってくる~……。昨日も言ったけど帰りは遅くなるから、ちゃんと鍵かけててよ?」
「うん。確かサークルの飲み会だったよな。飲むのもいいけど程々にしておけよ」
「わかってるってば」
「ん、ならばよし。楽しんでこいよ」

 ちゅ、と触れるだけのキスを交わした後、狩屋は怠そうな足取りで出かけていった。ここ最近はレポートに追われていたからなぁ……。
 やっと休めると思った矢先の飲み会はなかなか辛いものがあると思う。人付き合いというのも大変だ。

 今の時点でだいぶ暗くなっているから、帰ってくるのは夜中になりそうだ。それまで起きて待っているのもいいけど……、ただ待つだけなのも時間が勿体ない。
 自然と乾いた喉をアイスティーで潤して、ぽつりと呟く。

「…………今日こそ、やってみるか……?」

 今は僕以外誰もいないと分かっているのにキョロキョロと辺りを確認して、素早く奥の部屋にこもった。
 自分のベッドの上に膝を立てて座り、ドキドキしながらスマホを操作する。ブックマークしていたサイトを開くと、ここ最近何度も繋いだせいですっかり見慣れてしまった文字が目に飛び込んできた。

『変態なあなたに与える調教指令』

 ……こんなサイトを僕が見ていると知ったら、狩屋はどんな反応をするんだろうか。

 びっくりする?戸惑う?軽蔑する?塵芥を見るような冷たい目で蔑まれるのもそれはそれで興奮するけど、変態と罵られながら責められるのもたまらない。

 ああもう、想像しただけで感じてしまいそうだ。……少し落ち着こう、僕。

 サイトの内容は名前通りのもので、自らを調教して辱めるための指令がカテゴリー別にずらりと並んでいる。
 指令を行ったら必ず報告をするというシステムだけど、その行為自体に強制力があるわけじゃない。やったとしても報告が恥ずかしくて出来ない人もいるだろうし。
 ……まあ、僕は顔も知らない第三者に自分の痴態を伝えるのは、すごく……興奮すると、思うけど。

 とはいえ、僕はこのサイトを眺めてはいるものの一度も指令に挑戦してみたことはない。
 軽いものからSMめいたものまで色々あるにはあるけど、それよりも……心惹かれるものがあるのだ。

 ずっとスクロールしていくと現れる、ピンク色の文字のリンク。こくりと唾を飲み込んでそれを開くと、これまた何度も見てきた文章が表示された。

『メールで直接調教されたいMな方はこちらのフォームからご連絡ください。年齢、性別は問いません。あなたに合った調教を施していきます』

 これまで、いつも文章を眺めてはここで躊躇してきた。
 これを選んでしまったら、僕はきっと本当の変態になってしまう。恋人がMっ気のある変態だと知ったら、優しい狩屋でもドン引き確実だろう。

 だから、最後の理性でとどまっていたけれど……、もう、限界だ。

 レポートやら何やらで最近ご無沙汰というのもあって、僕の思考はもう完全に桃色に染まっていた。
 煩く鳴る心臓をぎゅうっと押さえながら、震える指で文字を入力していく。

『はじめまして。大学3年のTといいます。男です。優しい恋人がいるのですが、優しすぎて物足りなくてメールさせていただきました。とにかく辱められるのが好きなので、羞恥系の調教を中心にお願いしたいと思っています。痛いのも好きですが、痛すぎるのは苦手です。こういったメールを送るのが初めてなため、不手際等あるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします』

 時間をかけてゆっくり打った文章を何度も見直す。これを送ってしまったら、僕の中の何かが終わってしまう。けれど、それすら高揚感に変わってしまう気がして、末期だなと自嘲する。
 ……恋人がこんな奴でごめんな、狩屋。

「い、いくぞ……!」

 深呼吸を一回。
 ぐっと覚悟を決めた後、僕はしっかりと送信ボタンに指を置いた。

 ……これでもう、後戻りは出来ない。
 一応、アドレスの欄にはフリーアドレスを記入したけど、だからといって内容自体が変わるわけじゃない。
 どんな返信が来るのか、期待と緊張で昂ぶる身体は本当に正直だ。

「ん……っ、すぐには……来ないだろうし、ちょっとだけ……」

 スマホを横に置いて、寝間着代わりのスウェットを下ろす。ボクサーパンツの中心は既に膨らんでいて、灰色の生地を色濃く染めていた。
 碌に自慰をしていなかったから、軽く扱いただけでイってしまいそうだ。

 ゆっくり下着を下ろしていくと、半勃ちのちんこがひくりと顔を出す。左手の指でそれの先端をぐにぐに触って離すと、いやらしい液が糸になってつうっと繋がってきた。わざと水音を立てて亀頭ばかり責めると、それだけで快楽に従順な僕のちんこはむくりと大きくなっていく。

 指を輪っかにして芯を擦ると、あっという間に勃起してしまった。このまま一気に強く扱いてイってしまいたい……、そう思った刹那。

 ピリリッ

「っ!?」

 傍らに置いていたスマホが、メールの受信を告げた。
 まさかと思いながら濡れていない右手でスマホを取って、メールを確認すると。

『調教志願、確かに承りました。私はサイトを運営している管理人です。余程のことがない限り、私のことはご主人様と呼びなさい。早速ですがいくつか質問をさせていただきます。①あなたはその恋人と同棲していますか。②人に見られるかもしれないというスリルは好きですか。③今のあなたの状態を詳しく説明しなさい。以上、3つとなります。最後の③に関しては、これからあなたに行っていただく報告の練習だと思ってください。それでは、立派な変態奴隷になれるようこれから頑張っていきましょう』

 ……やばい。
 いや、これは普通にやばいだろう!?
 ①と②の質問はともかく、③は……っ!!

「……この状態を、説明しろと……?」

 調教ではない、普通の質問のはずなのに、今の僕にとっては羞恥プレイでしかない。
 部屋のベッドの上でちんこを勃起させています、と書かないといけないのか……?

 そんなの、そんなの……、恥ずかしすぎて、

「(ぞくぞくしちゃうじゃんか……!)」

 萎えるどころかピンとそそり立っているそれから、だらだらとカウパーが溢れてくる。こんな状況にすら興奮してしまうなんて、本当に僕は末期だ。
 イく寸前ということもあって、自然と荒くなっていた息を整えながら、爛れた返事を打ち始める。

『お返事ありがとうございます、ご主人様。質問にお答えします。①僕は恋人と同棲しています。お互いにゆっくり眠りたい時もあるのでベッドは別です。②本当に他人に見られてしまうのは嫌ですが、そういったスリルは大好きです。③恋人が出かけていて一人なので、最近溜まっているというのもあり自分のベッドの上でオナニーをしています。メールを送った後にすぐ始めてしまいました。下半身だけ裸です。まだイっていないのでちんこが勃起したままの状態です』

 これからよろしくお願いします、と打ち込んだ後、送信ボタンに触れる。顔が見えないとはいえ、第三者に自分の痴態を晒すことはかなりの羞恥心を伴った。けれど、それが愉しくて気持ちよくてたまらない。

「ん……っ、あぁ……♡」

 放置していたちんこを触って扱き始めると、抗いようのない快感が襲ってきた。元々感じやすい身体は素直に酔いしれていく。
 ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てて激しく追い込めば、すぐにその時は訪れた。

「あっ……、ふ、イっ、イっ……ちゃ……、んうぅっ♡♡」

 先端からビュルッと吐き出されたそれは僕の手をどろりと白く汚した。濃くねばついた白濁は量が多くて、手の中でぬちゃりと恥ずかしい音を立てた。

「……っ、ふう……♡」

 ……さあ、余韻に浸っていたいけど後始末をしないと。
 サイドボードに置いてあるティッシュで汚れた手と萎えた性器を拭い、ごみ箱にポイと投げ入れる。部屋にこもった独特な匂いは換気した後消臭剤で誤魔化した。

 今日はもう、この倦怠感に包まれたまま眠ってしまいたいな、とベッドに横たわったところで、またもやスマホからメール受信の音が鳴った。

「……っ!」

 一気に思考がクリアになって届いたメールを確認すると、そこには、僕への初めての調教指令が書かれていた。

『調教されたいと望んだ後にすぐオナニーに耽るだなんて、あなたには性奴隷の資質があるかもしれませんね。まだ射精していないとのことでしたが、もうイきましたか?まだならばあと30分我慢した後、全裸になってベッドの上で立った状態で射精しなさい。もしイったのであれば、服を着たままベッドの上でおもらしをしなさい。その際、身体の上に布団等はかけないこと。また、後片付けがしやすいよう下にタオル等を引いても構いません。終わり次第、出来るだけ詳しく報告をしなさい』

 …………ちょっと、これは。
 性奴隷って言葉にもぞくっとしたけど、初めてにしてはハードすぎる気がするような……?

 けれど、自分で志願した以上「やらない」という選択肢はない。もう射精してしまったから、やらなければいけないのは後者だ。

 ……いい大人が、自分の意思で漏らすなんて、倒錯的で背徳的で背筋がぞくりと震えてしまう。
狩屋が帰ってくる前に終わらせて、汚れたタオルはさっさと洗濯してしまおう。

「あ……」

 ……さっきまで特に感じなかった尿意が、唐突に湧き上がってくる。
 僕はこれから、子供のようにベッドの上で粗相をしてしまうのだと、そう思っただけでドキドキと胸が高まる。どうせなら限界まで我慢して一気に放出してしまおうか。それとも断続的に出してみようか。頭の中はそんなはしたない思考でいっぱいだ。

 最後の一欠片の理性が「こんなのは駄目だ」と訴えてきたけど、貪欲な本能によってあっさりとかき消されてしまった。

「っん、……はぁっ……♡」

 横になって目を瞑ると、押し寄せてくる尿意のことしか考えられなくなってしまう。
 内股を擦り合わせて股間をぎゅっと手で押さえ、必死に我慢する。
 さっき飲んだアイスティーのせいもあるんだろうか、出したいという欲求が止まらない。

「……うぅ、……おしっ、こ、出ちゃ……う……っ♡おしっこ♡おしっこぉ……♡♡」

 わざと声に出してみると、余計に興奮して自分を追い詰めてしまう。……ああ、もう、限界かもしれない。

 ふっと力を緩めようとした、まさにその瞬間。

 ──ガチャッ

 鍵の開く、音がした。

 そして。

「ただいまぁ~。なんか先輩達が揃って風邪引いちゃってまた別の日にやることになっ……、あれ?多々良ちゃん、もう寝ちゃった?」

 どくん。
 一際大きく心臓が跳ねた。

 なんで、どうしてこのタイミングで帰ってくるんだよ、狩屋……!!!

 狩屋がこの部屋に来るのも時間の問題、そして僕の尿意も限界でトイレに行くのすら困難な状況。
 明るいままの部屋を暗くする余裕すらない。だから、もう。

「(…………もう、だめだ……っ♡)」

 目を瞑ったまま、手をどかして全身の力を抜く。
 我慢という堤防がなくなったそれは、開放を待ち侘びたかのように一気に溢れてきた。

「(あ……、おしっこ、出てる……♡おもらし、しちゃってるっ……♡)」

 しょろろろと溢れるおしっこは、くぐもった水音を立てて下着を濡らしてスウェットもタオルもびしょびしょにしていく。お尻にまで伝ってくる尿が生暖かくて気持ち悪い。
 ……だけど、どこか気持ちよくもあって。僕は仰向けで寝たフリをしたままその快感に陶酔していた。

「多々良ちゃーん?……返事ないなぁ、開けるよー?電気つけたまま寝てん、……っ!?」
「(っ、狩屋……!あ、狩屋に……見られてる……っ!僕がおもらししてるとこっ、ぜんぶ見られてる……♡)」

 とうとう狩屋が部屋に入ってきてしまったというのに、僕の放尿は止まらない。それどころか見られていると分かった途端に勢いよくじょろじょろと漏れてしまった。

 恥ずかしい、すごく恥ずかしい。

 だけど、それ以上に興奮してしまう。もっと、もっと僕を見て、そして思いっきり貶してほしい。ぐりぐりとおしっこ塗れのちんこを踏んで、『お漏らし変態野郎』って罵ってほしい……♡

 ……水流がちょろちょろと細くなってようやく長い放尿が終わった時には、僕の下半身はぐっしょりと塗れていた。もしかすると、タオルに含みきれなかった分がシーツに染みているかもしれない。

 冷えてきたせいで、ふるりと身震いしてしまう。アンモニアのつんとした匂いが部屋に立ち込める。
 ……ああ、やってしまった。しかも狩屋の前で、盛大に。
 開放感と羞恥に見舞われながら、僕は今起きましたという体を装って、瞼をゆっくり押し上げた。

「っん……、……かりや……?」
「……っ!……目、覚めたぁ?」
「あれ、飲み会……だったんじゃ…………え、なんか、冷た……」

 予想していたより近くにいた狩屋の姿に驚いた後、僕は不思議がる素振りをしながら身を起こした。
 目に入ったのは、濡れた股間とシーツにまで広がった大きな染み。腰を動かすと、含みきれていなかった尿がぐじゅりと嫌な音を響かせた。

「ひっ……!?う、嘘、なんで、っや……やだ、狩屋、見ないで……っ!」
「っ……ほら、立てるか?」
「……え、狩屋……?……軽蔑、しないのか……?」
「はぁ?そんなことするわけないっしょ。まあ確かに……びっくりはしたけど。……なに、多々良ちゃんは馬鹿にしてほしかったの?」
「え、そ……、それは……」
「くくっ、冗談だよ。風邪引く前にさっさと風呂入っちゃえよ。そのままだと気持ち悪ぃだろーし。あっ、なんなら一緒に入ってやってもいーけど?」
「え……っ、遠慮するっ!」

 悪戯っぽく笑う狩屋は、おもらしをした僕を貶すことなく、徹頭徹尾身体の心配をしてくれた。嬉しいはずなのに素直に喜べないのは僕のこの性癖のせいだろう。馬鹿にしてほしかったのかと問われて、思わずイエスと答えてしまいそうになったくらいだから。

 ……一緒にお風呂に入るのも心惹かれるけど、今の状態じゃ絶対無理だ。一回イったのに放尿の快感でまた勃起し始めているちんこを見られてしまうのは……、流石にまだ、無理だから。

 ──身体を色んな意味でしっかり清めて、汚れた服やタオルやシーツの後始末を終わらせた後、僕は狩屋と一緒に、彼のベッドに横になった。

 明日、このことをサイトの管理人に報告しなければならないのだと思うと、妙に胸が躍ってしまう。

 狩屋の温もりに包まれながら、僕はゆるりと襲ってきた睡魔の波にそっと身を任せた。
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