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まくら
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その夜、ラナティンは村に集まった全員に腕によりをかけ小さな島国のフルコースをふるまった。
繊細な味と見た目の美しさに皆は舌鼓を打った。
食後には香りの良い茶が淹れられのんびりと過ごす。
かと思われたが、そうは問屋が卸さない。
「今夜はお泊まり会だね」
「枕投げしよー」
双子達は食後の優雅なひとときなど欲しない。
楽しいことと身体を動かすことが好きなのだ。
「枕投げとはなんですか?」
「島国の子供達が集団で寝泊まりする際に行う遊びだよ。ぼくも見たことはある」
ラナティンの質問にクヴンが答える。
クヴンはマリファに向かってこっそり舌を出した。
愛しい子供に智慧を授けるのは教育者だけではない。親もまた智慧を授けるのだ。
「島国では草で編んだ変わった床の上に直接寝具を敷くんだよ」
「寝台は使わないんですか?」
「そう。大広間に隙間なく敷いた寝具を陣地に見立てて、枕を武器に戦うんだ。それが枕投げ」
「物騒な遊びですね」
「でも見たかんじ楽しそうだったよ。ラナティンもやるよね?」
「やりたいです。けど……」
ラナティンはちらりとマリファとアルフォリダを見た。
智慧を与えられない悔しさで拳を握りしめていたマリファは慌てて掌をゆるめる。
そんなマリファを尻目にアルフォリダは言った。
「俺の怪我はもう治りかけだし行ってこれば」
アルフォリダに背中を押されて、ラナティンは双子達とクヴンと一緒にお泊まり会をすることにした。
泊まるのはアローネと双子達の家。
といっても、アローネは双子達に追い払われて今はいないが。
大きな寝台は邪魔なので部屋の片隅に寄せる。
板の床の上に四組の布団を敷いた。
枕はあればあるだけ楽しいだろうと、家中のクッションも集めた。
そして、陣分けを行う。
「ナフガルはぼくのチームね。ラナティンはナフマルと組んで。陣地はその布団が境界線。それじゃ、はじめるよ」
組分けは最年長のクヴンが適当に決めた。
枕投げはラナティンとナフマル、クヴンとナフガルで分かれて戦うことになった。
「恐らく、クヴンさんとガルくんは先制攻撃を仕掛けてくるでしょう。なので、こちらは守りに徹します。枕は投げずに盾にするんです」
「それじゃ、勝てないよ」
「いいえ。枕は有限。敵の玉切れまで耐えさえすれば、こちらに勝機ありです」
「さっすが、ラナティン。イカした作戦」
こうして枕投げは始まった。
しかしラナティンの予想に反してクヴンとナフガルは襲ってこない。
枕を高々と掲げてクヴンはこう言った。
「聞け、ナフマル。ラナティンを倒せば、今夜、あの子を好き放題にできるぞ」
ナフマルはクヴンの言葉で易々と寝返った。
三対一の戦いが始まる。
「クヴンさん卑怯ですよ」
「戦場に甘えは不要だもん」
「ならば、こちらにも手はあります」
ラナティンは叫んだ。
「明日の朝御飯は茄子会席に決めました」
その言葉に、茄子が苦手なクヴンの手が一瞬止まる。
そこにラナティンは全力で振りかぶった枕を投げ込んだ。
クヴンは顔面に枕を受けて沈む。
「僕を裏切るとは良い度胸ですね、マルくん」
「違うんだ。裏切るとかじゃなくて」
「言い訳は潔くないです。堂々と敵として倒れなさい」
続いてナフマルの顔面に枕がぶつかる。
「ラナティン待って。こうさっ……」
ナフガルが降参の白旗を振る前にラナティンの投げた枕が的中した。
こうして枕投げはラナティンの勝利で幕を下ろした。
枕投げが終わればあとは眠るだけ。
四組の寝具を敷いたというのに、四人で引っ付いて一枚の敷布の上に集まる。
さすがに狭いのでせめて二枚は使おうと真ん中で押し潰されていたラナティンは提案した。
ようやく寝やすい体制を作り、さて眠ろうかというところでクヴンは言った。
「ぼくは明日の朝帰るね」
「茄子が嫌なんですか? 他のものを作ります?」
「ちがうよ。ヒマヤタンがひとりじゃ寂しがるから帰ろっかなって。あっでも茄子よりトマトのオムレツが食べたいな。おねがい」
――クヴンさんが帰ってしまうのは寂しいけど、ヒマヤタンさん独りにしておくのもいけないですよね。
しょんぼりするラナティンをクヴンは優しく抱き締める。
「ラナティンも寂しくなったらいつでも帰っておいで あそこは君の実家なんだから。それとナフマルとナフガルもいつでも遊びにきて。家出先はいくらでもあって良いじゃんね」
四人は生まれたての子猫のように皆で一つにまとまって眠った。
こうして夜は更ける。
繊細な味と見た目の美しさに皆は舌鼓を打った。
食後には香りの良い茶が淹れられのんびりと過ごす。
かと思われたが、そうは問屋が卸さない。
「今夜はお泊まり会だね」
「枕投げしよー」
双子達は食後の優雅なひとときなど欲しない。
楽しいことと身体を動かすことが好きなのだ。
「枕投げとはなんですか?」
「島国の子供達が集団で寝泊まりする際に行う遊びだよ。ぼくも見たことはある」
ラナティンの質問にクヴンが答える。
クヴンはマリファに向かってこっそり舌を出した。
愛しい子供に智慧を授けるのは教育者だけではない。親もまた智慧を授けるのだ。
「島国では草で編んだ変わった床の上に直接寝具を敷くんだよ」
「寝台は使わないんですか?」
「そう。大広間に隙間なく敷いた寝具を陣地に見立てて、枕を武器に戦うんだ。それが枕投げ」
「物騒な遊びですね」
「でも見たかんじ楽しそうだったよ。ラナティンもやるよね?」
「やりたいです。けど……」
ラナティンはちらりとマリファとアルフォリダを見た。
智慧を与えられない悔しさで拳を握りしめていたマリファは慌てて掌をゆるめる。
そんなマリファを尻目にアルフォリダは言った。
「俺の怪我はもう治りかけだし行ってこれば」
アルフォリダに背中を押されて、ラナティンは双子達とクヴンと一緒にお泊まり会をすることにした。
泊まるのはアローネと双子達の家。
といっても、アローネは双子達に追い払われて今はいないが。
大きな寝台は邪魔なので部屋の片隅に寄せる。
板の床の上に四組の布団を敷いた。
枕はあればあるだけ楽しいだろうと、家中のクッションも集めた。
そして、陣分けを行う。
「ナフガルはぼくのチームね。ラナティンはナフマルと組んで。陣地はその布団が境界線。それじゃ、はじめるよ」
組分けは最年長のクヴンが適当に決めた。
枕投げはラナティンとナフマル、クヴンとナフガルで分かれて戦うことになった。
「恐らく、クヴンさんとガルくんは先制攻撃を仕掛けてくるでしょう。なので、こちらは守りに徹します。枕は投げずに盾にするんです」
「それじゃ、勝てないよ」
「いいえ。枕は有限。敵の玉切れまで耐えさえすれば、こちらに勝機ありです」
「さっすが、ラナティン。イカした作戦」
こうして枕投げは始まった。
しかしラナティンの予想に反してクヴンとナフガルは襲ってこない。
枕を高々と掲げてクヴンはこう言った。
「聞け、ナフマル。ラナティンを倒せば、今夜、あの子を好き放題にできるぞ」
ナフマルはクヴンの言葉で易々と寝返った。
三対一の戦いが始まる。
「クヴンさん卑怯ですよ」
「戦場に甘えは不要だもん」
「ならば、こちらにも手はあります」
ラナティンは叫んだ。
「明日の朝御飯は茄子会席に決めました」
その言葉に、茄子が苦手なクヴンの手が一瞬止まる。
そこにラナティンは全力で振りかぶった枕を投げ込んだ。
クヴンは顔面に枕を受けて沈む。
「僕を裏切るとは良い度胸ですね、マルくん」
「違うんだ。裏切るとかじゃなくて」
「言い訳は潔くないです。堂々と敵として倒れなさい」
続いてナフマルの顔面に枕がぶつかる。
「ラナティン待って。こうさっ……」
ナフガルが降参の白旗を振る前にラナティンの投げた枕が的中した。
こうして枕投げはラナティンの勝利で幕を下ろした。
枕投げが終わればあとは眠るだけ。
四組の寝具を敷いたというのに、四人で引っ付いて一枚の敷布の上に集まる。
さすがに狭いのでせめて二枚は使おうと真ん中で押し潰されていたラナティンは提案した。
ようやく寝やすい体制を作り、さて眠ろうかというところでクヴンは言った。
「ぼくは明日の朝帰るね」
「茄子が嫌なんですか? 他のものを作ります?」
「ちがうよ。ヒマヤタンがひとりじゃ寂しがるから帰ろっかなって。あっでも茄子よりトマトのオムレツが食べたいな。おねがい」
――クヴンさんが帰ってしまうのは寂しいけど、ヒマヤタンさん独りにしておくのもいけないですよね。
しょんぼりするラナティンをクヴンは優しく抱き締める。
「ラナティンも寂しくなったらいつでも帰っておいで あそこは君の実家なんだから。それとナフマルとナフガルもいつでも遊びにきて。家出先はいくらでもあって良いじゃんね」
四人は生まれたての子猫のように皆で一つにまとまって眠った。
こうして夜は更ける。
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