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終章
手続き
しおりを挟む辺境伯が国王に連れて行かれてから、スタンピードの規模は一気に縮小していった。
元凶が居なくなったからというのもあるけれど、リーダー格だったあの子が私のもとに来たことで、暴走自体が制御できるようになったのが大きい。
いくら人工的に起こしたスタンピードだったとしても、一度本格的に始まってしまったら、原因を排除したところでスタンピードは止まらないものだから。
今、あの子はあの森の中で待機してもらっている。どうしてもあの大きさだから常に一緒には行動できないし、できたとしても周りの人を怖がらせてしまう。
これでちゃんと領地をもらうことができたらあの子用の小屋でも立ててあげようかしら。それとも、あの森で生活してもらった方があの子のためかしらね。
この辺りはそのうちまた考えることにしましょう。
結局のところ、私としてはより良い結果になったことは事実だけれど、どうもこの国に戻って来てから国王の掌の上で転がされていた感じがして、何とも言えない気持ちになっているのだけど。
あの辺境伯に時期よく遭遇できたのだって国王が早めに行くようにと指示を出したからだし、そのあとの展開もどうしても先が見えているとしか思えないことが多い。
だからと言って私には不利益が出ていないからとやかくは言わないけど。
それで、今のところ国王からの私に対する褒賞、と言うか貴族籍に関する事とかはまだ終わっていない。いや、まあ、辺境伯に繋がっていた他の貴族とかの調査や確保、それに関する手続きとかに時間が掛かっているのは理解している。
そもそも、まだ1週間も経っていないのだから当たり前だけど。
で、正直私は今はかなり暇になっている。やることがないのよね。
褒賞の件で何時呼び出されるかわからない以上、下手に行動していると呼び出しに対応できないから仕方がない。
ただ、褒賞の授与とかは王都で行われるので、私たちは今王都に居るわけよ。
ぶっちゃけこの国の王都って政治を主にする場所だから、娯楽が多い場所ではないのよね。一応娯楽施設はあるにはあるけれど、それも何日も連続でやれる程面白い物でもないし、基本的に息抜き用の施設だから一度行ったらそれで十分と思う程度の物しかないよね。
「ロイド、飽きたわ」
「いや、それを俺に言われても」
うん。それはわかっている。……このまま、今泊まっている宿でロイドとイチャついていても良いのだけど、と言うか今まさにそんな感じだし。
今は2人でベッドに寝そべって、私がロイドの背中に抱き着いている感じね。もういっそロイドとあれやこれやするのも…いえ、駄目よね。さすがにまだ日が高いし、そう言う目的の宿ではないのだから、宿に迷惑、と言うか常識的に問題よね。
「…暇ね」
「そうだなぁ。と言うかここまで体を動かさないと、確実に今後の活動に支障が出るな」
「そうねぇ」
「なら、散歩でもいいから外に出て体を動かそうか」
散歩……動かないよりましかしらね。もう結構王都はここ数日で歩き回ったから、何か新鮮味のあるものは見つからないだろうけれど、宿の部屋でじっとしているよりはマシかしらね。
「そうね。そうしましょう」
そうしてベッドの上から体を動かし、軽く支度をしてから宿を出る。
「ん?」
宿を出て直ぐに前を歩いていたロイドが立ち止まって私の方へ振り向いた。何でこんなところで立ち止まるのか理解できなかった私は首を傾げる。
「じゃあ、行こうか」
そう言ってロイドが私に向かって腕を差し出した。
「あ、うん!」
そう言えば王都に来てから手を繋いだり、腕を組んで移動したりしていなかったことを思い出し、私は喜んでロイドの腕にしがみ付いた。
「え、ちょっ!? いきなり体重をかけるのは止めてくれ」
「いいじゃないの。ほら行きましょう?」
そして、この日に王宮からの連絡が来ることは無かったけれど、私としては充実した時間を過ごすことが出来た。
王都に来てから2週間が経ったところでようやく王宮から書状で連絡が来た。
連絡の内容は、スタンピード関連のことと、爵位授与の日程。スタンピードのことに関しては、それに関係した貴族の捕獲が完了し、処罰の内容についてもほぼ決定したとの事。日程に関しては2日後の昼に授与式をするため、王宮に来るようにと書かれていた。しっかり招待状らしきものも同封されている。
え? 2日後? いくら何でも連絡が来てから予定日までの時間が少ないと思うのだけど。
どうしてこんな日程になったのか。ああ、いや、たぶん授与式と書いてあるから、王政を担っている他の貴族の都合とかの可能性が高いわね。ただ、さすがにこんな急な日程だとは想定していなかったのだけど。
ん? 書状の下部に追記らしき物があるわね。えーと、服装などは整っていれば特に問題は無しと。一緒に居た男……ロイドに関しては、正式な国王との謁見に配偶者ではない男を連れで来ていると蔑まれる可能性あるため、連れてこない方が良い……と。
まあ、控室に待機していて貰うつもりだけど、さすがに授与式のばしょまで連れて行くつもりはないから問題はない……わよね? まさか、控室に連れて行くのも駄目なんてことは無いだろうし。
服装は整っていればいい、ってことは別に今着ているような過度な装飾はないけど作りは良い物なら大丈夫かしらね。でも、何かしらね、そこはかとなく嫌な気配がしてくるのだけど。
まあ、でも、それでいいと言うのならそれに従うまでだけど。
そうして、ちょろっと準備をしているうちに授与式当日になった。
「ロイドはここで待っていてください」
「事前に聞いているからそのつもりだよ?」
「誰かが入って来ても、何を言われても流されないで下さいね?」
「ええ? いや、あー、うん。わかったよ」
王宮内は魔境ですからね。最近は少なくなったらしいけれど、今でも相手の弱みを作るためのハニートラップとかはたまに発生しているらしいから。ロイドが流されるとは思えないけれど、何が起こるかわからないのよね。予防線は出来るだけ作っておかないと。
じゃあ、何で連れて来た、とも思うけどそれは出来るだけ一緒に居たいからだし、安心できるからに決まっている。
そして、私を呼びに来たメイドの後に着いて授与式の会場に向かうことになった。
授与式の会場……と言うか場所は謁見の間だった。まあ、国王から直接爵位を授与されるのだから当たり前か。
そうして少しの間、謁見の間の隅で待機をしていると、国王に呼ばれ私は国王の目の前で跪いた。そしてそれを見届けた国王が口を開く。
「この度のスタンピードを収束させた事、誠に大儀であった。褒賞として辺境伯の爵位を其方に授ける」
「承りました」
「よろしい。この決定に異議がある者は居るか?」
む? 何故このタイミングでそう問いかけるのだろうか。授与式をしているということは表立って反対している貴族は居ないということではないのかしら? 他の貴族の同意がないと新しく爵位を与えるのは難しいと聞いていたのだけど、もしかしてこれは国王の独断だった?
そんなことを思いつつ、周囲の反応を探る。どうやらこの国王の発言は予定外のものらしく、国王の近くに立っているおそらく重鎮の貴族たちにうろたえている様子はなかったけれど、他の比較的若い外見をしている者たちは少し狼狽えているようだった。
「私はその決定に反対させていただきたい」
そう言って参列していた貴族、といっても十数人だけだけど、その中から比較的若い人物が国王の前に進み出て来る。それを見た国王はその貴族にはわからない程度の小さな笑みを浮かべていた。
あ、これってもしかして、私、餌として使われた?
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